マゾッパリ狩り

「いやぁ、活きの良い奴が来たとは思ったがまさか負けるとはな……いや、マジで完敗よ。ほら、賞金とか諸々だ。ついでに俺特製のスキル秘伝書も持ってけ」


「という訳で個人戦制覇です」


 リザレクされたジェラルドから賞品を受け取りガッツポーズをとる。まあ、義務なので。義務なのだ! これで入手した名声を含めて帝都で入手しておきたいものはすべて入手した。受付前でガッツポーズをとっていると観戦に回っていたPTメンバーたちが合流する。


 早速姫様にー……パイルダーオン!


「この連戦でレベルは51まで上がりましたが、スキルをほとんど取得していない影響で敏捷値はレベル分しか上昇していない為、未だに敏捷は姫様のが上なので移動する時は素直にオン・ザ・姫しましょう。絵面が最悪な事以外は優秀です」


「解ってるならやめよ?」


 止めません。それよりもジェラルドから秘伝のスキルを貰ったのでそれを習得しよう。姫様を操作して早速闘技場から離れて行く。PTインしたそうな表情をしていたジェラルドを放置して。お前の席ねぇから!


「PTは6人でフルメンバーですが、ラス1枠はバグ活用や臨時メンバーの採用などで使用する為最後の1人は加入させません。それよりもお仕置きモードジェラルドの討伐報酬により《覚醒》スキルを習得しました。これは設定された条件を満たす場合に発動するスキルやパッシブを強化するスキルです」


 これをまず迷う事無くスキルポイントを10割り振ってマスターする。


「《覚醒》スキルはマスターする事で背水強化が入り、背水時のクリ率が5%から10%の2倍になり、また全ステータスが強化されるようにもなります。そのほかにも食いしばりを1回、リレイズを1回取得するのでガバ回避のためにも役立つスキルです。どちらも後々活用します」


「関所の時に欲しかったな」


 鋭すぎるツッコミに何も言い返せなかった。中々殺傷力の高い言葉じゃないかジョック君。それ以上の鋭さは求めてないぞ。


「闘技場を出て闘技場前の停留所に来ました。ここではファストトラベルが使用できます。名声によって行ける範囲が大きく異なってきますが、闘技場で帝国内における名声報酬の上限を超えたので帝国全域に対するファストトラベルが解禁されました」


 停留所に到着すると既に馬車がそこに停まっている。ゲーム的都合を考えればプレイヤーが何時でも利用できるようにそこにある訳だが。リアルではちゃんと動いてるのか? まあ、動いてるだろう。さっさと乗ってしまおう。馬車の御者に視線を向けると、御者が帽子を脱いで挨拶してくる。


「これは新チャンプじゃないか! あなたを乗せる事が出来て光栄だよ。帝国の端から端まで一瞬で送り届けるよ。どこに行くのかい?」


「帝国で名声を稼いだ結果、帝国のファストトラベルが解禁されましたが、一部地域は名声によってロックがかかって向かえません。その為徒歩で移動する必要があるのですが、今回は一気に最大まで稼いだので移動の手間が省けます」


 空を飛ぶのとファストトラベルの為に闘技場を利用するのとどっちのが早い? という話は最終的にファストトラベルでカットできる時間のが早いという結論が出てる。稼げる名声も大きいので、チャート的にこっちのが良いと思っている。


「アゼンタ台地へ」


「最前線の最前線ですね! へへ、お任せください!」


 馬車に乗り込むとPTメンバーが全員乗り込み、馬車が目の前の歩行者を轢き飛ばしながら進み始める。


「待て待て待て待て待てぇ―――!!」


 ジョック君が馬車の窓から轢かれた歩行者たちを確認し、前を見てからもう一度叫ぶ。


「待てやぁ―――!」


「吉田氏、オープンワールド系のRPGでは良く見る光景で御座るよ」


 ひひーん、がらがらがら……ゆっくりと馬車が動き出し、暗転する。次の瞬間には馬車が目的地に到着する。その変化をジョック君が周辺を見渡しながら頭の上に大量のはてなを浮かべながら飲み込もうとして、頭を抱えて蹲る。


「吉田氏、オープンワールド系じゃないRPGでも良く見る光景で御座るよ」


「聞いた! 聞こえた! さっき聞こえたわ! 何なら物理的に理解させられたわ!」


「わははは、良き戦争をなー!」


 馬車から降りると御者のおっさんが道に居た兵士を撥ね飛ばしながら街道を通って帰って行く。オープンワールド系のRPGあるある、NPCを弾き飛ばす乗り物がリアルにするだけでこんなに猟奇的になるなんて思いもしなかったなぁ。まあ、いっか。RTAしよ。


「アゼンタ台地に到着です! ここはクリちゃん陛下を筆頭とするヤバ戦力が暴れた結果台地になったとか言う意味不明な歴史を持つ地形をしております、もうちょっと環境の事を考えて戦え馬鹿。帝国が誇るバトルラインにおけるもっとも苛烈で最も難易度の高いエリアです」


「へぇ―――ぶへっ」


 へぇ、とジョック君が言葉を口にした瞬間前線の方から飛んできた矢がジョック君の頭を消し飛ばして即死させた。これはガバ……ガバじゃないなあ……。流石にこれは回避のしようがないわ。姫様が無言でリザレクションしてくれる。


「……解った。ここが危険地帯だってのは良く解った。魂で理解したわ」


「吉田氏? 拙者の後ろに隠れるの止めませんか? あそこが安置で御座るよ」


 ジョック君がダッシュで示された安置の中へと逃げ込む。既に西脇がここで何をするのかを理解しているのか、フェアウェル+アストラルチェイサー弓を取り出して判定重複バグを利用した攻撃回数の重複運動をし始めていた。


 普段ここは1人でやってる分、AI枠がしっかりとバグ活用してくれるのあったけぇ……。


 俺もアップのために判定重複バグを蓄積し始める。


「では事前運動をしながら説明すると、ここが帝国で最も激しくぶつかり合っている激戦区です。敵のレベルも最低で50、ネームドエリートクラスで60を超えてきます。最も強い3体のボスに関しては68もアリ、ほぼクリちゃん陛下と同等レベルの怪物も揃っています」


 つまりレベリングと名声稼ぎが非常に美味しいスポットという事だ。無論勝てるなら、という前提はついてくるが。そこはグリッチで突破する。横を見ると幼馴染がスラキャンで流れ弾を回避しながら攻撃判定蓄積してた。頼りになる~。


 ワンチャンこいつジェラルド突破しそうな気配あるんだよな……。


「流石に無理だよ」


 そっかぁ。


「相手のレベルがどれだけ高かろうがこっちはバグとグリッチで殺します。攻撃が命中さえすれば良いのでアクションRPGである以上、勝ち目は常に存在します。という事で相手を効率的に集める為のアイテムを借ります」


 てっぽてっぽてっぽダッシュする。陣地で機械を弄くってる兵士に近づくとお、と兵士が顔を上げる。


「もしかして俺が何をやってるか気になってる感じ?」


「 >はい 」


「はは、実は声を大きくして飛ばす事が出来れば広い範囲の味方に作戦を届けられるかなあ……って思って機械を作ったんだけど、良く考えたら相手にも作戦が漏れちまうからダメだって気づいてな! 個人携帯で連絡の取り合える道具があれば良いんだけど……」


「 >それ使っても良いですか?」


「お、これかい? まあ、失敗作で良いなら」


 でれれん。両手で掲げるように拡声器を掲げる。


「という訳でメガホンをゲットしました。この道具の真骨頂はヘイトスピーチを叫ぶ事で周辺の魔族……いえ、マゾッパリ共を一気に呼び寄せる事が出来る事です」


「へ、ヘイトスピーチ!」


 ワープで無理矢理安置から引きずりだされたジョック君、早速ツッコミを入れてくれる。お前無しだともう寂しいと思う体になっちまったんだよ。


「では必要な道具をそろえたので前線にGOGO!」


「行きます」


 ロイヤル走り! 陣地を飛び出すと無差別な砲撃と矢や魔法が飛んできて辺りで破壊が巻き起こる。ここら近辺は帝国軍が抑えているとはいえ、完全に安全とは言い難いエリアだ。クリちゃん陛下が前線で暴れていても前線のラインは常に前後している。


 と、思っていると戦場を駆け抜ける金色の姿が見えた。


「は―――はははは! どうしたどうした! 私を討てば帝国は終わりだぞ! 首を取ってみろ!」


 大剣二刀流をぶんぶんしながらダッシュで魔族をミンチにしているミンチメイカーが金色の閃光となって魔族を蹂躙している。レベル的にはそこまで大差はない筈だろうが、それでも持ちうる才能と器の格が違いすぎて勝負にならない。


「あ、クリちゃん陛下です! クリちゃん陛下がいました! うわ、直ぐに会えるなんてラッキーだなぁ」


「アレが皇帝陛下なの? あのマッドマックスで暴れていても違和感のない生物が?」


 ジョック君が前線で笑いながら暴れるミンチメイカーを指差す。はい、アレが帝国で一番ヤバイ男、闇落ちルート攻略中だと立ちふさがる最後の壁、裏の主人公とか呼ばれているクリちゃん陛下です。見ての通り、戦力値がヤバくて一人で戦線を支えてしまっている恐るべきヒューマンなのだ。


 たぶんヒューマン。ちょっと自信ない。


「む―――闘技場の新チャンプか」


 此方に目ざとく気づくと一瞬で近づいて気が付けば前に立っている。先ほどまでは悲鳴で満ちていた戦場も、ここら一帯を殺しまわった事で大分静かになっている。


「まさかジェラルドに勝てる男が出て来るとはな。逢えて光栄だよ……そして王国の姫君も、だいぶたくましくなられた様だ」


「いえ、私なんて勇者様や陛下と比べれば大したことなんてありません」


「すげえ……肩車してる王女と和やかに話してるぜあの人……」


「大陸一の器のでかい御仁で御座るからなぁ」


 器の大きさ、意味が違わなくない? まあ、ええか!


「陛下! これからマゾッパリ達を挑発して奥の方にいる連中を呼び出そうと思うんですが、一緒にフィーバーしませんか?」


「ほほう、余はワルツだけではなくヒップホップも得意だ、卿のスタイルに合わせて踊らせて貰おうではないか!」


 陛下が臨時でパーティーイン! これで戦力は揃った。後は魔族たちを挑発するだけだ。


「この拡声器の真骨頂は挑発する事でヘイト率を高められる事です。このバトルラインはコンテンツとして敵を倒す事で指揮官魔族のヘイトを稼ぎ、そして危険視し始めるPCを排除する為に動き出すのを迎撃するという事にあります。それを大幅に短縮できるのがこの拡声器です」


 雑魚を倒す→ボスを倒す→ネームドエネミーが出現する。基本的にこのバトルラインというコンテンツはこういう処理で敵を撃破して行く。無論、ネームドを召喚するには多数のボスを倒さなくてはならない。


 だが拡声器を活用すれば一気に全体のヘイトを稼ぎ、雑魚もボスも大量に呼び寄せる事が出来る。


「挑発する時はなるべく人の心を捨て去ったヘイトスピーチ極まった内容を叫ぶ方がヘイトが稼ぎやすいです。また、日本語よりも英語の方がヘイト判定が高めに設定されているので一時的にE言語に切り替えてからシャウトするのがお勧めです」


「E言語の方がヘイトワードの数とワードのヘイト範囲が広いので御座る」


 という訳で拡声器を手に持ち、口に当て―――すぅ―――。


「―――【あまりにも醜く恐ろしく人の心のない言動をしている為にこのメッセージは表示できません】【検閲されました】【非表示設定】【Censored】【見せられないよっ!】【NGワードが含まれています!】」


 陛下が爆笑しながら倒れた。

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