焼き畑農業
細かいギミックの話をすると迷いの森はエルフのカス共が侵入者対策に用意した結界だ。幾つかのエリアに区切られており、それが森の中の木々に擬態するように起点が隠されている。
正攻法による攻略だと法則を見極め、そしてどれが擬態しているのかを見つけ出して破壊する事で奥に進めるようになるのだ。その為森を破壊する事にペナルティはない。
これを悪用して木々が破壊可能オブジェクト、それも炎上可能である事を利用して放火しながら進むという手段が編み出された。1回放火すれば後は勝手にエリア内の木々に勝手に燃え移るので探して破壊する手間も省けるという攻略法だ。
名付けて焼き畑農業。【エタルカ】でRTAのみならずそこそこ遊んでいるプレイヤーであればあまりにもギミックの面倒さにこっちを優先するプレイヤーが多い。だって擬態トラップとか腐る程あるし、それを焼き払って解除できるなら当然そっちを選ぶ。
10割エルフのカス共の性根が腐っていて致死性のトラップをセットしている事が悪い。
ここまで危険なトラップや面倒なギミックを仕込んで引きこもるという事は何か重要な意味があるのでは? と思いがちかもしれないが、
「エルフはシナリオの都合上特に寄る必要もなく、引きこもってるので社会的な立場もありません。隠れて守らなきゃいけないものもなく、単純に自分が上位種であるというマウンティングだけで生きてるカスです。なので連中の用意した迷いの森は容赦なく焼いて進みましょう」
「エルフの森ってやっぱ燃えるもんなんだなぁ」
古今東西、エルフの森は燃えてから初めてエルフの森を名乗る事が許されるという事実はもはや誰もが知っている事だ。やったね、エルフのカス共。これで君たちもようやく一人前のエルフを名乗る事が出来るよ。
「という訳で森が焼けて行く中でギミックが自動的に焼け落ちて解除されます。それを利用しガンガン進みましょう。セーブ作成毎に抜け方が違うので、ここは焦らずに森が燃えるのを確認しつつ進みましょう。出口を間違えると戻されてロスです」
燃える森の中を結界の起点を破壊しながら移動する。モンスターも解き放たれているが、もはや相手にならないだけのレベル差と装備ステータス差がある。その為炎をばら撒いてダッシュしているだけで勝手に死ぬか戦闘回避ができる。
そうやって迷いの森のエリアを一つ、二つと突破すれば大きな川が見えてくる。
「川を渡ります。そのまま下流に向かって移動します。ここでは筏がこれ見よがしに置いてあって良し、これに乗って移動かな? と思って利用すると幻術によって隠された滝から落ちて死亡します。当然、エルフのトラップなので乗りません」
「殺意高ぇ……」
こういうことをやってるからカス評価なんだよ。
川を渡り、反対側に来たら川岸を下流に沿って移動する。目印となる少し形のおかしな岩を見たらそこから曲がって真っすぐ炎をばら撒きながら移動を再開する。周辺の結界の起点を破壊しながら更に森の奥へと向かえば、これまでは魔術的に隠されていた大樹が見えてくる。
「世界樹が見えてきましたね。この世界に魔法の源である魔力を与え、生み出し続けている大樹です。エルフは当然のように世界樹の根元で暮らしているのでその恩恵をほぼ独占して生きています。自分たちは世界樹の守り人とか主張していますが、ただ寄生して生きてるだけです」
「か、カス……!」
そういう所だぞ。だけど世界樹に寄生して生きる種族だからやはり優秀で強い。カスだけど。
「迷いの森を突破するとエルフの里であるエルヘヴンの入り口に到着します」
背後で炎上してる森を抜けるとエルヘヴン、木々によって編まれたエルフの里に到着する。ツリーハウス! ログハウス! 自然を利用した建築! だが中身は古代文明産のオーパーツで快適ハウジング! 伝統的なエルフハウジングなのはマジで見た目だけだ。中身はシステムキッチン等が搭載で凄い快適になっている。
そういう所だぞ。
「そこで止まれ! 人間……か? まさかここまでやって来れる様な奴がいるとはな」
「貴様ら下等種族が良くここまで来れたな。だがここから先に貴様らのような劣等種が通る事は出来ない。さっさと去るんだな」
「エルヘヴンに到着するとこのように守衛によって足を止められます。迷いの森でカスみたいなセキュリティを散々披露しているのに慢心せずに守衛を用意する辺り、相当臆病なカス種族である事が解ります。自分たちが根本的にマイノリティである事を理解してるからです」
にっこりと視聴者に説明してから守衛に視線を戻し、首を掻っ切るように親指でジェスチャーする。
「私は東国で玉藻を、大陸の最前線で魔族の大物を、そして海でリヴァイアサンを倒せたけど此処で大した活躍もせずに突っ立ってるだけの雑魚はその長い人生で何か一つでも意味ある事を成せました?」
「……こ、こいつ……!」
「へ、ヘイトスピーチ!」
青筋が浮かぶエルフの守衛に対して取る正しい選択は挑発。ここで引き下がる事を選ぶと中に入る事が出来ない。食い下がる事を選ぶと逆に入る為のフラグが立つ。
「貴様のような下等種族がそのような手柄を上げられるわけがないだろう!」
「やはり下賤な種族は偽るのが得意の様だ……身の程を教えてやる」
「逃げろあんたら!! バグらされるぞ!! まだ生物ジャンルのままでいたかったら逃げろッッ!! 武器かペットかミンチ肉にされるぞ!!」
素材にする旨味はないからやるとしたらミンチ一択なんだよなぁ、とは口に出さずにっこりと微笑むと、エルヘヴンの方から若い金髪のエルフが歩いてきた。
「お前ら! はるばるやって来た人を相手に何をしている!」
「ッ、これは王子!」
エルヘヴンの方から身なりの良いエルフの青年がやって来た。青年の前で守衛たちが膝を折って頭を下げた。村社会であるエルフの中ではカースト制度がバリバリ生きていて、上下関係は絶対になっている。その為、エルフの王子なんてものが出てくると従う他選択肢がないのだ。
「エルフの王子のルクディル王子です。このクソ田舎因習村社会の中でも奇跡と言えるレベルで人格の出来たエルフです。一定以上の名声を稼いでいる場合、ルクディル王子がプレイヤーの騒ぎに気づいて助けに来てくれます」
「私の事はご存じのようで。流石海竜殺しの英雄です。その勇名、このように人里から隔離された秘境でも轟いております。貴女の様な英傑がこんな所にまで足を延ばすなんて……光栄です。お前たち、その方々を通しなさい」
「はっ!」
「王子の慈悲に感謝しろよ、劣等」
守衛たちが横に退くと漸くエルヘヴンの中に入る事が出来る。エルヘヴンの入り口の向こう側で王子が微笑んで頷いた。
「ようこそ我らがエルフの里、エルヘヴンへ……外の方々にはあまり愉快な場所ではないかもしれませんが、滞在中は私の名で便宜を図っておきます。どうか気を悪くせずに見ていってください」
「基本的にエルフという種族は守衛たちと同じ思想で生きてますが、この王子は奇跡に奇跡が重なり聖人のように育ちました。この後王子を追いかける事でエルヘヴン改善クエストを受諾出来、まずは彼の人格オワコン妹姫との交流から始まり、少しずつ糞村社会を改善する手伝いが出来ます」
まあ、これはRTAではやらない要素なので皆自分のPCで購入してやって欲しい。最初はクソカスメスガキだった姫がツンデレデレになるのはまあ、割と刺さる人がいるんじゃないのだろうか。俺は受け付けなかったが。メスガキ好きじゃないんだよね。単純にストレス。
「言動にヘイトが隠せてないんだよなぁ……」
後ろからしゅいんしゅいんするジョック君の言葉に応える。
「これ実機でプレイしてた時の話ですが、エルヘヴン関連のイベント消化と勲章の為のコンプ作業はかなりの苦行でした」
「拙者もずっと見下されながらお使いクエストして、達成しても別に褒められるわけでもなかったクエストの数々は苦行で御座ったよ」
だからヘイトしか溜まらないんだよここ。それでいてトゥルーENDには来なきゃいけないという、ね。
ともあれ、村の中を突っ切ってそのまま世界樹の根元まで行くと、浮遊グリッチを使って一気に空へと向かって飛翔する。そのまま太い枝の上に着地したら方角を変え、再び浮遊して上の大きな枝へと移動する。
それを何度か繰り返すとひときわ外に突き出た枝の上に天文台の様な施設がある。
「ここがエルヘヴン天測所です。世界樹から供給されるリソースを惜しげもなく吸い上げているだけあって、世界最高スペックの天文台です。ここでは星の巡りや運航、そして空を飛ぶ数々の神秘を調べています。1.3.0では空中大陸が追加予定らしいですが、ここから派生すると予想されてますね」
「開発はまだまだアプデ予定があるという話で御座るからなぁ。拙者らは今でもかなり遊んでいるで御座るが、この先のDLCにも期待大で御座る」
「場合によってはチャートの大幅更新もあり得ますから目が離せません」
天測所の扉を抜けると数名のエルフの学者たちが視線を一度此方へと向けてから、再び自分の作業へと没頭して行く。名声値が低いとここで追い出されるのだが、もう必要分は稼いでるのでこの先を心配する必要はない。
天測所に踏み込んだらそのまま奥へ、階段を上がって上へと移動する。その一番奥、巨大な望遠鏡の前で椅子に座っている老エルフの姿がある。老エルフは椅子に座ったまま此方の姿を確認するとほう、と声を零す。
「これは最近外で名を轟かせる勇者ではないか。長らく異世界からの来訪者はなかったが、神はまた愚かな事に手を出そうとしているのか」
老エルフの言葉にジョック君が首を傾げる。老エルフの言葉には蔑みの意志はなく、どちらかという憐れんでいる様にさえ思える。
「天測所の所長は古代から生きているエルフで、エルフが全体的にカス傲慢エゴ種族へと進化する前の世代なので相当高齢ですが、逆に言えばコミュニケーションの取れるエルフです。それは同時に天上で全てを見下している本当のカス・オブ・カスを知っているという事でもあります」
説明口調に老エルフが面白そうな表情を浮かべる。
「ほう、その口ぶり……どうやら海竜を倒したのは偽りではないようだ。という事は海底の楽園も見て来たのか? ならば天上の愚神が何をしたのかも良く知っているだろう。アレはまた貴様らの様な存在を呼び込み何かを企んでいるのだろう……」
ふんっ、と老エルフが零す。
「それを覗き込んでみろ。貴様がもしも本当に勇者としての責務を全うするつもりなら……貴様が己を勇者だと思うのであれば、真に倒すべき敵は大陸の魔王ではない。天に座す愚神の方だ。所詮教会も魔軍も傀儡でしかない。真の敵を倒さずして平穏はない」
「許可を得たので望遠鏡を覗き込みます」
「うおっ、視界が切り替わった」
望遠鏡を覗き込めば自然と視界が切り替わる。望遠鏡のピントを合わせるミニゲームだ。左右に軽く回して調整しながらフォーカスを使ってピンボケしている景色をクリアにしてゆくと、霞む様に隠れていた建造物が空に見えてくる。
「見えたか? 奴はその空中庭園で世界の全てを見下している。誰が言ったか……馬鹿と煙は高い所が好きだとか。自分を至高として見てるからあのような場所に引きこもるのだ……」
「はい、これでトゥルーENDの条件となる裏ボス・カミヲカタルモノと戦闘可能になりました。ここで空中庭園を確認しない限りは座標へと移動しても存在せず、壁抜けなどのグリッチを駆使しても入る事が出来ません」
軽く老エルフに頭を下げたら素早く天測所の外に出て角度を調整しながら空中庭園の方へと飛行グリッチを準備しながら向き直る。
「本来であれば飛空艇かドラゴンを使わなければ乗り込めませんが、グリッチで飛んで解決します」
宣言してから良い感じの枝から体を射出して空を飛ぶ。これでこのRTAも残すところ2ボスのみだ。旅の終わりも近い……。
そう思って空に旅立ちながらふと、振り返る。
緑に包まれたエルフの森……炎に包まれた迷いの森……徐々にエルフの里へと近づき全てを燃やす勢いの炎……。この景色とも見納めかぁ。
炎に飲まれ始めるエルヘヴンを背後に、いざ空へ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます