究極人権無視合体

 何こいつら、とドン引きしながらも迷う事無く範囲魔法を選んでくる辺り玉藻は戦い慣れているのが良く解る。仮にも玉藻前というキャラクターは東国編のラスボスであり、実力だけなら大陸編のラスボスである魔王と同格だ。


 DLC補正もあって、大陸クリア後のプレイヤーが訪れる事も想定している分ギミックの面倒さと対処のしづらさだけならこっちの方が上だろう。まあ、大陸編のラスボスはリミットカットモードが全裏ボス中最強スペックなので純粋戦闘力は彼方だろう。


 だが玉藻には《掌握》がある。そして長年から来る戦闘経験もある。その設定の影響でAIは非常に優秀で、的確に弱ったキャラを狙い、連続範囲攻撃で弱らせてくる。


「とはいえ、ストッパー到達前の玉藻はそこまで脅威ではありません。大ダメージ攻撃、範囲攻撃共にスラキャン抜けで簡単に回避できる上に掌握によるキャラの奪取にも1体制限がかかっているので容易く対処できます」


「近う寄れ」


「拙者バリア―――!」


「このように1体のみを対象とするので、仲間を壁にすればステート攻撃といえども防げます。ここで最も重要なのは摺り足テイミングでテイミングを連打させる操作キャラクターを生存させる事です。それ以外のキャラと蘇生役の姫様は過労死させます」


 摺り足で体をカクカクさせながらテイミングを5連打、クリティカルを引けずにテイミング失敗。範囲魔法が飛んでくる為スラキャンで回避する。ジョック君が避け切れずにミンチになるが、置きリザレクションによって死亡した瞬間に蘇ってくる。


 当然、1回で玉藻の猛攻が終わる筈もなく。明らかに俺を狙って連続で炎、氷、風、雷、そして呪殺を狙ってくる。だがステートを取って攻撃してこない攻撃の為、スラキャンですり抜ける事が出来る。そしてその合間に混ぜてくる掌握を、


「拙者狐娘なら掌握されても大歓迎で御座るよ」


 サムズアップと共に西脇が庇い、そのままミンチになる。


「もう1発よ」


「ユージは渡さないよ」


 西脇を始末しながら摺り足でテイミングを放とうとすると再び掌握が飛んでくる。それに迷う事無く幼馴染がカバーリングに入る。マズい。既にテイミングモーションに入っている。ノータイムで幼馴染を始末する事が出来ない……!


「大丈夫、ユージの手は煩わせないから」


 そう言って大いなる幼馴染様は自分の胸に手を突き刺して自害した。ノータイム自害に玉藻どころか俺までドン引きした。唯一姫様だけが良くやったと言わんばかりの表情で頷いている。ふぇぇ……怖いよぉ……。


 幼馴染の奇行はともかく、今の一瞬で摺り足を挟み込む隙は出来た。蘇る肉盾共の背後でしっかりと玉藻を射程に捉えるようにテイミングを5連続で差し込む。最初の4つは当然抵抗され、最後の1回でクリティカルが発生する。


「クリティカル! 成功しました。いやあ、早めに成功して良かったですね。今回は全体的に成功率が良いのがうれしいですね。ご存じの通り玉藻はRPクエで過去の玉藻のキャラデータがある為、テイミンググリッチで玉藻を仲間にできます。RTAで東国編を絡める場合の基本ですね」


「え」


 テイミング成功を証明するエフェクトが発生し、玉藻が一瞬でテイム完了によってPTインする。それと同時にボスとしてのデータではなく、RP中に使用する若玉藻のデータが引っ張りだされるので、僅かに若返るように変化する。と言ってもビジュアル面の変化はそんなにないが。


「は? あ? 縛られてる? なんだこの呪は、妾が縛られている!? うぐっ、頭が痛い……!」


「こいつ、とりあえず敵を洗脳すればそれで勝てるって思ってないか……?」


 テイミングによる敵の加入は最も楽な勝利方法である事は確かだ。だがそれはあくまでもキャラデータが実在する時にしか使えないテクニックだ。だから中にはキャラデータをIFに紐づけるMODがあって、それをテイミンググリッチの活用で無理矢理仲間にするとかいう手段もあったりする。


 まあ、リアル環境にはMODも糞もないのだが。


 MODアリだったらリヴァイアサンは機関車ト〇マスになってるし、皇帝陛下もニコラ〇・ケ〇ジだし、姫様もケツの良いアンドロイドになってるだろ。なぜかは解らないがMODが作成される時は確実にこの3個が絶対に生み出される。


 頭を抱えて蹲る玉藻に近づきつつジョック君と西脇と世紀末覇者幼馴染を確認する。ちゃんと全員蘇生されている。姫様のMPもまあ、足りている。ここでクリティカルが中々引けないとMP枯渇から全滅の再走のパターンもあるのでMPが残ってるのは助かる。


「玉藻の撃破判定がこれで出るので、同時に未攻略だった東国各地のエリアも解放されます。これにより玉藻を含めた各エリアのボスの撃破判定が連鎖的に発生するので、東国救世主としての名誉を獲得し、名声が一気に稼げました! 実際、1シナリオ攻略分の名声です。漸くエルカス共に会いに行く準備が出来ました」


 東国を解放して漸く名声値が溜まった。長かった、あまりにも長かった。本来であれば大陸関連の名声稼ぎを片っ端からやって溜められるレベルの名声だが、玉藻スキップで東国を解放する事で必要量を溜めるルートじゃなければ何倍にも時間がかかっただろう。


 今回は全体的に名声もタイムも上ブレている。このまま大きなガバを出さなければ世界記録になるだろ―――無論、世界をリアルに救うRTAをやる人類が出てこない以上常に俺がトップだが。


「それでは玉藻が加入したのでこれで最強戦力を錬成する準備が完了しました。早速最強戦力を作ります」


 俺の言葉にジョック君がぎょっとした顔を浮かべる。


「ま、まさか……戦場の時みたいに尊厳凌辱ウェポン作るつもりか!?」


 ジョック君が玉藻と俺の手元を見て引いたように言うが、違いますと頭を横に振って否定する。


「武器は既に最強のものを用意できてるのでこれ以上アップデートする必要はありません。目的は最強戦力を用意する事です。玉藻を仲間にした事で可能となります」


 玉藻の前に立つと、頭を押さえていた玉藻の視線が此方へと向けられる。


「ご主人様……? ち、違う、お前は妾の比翼……? 違う、あ、頭の中に色んな記憶が、妾と、お前は一体……!」


「俺、思うの。絶対コレ絵面的に勇者が世界を救うシーンじゃないって」


 ジョック君の言動は無視して玉藻を掴んでそのままペット武器化グリッチで玉藻ウェポンを用意する。シャキーン、と武器化した玉藻を掲げる。


「玉藻は《掌握》を習得している事もあり、非常に強力なユニットです。RP専用キャラですがそれでも《掌握》の成功率は驚異の60%、ここから驚くほど仕上げて来たのが現代の玉藻Changです。あまりにも人気な造形からMOD闇落ち共闘ルートは人気名シナリオMODですね」


「その人気なキャラが今、お前の手の中で武器化してるんだが」


 玉藻ソードぶんぶん。まあ、今回は武器と合成する訳じゃないので次の素材を用意する。姫様の方へと視線を向けると姫様がにこり、と微笑んだ。なのでノータイムでペット武器化グリッチを姫様にも使用する。


「はい、これで長らくヒロインとペットを兼任してた姫様が武器になりました」


「や、やった! マジでやりやがった! やりやがったよこいつ!! マジかよ! やりやがった!!」


 姫様ソードと玉藻ソード二刀流。ここに尊厳凌辱ヒロインウェポンが揃った。ジョック君は発狂したし西脇はリアルにすると絵面が最悪だと苦笑してる。幼馴染は特に気にしていないご様子。流石は幼馴染様だぜ、お前のその不動の姿勢には何時も勇気づけられるぜ。


「武器融合グリッチを使って2人を融合します」


「わぁ……ぁ……」


 手の中の尊厳凌辱ウェポンを融合。出来上がったものを捨てるコマンドで装備品から除外する。ぺい、とインベントリから吐き出されると武器化が解除されて元のキャラクターとしての状態に復帰する。


「これにより姫様と玉藻を合成して、玉藻のステータスを引き継いだ姫様を作成する事が出来ます。これこそ姫様酷使無双チャートの真骨頂です。ベースとなったのが姫様なのでIDは姫様ですが、そこに玉藻のデータを加えてるので完全にデータ上はバグってますが運用出来ます」


 アルティメット姫様の完成だ。


「アルティメット姫様は玉藻のデータを組み込んでるので当然レベル99だし《掌握》も使えます。ここからの戦闘は全部姫様が《掌握》連打し続けて処理する事で終ります。これからは掌握するだけの機械になるんだよ! まあ、バグの悪用何でビジュアル面は何も変化在りませんが」


 視線を姫様に向けると、金髪巨乳で狐耳に尻尾を生やした和風ドレスの姫様の姿があった。


「MODとか絵とか輸入してればビジュアルの変化もあるんですけどね。まあ、流石にRTAでMOD導入するのはレギュレーション違反なので見送ります。そういうことでこれからもバニラ姿の姫様で我慢してください」


「節穴ァ―――! 節穴おい!! ちゃんと見ろ!! 横のお姫様を見ろ!! 変わってる!! 超違う! まるで別人! 生まれ変わった感じあるよ!!」


「大丈夫ですよ、ジョック様。妾は目的を間違えませんから」


「精神汚染されてるぅ……」


 よっこらしょっと姫様の肩に乗るともふもふの尻尾でサポートされる。これまで以上の快適な座り心地だ。これは残りのRTAが快適なものになる事が約束された。


「では新生姫様号が誕生した所で東国を出てエルフのカス共に会いに行く……前に船を調達し、そのまま海の底を目指します。東国の救世主となった今、船をレンタルするぐらいの名声は余裕で持っているので海を自由に移動するだけの権利を得ました」


 早速行くぞ! レベルが上がり、ボスと融合した事で姫様の敏捷値は大幅に上昇している。これが最強の乗り物である事を証明するように窓から脱出してそのままイン・ザ・スカイ。出島の港目指して再び空を飛ぶ。


 このRTAも、いよいよ中盤戦が終わる頃だ。地球が少しずつ見えて来たぜ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る