インペリアル調教クロス

 姫様を乗り捨ててシュゥ―――! 完璧な着地!


「はい、という事で国境付近にやってきました。ちょっと古めですがここら辺は平和なのであまり武力を必要としなかったが故、砦そのものもあんま大きく頑強でもないんですよねぇ……」


「まあ、勇者様国の事を良く解ってらっしゃる」


「鼻から血を流しながら笑顔でヨイショしてるよこいつ……」


「いやあ、嬉しくないヨイショで御座るなあ」


 パフェヒしようね? ちゃんと出来てる? 回復した? 良し! 君の体は君だけのもんじゃないからね……RTAに人権なんかあると思うんじゃねぇぞ!! お前の体はこれから何度も地面に叩きつけられるんだからなだから体を大事にしてください……はい……。


 という訳で、国境まで飛んできました。森を出て飛んで10分ほど! まあ、オープンワールド時だと3分ほどの距離だったけどこれがリアル化故の距離感という奴だろうか? 困ったなあ、場合によっては飛んでる時間が増えるかもしれない。


 しかし移動ロスをサクサク攻略する事で回収していこう。


 体をやや伏せるようにステルスの動きで移動し、近くの茂みで身を隠す。ここからは砦の姿が良く見えながらも此方の姿を隠す事が出来る為、絶好の偵察スポットになっている。スマホを取り出して時間確認、まだパターンは引けてない。


 イライラタイムだ。


「イライラタイムに突入するついでにちょい解説入れます。王国を脅かすのは大きく分けて2体、ゴブリン・ジェネラルと乳首死した偽司祭のカスの2体です。ゴブジェネが国境でにらみを利かせている間に偽司祭が内側から切り崩すという地味に殺意の高い作戦でした」


「ユージがあそこで倒してなかったらどうなったの?」


「お、未プレイのコメントが画面に流れてきましたね。初見にも解りやすいように説明しましょう」


「イマジナリー配信画面が見えてるらしいぞこいつ」


「RTAする時はスクリーンを眺めて御座るからな」


 一種の現実逃避なんだ、気にしないでくれ。世界救い終わってから現実に戻ってくる予定なんだ。それはともあれ、偽司祭を倒さなかった場合の話だ。


「偽司祭を倒さないという事はそのままシナリオ通りゴブジェネを倒して国外に進出、国内が安全だと油断しまくってる事に偽司祭が教会関連から人員を魔族に入れ替えて行くクーデターに見せかけて王都を陥落させます」


 最前線に到着する辺りで後方陥落! とか言うメッセージ出てくるので初見プレイの時は死ぬほどびっくりするし、当然とんぼ帰りする羽目になる。


「まあ、直ぐに戻って解決する分には問題ないんですけど、裏で地味にカルマゲージとか時間経過を計測していて時間がかかればかかる程ネームドNPCの類が処刑されて行くとかいう地獄のイベントだったりします」


 帰る前に死ぬほど増えたサブクエやるぜ! とかいう人は全滅した状態で王都に戻るハメになる。当然何も間に合わないので地獄の鎮圧戦が始まるのだ。


「という訳でゴブジェネと偽司祭のコンビは割と邪悪です。普通にプレイする分でも早めに処理しておきたいカス共になります。逆に言えばこいつらさえ始末すればもう王国が脅かされる事はないので、安心して国を出る事が出来ます」


「つまり、私がもう国に居なくても良い……という事ですね?」


「いや、終わったら国に帰れよ」


 ジョック君、真顔で王族にツッコミを入れる。この数十分でツッコミと度胸が急速に磨かれている気がする。一体何が君をそこまで成長させているんだ。お前は最初にサメに食われて退場する枠の筈なのに……!


 まあ、ジョック君の成長はさておき。


「という訳でゴブジェネ攻略です。基本的なルートだと王都から軍隊を派遣し、野戦をしつつ決戦パーティで砦に乗り込み、ゴブジェネと戦うという形になってます。当然軍隊を動かす都合上ゴブジェネにも動きがバレているので結構苦戦します」


 これを避ける為にも隣国である商業連合に迂回して入って、イベントをこなして援軍を呼び挟み撃ちにするとかいう事も出来たりする。


「ゴブジェネ君も賢いので偽司祭とはペンフレンドの仲で、勇者召喚や軍隊派遣、女騎士がフリーになったとかの情報を仕入れて対処してきます。序盤の山場なので。まあ、強敵です。ですがゴブジェネ君にも立派なガバ穴があります」


 スマホを確認する。時間はまだだ。


「それは無警戒状態だと自分で警邏をする事です」


「良い上司じゃん」


「部下だけに仕事させないんだ」


「優秀で有能な敵で御座るよ」


「私個人は殺意しか湧かないのですが」


 砦を確認する。勤めてるゴブリンたちの動きを遠巻きに確認し、パターンの変化を察知する。そうなるとそろそろだ。


「ゴブジェネ君は最低でも1日1回、無警戒状態の時に砦の城壁の上で周囲の警戒を行います。一番レベルが高く、索敵範囲が広いので部下が拾えない情報も拾えるからやってる……って感じの判断らしいですが、RTAではこれが死因です」


 それではと振り返る。


「これよりインペリアルクロスの陣形を取る!!」


「いんぺりあるくろす」


 ささっと姫様の横に移動すると、何をするのか解っている西脇と言わずとも理解する幼馴染が配置につく。フォーメーションを見てジョック君も直ぐにポジションについてくれた。


「そう、インペリアルクロスとは姫様を中央に置いて必勝の陣だ。全員で姫様を囲み、これから《調教術》のマスタースキルを使う。 スキルポイント10は振ってあるな? 行くぞー!」


 いっせーの。


「《調教》」


「《調教》」


「《調教》」


「《調教》うわああああ!?」


「ん、あ、んく」


 インペリアルクロスの陣形で調教のスキルを使う。これはテイムペット用のバフスキルであり、使役しているペットの能力を1.1倍にするというスキルだ。本来であればテイムされたモンスターにしか使用できないのだが、姫様はテイムで仲間にしたからカテゴリーが仲間/ペット扱いなのだ。


 なので調教系テイムスキル全般が姫様に通じる。ペットアリーナに出場させる事だってできるぜ! 何故かペット配合も出来るからじゃんじゃん子供も産めるぜ! 開発! バグ、直そうぜ!


 そういう訳で、俺達はスキルの発動に伴い王族を囲んで鞭を打ち始めた。スキルの演出が鞭でペットをバシバシと叩く姿なので姫様を囲んで虐めてるようにしか見えない。絵面最悪だよこれ! だけどRTAでは姿を取り繕う余裕などないのだ。


 まあ、名前がホモで固定される場合もあるしこれぐらいは軽い軽い。


「ロイヤル調教いっちょ上がりぃ! これで姫様には調教バフが4つかかって全ステータス1.4倍です! 同系統のバフは乗算ではなく加算式なので数字的にはあんまり伸びてない様に感じますが、装備込みで姫様のステータスはかなり伸びてるので問題ありません」


 それでもバフの効果時間は15秒、クールタイムは60秒。再発動までは面倒なので一発で決めて貰う。無限増殖されたファイアソードにバグでファイアソードをくっつけて、Wファイアソードにする。これで武器の攻撃力は軽く2倍になった。


 それを姫様に渡す。


「ではあそこに5秒後にゴブジェネが出るんで、投擲して当てて」


「無茶言うなお前。普通にいきなり投げて当てろっていわれてもムリだろ!?」


 ジョック君が無茶ぶりするなと言っているが大丈夫大丈夫、と抑える。俺だって最初はムリだと思ったがこれは既に数千回も繰り返してきた事なのだ。姫様のスペック上届く距離と十分な威力が保証されているので絶対成功させるだろう。


 姫様もWファイアソードを見てそれを手の中で軽くくるんと回して掴むと、茂みから立ち上がって右半身を下げた。


 Wファイソを握る右手を後ろまで限界まで引き―――腕の筋肉が全力で稼働しているのか、腕から背筋までがビキビキと音を立てている。


「3……2……1……ゴー!」


「ッ―――!!!」


 合図とともに全力の投擲が放たれた。空気を燃やしながら流星の如く煌めくバグ剣がそのまま砦の上、警邏に出てきたゴブジェネの頭に衝突し、一発で首から上を消し飛ばして即死させた。頭の亡くなったゴブジェネの体はそのままふらっとよろめいてから砦から落ちてくる。


「このように、RTAスピードで攻略しているとそもそも偽司祭の死の情報が王都から届いていないので警戒出来てないんすよねぇ」


 全力の投擲を終えた姫様が腕を下ろし、笑顔でてへ、と笑った。


「勇者様の指示を間違える訳がないじゃないですか」


 ジョック君と西脇が抱き合いながら震えてる。指示を完璧にこなしてくれる姫様……まあ、NPCナンデ当然だよね! これぐらいできなきゃ世界は救えないだろう。


「さて、ゴブジェネが死亡した所で残りの砦に務めるゴブリンたちですが……残りは統率の取れてない雑魚なので放置していても勝手に死にます。主に商業連合の傭兵やボウケンジャー達がわあい! ボーナスだあ! とか言いながら勝手に突撃して勝手に殺してくれます」


 ゴブジェネがどれだけ厄介なのかが良く解る話である。恐らくゴブジェネには統率力でゴブリンのカス知能をどうこうする力があったのだろう。まあ、死ねば関係ない話である。


「という訳でゴブジェネが死亡したので見事王国編クリアです。もう二度と戻る事のない国に皆! 手を振りましょう! アディオス!」


「お父様、お母様、私はもう故郷に戻れませんが……勇者様と同じ道を歩もうと思います」


「重い重い重い重い」


 終わったらちゃんと国に帰るんやぞ、こっちはちゃんと地球に帰るから。ペットの密輸は国際法で禁止されているからな。良い感じの段差を利用する為に歩きながら負位置をWファイソに保存させながら歩き砦へと向かって行く。当然、姫様に騎乗して。


「ではこっから再び飛行移動して商業連合に向かいます。商業連合は複数の小さな国が商売を通して繋がった同盟で、めんどいので皆商業連合国って呼んでます。ここは腐敗&腐敗の嵐で魔軍と内通しまくってる奴がたくさんいます」


「あ、だからこんな所まで来れたんだ」


 幼馴染の言葉にサムズアップ。商業連合の腐敗してる人たちが魔軍に内通してるからこんな簡単に国境を抑えられた、ってワケ。じゃあこれからどうするんか、という話。商業連合は特に果たすべき事がないので、


「通過しながらビンゴブックを埋めて行きます。大体腐敗してる人たちの家に匿われているのでこれからサプライズ勇者アタックで壁抜けして暗殺して脱出を繰り返して商業連合を通過します」


 見せてやるよ! 本当の無法って奴をよ!!


 という訳で砦まで接近すると気づいたゴブリンたちが襲い掛かろうとするが、その前に良い感じの段差から再びIn the sky。空に逃げてそのまま商業連合の方にぶっ飛ぶ。


 舞台は次なる国へ……!

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