サプちけ
ドラン・モックスは悪党である。
ドランは自分が悪党である事を自負している。
「はぁ、酒がウメェ」
ソファに沈み込みながら雇い主の部屋から盗んできた酒を飲んで息を吐く。
商業連合は一枚岩から程遠い。だが金はある。そして金がある所に商売は成り立つ。魔軍によって世が乱れている今、商人たちはどうやって成り上がるかを必死に考えている。そしてそれは当然、合法的な手段のみを問わない。
ドランはそういう商人に雇われた悪党だった。子供の時に盗み、殺し、そして大人になって当然足を洗うことなく悪党を続けている生粋の悪党だ。それ以外の人生を知らないし、知るつもりもなかった。
「しかし王国を助けなくて良いのかねぇ」
王国の国境にある砦が攻略されない理由は簡単で、商業連合が兵を出さない事が理由だった。国境付近の土地を持っている商人たちは兵を出し渋り、魔軍が国境にとどまる事を良しとしていた。それで王国が弱まれば商機が生まれると踏んでいる。
「馬鹿な連中だ」
王国が落ちれば商機なんて言っていられないだろうに、こんなピンチでも金を稼ぐ事しか考えてない。それを愚かしいとドランは考えるが、彼もまた因果応報が待っている事実を一切考慮していない。総じて、商業連合の腐敗した人間はそういう形になっている。
ドランもこれまで上手くやってきた、そしてこれからも上手くやっていくと考えていた。
「ま、ここで程々に用心棒やって、それからもっと大きな所に取り入るかなぁ」
使い捨てる予定の部下たちに聞こえない様に呟きながら今いる商家を見捨てる事を考え、ドランが呟いた。一か所に入れ込むのはこの商業連合では危険だ。何時誰がどこで陥れようとしているのかが解らない。だから一か所に留まらず、渡り歩いて悪事を成す。
今の場所でもそれなりに暴れた。あの家の娘は具合が良かったし、去る前にもう1回味わっておくか……そんな事を考えていたドランの前に誰かが立っていた。
「おい、カスが邪魔……」
邪魔する部下をぶち殺してやろうかと剣に手をかけながら顔を上げた所で、目の前に立っている姿が決して部下の姿ではない事に気づいた。
ドランの前に立っているのは、血だらけの女だった。
同じく血だらけの男を肩車した女だった。
「????」
ドランの頭がフリーズした。え、なにこれ? どっきり? もしかしてなんかの企画? 俺様部下にサプライズされてる?
混乱するドランの脳がアルコールで上手く回らない中、肩車されている男が手を合わせてお辞儀した。
「ハイク読め」
「は? え? いや、お前侵入―――」
「と言いましたがタイムのロスになるので姫チョップで即死させます」
困惑するドランが復帰するよりも早く必殺の姫チョップが放たれる! 妖怪血だらけ悪党スレイヤーさんがコントロールする姫ボディは無駄にクリティカルを叩き出しながらドランの頭をカチ割る!
どかん! 頭が爆発四散! ドランは死亡した!
窓からこんにちわ! 死ね! して即座に脱出。これで名声が稼げるので美味しい美味しい。殺したら屋敷の警戒ゲージが爆上がりするので即座に脱出して次の賞金首を求めつつ東へ、帝国と最前線を目指すのが吉。
商業連合はこういう悪い商人が悪党を雇って悪さをしている、というパターンが非常に多い。何なら王国もその影響を受けていて、国境の砦に居座るゴブジェネを排除できなかったのは商人が水面下で足を引っ張り合ってて兵士の派遣を行えなかったからだ。
まあ、それも通常プレイであれば水戸黄門ごっこで商人ぶち殺しまわって兵士出せやオラ! と恐喝して王国との挟み撃ちであっさりと攻略できる。割とこれが正規ルートっぽいかなあ、という気もするがこのゲーム、オープンワールドだけあって選択肢は無数にある。
そして俺にとっての正解はもっと無駄がなく早いルート。
つまり商家連続スレイヤールートだ。
「これはサ・プ・ち・けと呼ばれる行動です。サプライズ! 勇者がやって来たよ! じゃあお前をちぎって蹴り殺すね……の略です」
「そうはならんだろ。そう略さないだろ!!!」
そうかなぁ。そうかなぁ? 俺好きだよ、サプチケ。
「ともあれ、商業連合のメインシナリオは悪代官……じゃなくて悪徳商人を成敗し、王国や帝国に協力的な商人の影響力を上げて人類の結束力を上げよう! という内容になってます。実際、ここで活躍する事で世界全体の景気が良くなってショップの品ぞろえがだいぶ改善されます」
序盤のカスみたいなショップの品ぞろえは商業連合関連のクエストをクリアしないと改善されないのだ。なのでショップでより良いものを購入できるようにするには、商業連合関連のクエストを達成して足を引っ張るカス商人共をあの世に売り飛ばす事が大事なのだ。
「まあ、こうやって用心棒スレイヤーして次の商家へと飛んでいくだけでも大分効果があります。というのもハイエナ戦隊ボウケンジャー連中が……お、用心棒死んだ? じゃあ残った商人は俺の手柄なー! とか言いながら勝手に突撃して全て粉々にするので」
「ハイエナ戦隊……」
「冒険者の皆さんも生きるのに必死ですから」
とはいえ、重要なのは商家が雇っている悪名高い用心棒をどれだけ無駄なく殺して回れるかという所である。最終的なエルカス共に対して必要な名声値に対して雀の涙程度の数字しか上がらないが、これは帝国での名声チェックに必要な稼ぎなのだ。
「という訳でここでは特に目新しいバグを使用せず、飛んで強襲して殺したら次の悪徳商人を破滅させに行きます」
「もう一種の妖怪だろこれ」
という訳で空を飛んで姫様をその都度大地に叩きつけながら再びIn the skyして商業連合を横断する。ここはRTAで言えば完全な作業ゲーパートだ。本当に端から端へと移動しながら事前に決めてあるターゲットの家にサプライズし、殺したらそのまま脱出するという事の繰り返しだからだ。
これを商業連合の国境を越えて、帝国圏に入るまで繰り返す。帝国に入ったら帝国の方で隠れている賞金首を幾つか殺し、闘技場で名声を稼いでから最前線に向かい、そこから今度は港に向かって海に出る必要がある。
海に行くのはVer.1.1で実装された東国へと向かう為と、海に出ないと隠しボスの1体の遭遇フラグを出す事が出来ない事。海底遺構の攻略はまだ戦力が足りないので後回しになる。基本的に隠しボスはHP%以下ダメージ無効みたいな反則パッシブ持ってるので倒すのが単純な手間だ。
その事前準備のために東国を攻略する部分がある。
「ちなみにこれは補足で御座るが、商業連合がワンパン出来る雑魚ばかりのように思えるで御座るが、実はそういう訳ではないで御座る」
ぶんぶんとワープして追いつきながら西脇が解説する。解説するのにも慣れているのか、空中で座りながら非プレイヤー勢に説明している。
「ヤバいネームドを雇っているところもいるで御座るが、それと遭遇しないルートを組みながら進んでいるで御座る。今の姫様だと一人では倒せないレベルの奴も中にはいるで御座るしな」
「そうなんですか? 装備込みで私も少々デキるものだと思いますが」
空中でパイルダーオンされている姫様が拳を握ってぶんぶんしている。それを見て西脇が頷く。
「確かに姫様はチート級の強さを持つキャラクターで御座るよ。戦闘力高く、スキルも優秀で蘇生魔法持ち、バフもデバフも出来る優秀なオールラウンダーで御座る。だけど根本的にPCとパーティーで戦闘する前提のボスでは強さの質が違うので御座るよ」
「基本的に敵の方が強く作れるのはまあ、そうじゃないとゲームが面白くないので仕方がありません」
「これ、リアルなんだけどな」
リアルもゲームもそう大した違いはないやろ! 今の状況では! と、姫様を乗り捨てて着地してからノータイムで再び姫様に騎乗し、セルフヒールさせながら窓から侵入し、ネームドの頭を姫チョップで切断したらそのまま窓の外から脱出し良い感じの段差を探して空を飛ぶ。
所要時間5秒、プロの仕事である。
「これは帝国の関所を通る時に必須の名声稼ぎなのですが、絵としては凄い地味なので配信中はトイレ休憩扱いされるのが地味な悩みです」
「俺はお前から目が離せないよ。色んな意味で」
ジョック君、こんなトイレタイムでもしっかりと俺の事を見てくれてるの!? トゥンク……ちょっとときめいちゃったよ。
完全に流れ作業と化しているスレイヤー旅だが、ちゃんとここで帝国へのルートを間違えないようにしないとならない。というのも今の状況、帝国は割と厳しく取り締まっているので違法入国すると普通に牢屋にぶち込んでくるのだ。
帝国さんは最前線を張ってるだけあってやはりそこら辺が非常に厳しい。というのも人類の最前線を維持してる連中なので当然と言えば当然だ。レベルだって高いし、装備の質も高い。だがやっぱり足を引っ張る連中もいるし、皇族も決して一枚岩ではない。
メインシナリオではそこら辺を突っつく事になる。そう、RTAでイベントを9割ふっ飛ばしているが基本的にシナリオは超濃密なのだ、このゲーム。今の所姫様に幻覚キメさせてロイヤル騎乗しかしてないけど。そろそろ王都で女騎士憤死してそう。
「と、商業連合の国境が見えてきましたね。王国から商業連合横断して次は帝国に入ります。帝国の関所は通るのに金、名声、そして身分の提示を必要としてきます。なるべく不審人物を国内に入れたくないんですねぇ。まあ、第2皇子が裏切り者なんですが」
「お前、もうちょっと情報の爆弾の投下押さえない? ダメ?」
どうせRTAしてればそのうち勝手に知る事になるだろうし今か後かの差だろうに。
と、HYOJから地面が見えてきた。距離を見極め、適切なタイミングで騎乗解除で地上に着地しようとし、
足元に小石があったのを見逃した。
「あ、やば」
騎乗無敵が小石を踏んだ瞬間に着地したと認識され解除される。同時に足首がグキ、っと音を鳴らしながら体が横に逸れる。
「あ、ガバった」
足首がグキった瞬間、HPが0になるのを感じた。
はい、今から死にまーす!
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