199. 強さの本質
最近、オレは疑問に思ったことがある。
強さの本質とはなんだろう?
オレのように権力も才能もある者は当然、強い。
めちゃくちゃ強い。
だが、それはあくまでも結果であり、強さの本質ではない。
なら本質はなんなのか?
その答えは、運だと思った。
生まれながらに貴族である今世のオレは強運の持ち主だ。
生まれながらに弱者であった前世のオレは悪運の持ち主だった。
強さの本質は運だ。
強者は運があり、弱者じゃ運がない。
そして今のオレは強者である。
オレには運が味方している。
たしかに目の前の男はオレより強いだろう。
だが、それがどうした?
貴族として生まれたオレよりも運が良いのか?
生き返ったオレよりも運が良いのか?
否――断じて否だ!
オレよりも運が良いはずがない。
世界はオレを愛し、オレは世界を味方につけている。
ならば、この戦いの結末はわかりきっておろう。
この苦戦も最後にオレが勝つための布石でしかない。
「ニブルヘイム」
オレのもつ最強の魔法、ニブルヘイム。
オレはこの魔法を氷魔法だと思っていた。
しかし違う。
これは空間魔法である。
空間そのものを氷の世界に変える。
対して、ヘルの扱うヘルヘイムも空間魔法だ。
オレのニブルヘイムとヘルのヘルヘイム。
空間の奪い取り、陣取り合戦だ。
そこにヘルのムスペルヘイムの炎が加われば、オレが不利になるのは当然のこと。
なら、オレがやることは一つ!
奪い貸せばいい。
ふははははははははっ!
やはりオレは天才だ!
オレはさっき城の中でゲットした赤の宝玉を握る。
これはきっとすごい宝石だ。
みてわかる。
感じてわかる。
いまのオレの感覚は、以前よりもかなり鋭くなっている。
この魔石に大いなる力が含まれていることを直感で理解できた。
この魔石を使えば、オレが優位に立てる。
ふははははははははっ!!!
やはりオレは神に……いや、世界に愛されているようだ。
「覚悟しやがれ、クソ野郎」
オレは赤の宝玉をヘルに向かって投げた。
ふはははは!
宝石魔法、ブルジョア魔法!
くらいやがれ!
そして、
オレは放り投げた宝玉に魔力を込める。
「ニブルヘイム」
魔石を起点に
が――。
「ふぁ?」
なぜだ?
宝玉に魔力を込めたのに、オレの魔力が拒絶された?
どういうことだ?
まさか……くそっ、そういうことか……。
この魔石、まさかゴミだったということか。
ならば仕方ない。
オレのような貴族にゴミは似合わない。
「なんの茶番だ?」
ヘルがオレを睨んでくる。
いまの一瞬でオレのニブルヘイムが一気に削られた。
氷の空間が炎と闇によって侵食された。
一気に陣を取られたような感じだ。
「終わりだ、番犬。少しは楽しめたぞ」
ヘルが勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
勝利を確信したような笑いだ。
ふははははっ!
だがオレは知っているぞ!
「獲物を狩るときが一番油断する」
どっかの漫画でいっていた言葉だ。
オレもそのとおりだと思う。
ヘルはいま勝ちを確信して油断してやがる。
そういう状態が一番足をすくわれるんだぞ?
「貴様の出番だ、スルト」
「ああ、任せてくれ」
スルトに似た
なぜ貴様がそこにいるかは知らんが……やってやれ、スルトよ!
◇ ◇ ◇
スルトは最後まで悩んだ。
アークとともに戦うか、大切なものを守るために城に残るのか。
だが、
「あなたはここで止まる人じゃないでしょう? 本当はどうしたの? 決まってるんじゃない?」
そうシンモラに言われてから気づく。
アークを助けに行きたい。
闇の手に対する復讐のためではない。
友であり信頼する仲間であるアークを、マギサを、ルインを、そしてみんなを助けにいきたい。
それがスルトの答えだった。
シンモラに背中を押される形でスルトはアークたちのもとに向かった。
アークの居場所をラトゥから教えてもらったおかげで、大体の位置を把握していた。
そしてスルトは古城にたどり着く。
スルトの感覚は鋭く、原作では自力で認識阻害の結界が貼られた古城にたどりついたのだ。
結界が解けている古城を見つけ出すのはそう難しいことではない。
それに、
「ここまで死臭が強いのははじめてだ」
古城からは強烈な死の気配が漂ってきていた。
スルトが古城にたどりついた頃には、すでに激しい戦いが繰り広げられているときだった。
氷と闇。
アークとヘルの戦いだ。
アークのもとに向かっている途中でマギサたちを見つけた。
「私も行きます」
スルトはひとりで行くつもりだったが、マギサがついてくると言った。
ルインもカミュラも来ると言ってきた。
断ろうと考えた。
彼女らでは、あの戦いに割って入ることなどできない。
同様にスルトも行ったところで無駄かもしれないが、今いる戦力の中ではスルトが一つ抜けていた。
「わかった」
そもそも、いまこの場のどこにいても命の保証はない。
あとはもう自己責任であり、彼女らもそれを承知の上だろう。
それならスルトが彼女らの同行を断る理由はどこにもなかった。
スルトを先頭に、彼らはアークのもとに向かった。
湧き出る魔物たちを蹴散らしながら進む。
「――――ッ」
スルトがブルっと体を震わす。
嫌な予感がした。
いますぐにでもアークのもとに向かう必要があると感じた。
マギサたちを置いていき、一気に加速。
そして、たどり着いた。
「貴様の出番だ、スルト」
突如、わけもわからないままアークによって赤い宝玉を投げ渡された。
そこにはアークと、黒いローブの男がいた。
状況を理解するよりも早く、スルトは動く。
投げられた赤い宝玉を受取り、レーヴァテインの柄にある窪みに差し込んだ。
「――――」
次の瞬間、スルトの持っていた剣――レーヴァテインが光り輝く。
レーヴァテインには3つの窪みがあり、赤い宝玉をいれることでパワーアップする。
そしてはめ込まれた最後の宝玉。
レーヴァテインが完全な状態となった。
そして、レーヴァテインを振り下ろす。
「――ムスペルヘイム」
まばゆい光とともに放たれた炎が黒いローブの男――ヘルに襲いかかった。
無防備なヘルの背中に向かって放たれた必殺の一撃。
空間を焼き尽くし、ムスペルヘイムの炎がヘルに迫っていく。
ヘルは身の危険を感じて振り返り、
「くっ……」
ムスペルヘイムを防ごうと魔力を操った――その瞬間。
「このときを待っていた」
アークがいつもの不敵な笑みを浮かべて呟いた。
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