180. 古城

「ご苦労。二人とも」 


 ふははははは!


 なんかよくわからんが、視界がクリアになったぞ!


 さすがはマーリンとシュランゲだ!


 よくやった!


 なんかよくわからんが、よくやったぞ!


 ふははははっ!


 まさか城が隠されていたとはな!


 これは良い。


 ワクワクしてきたぜ。


 こういう隠しダンジョンっぽいところには秘宝が隠されていると決まってる。


 さっさと家に帰りたかったが、もう少しだけ遊んでから帰ろうか!


 これこそRPG!


「さあ、道は開けた! 夢を掴み取りにいこうか!」


 ふははははは!


 帰りがけに本当に良いものを見つけたぜ!


 これで大金持ちだ!


 財宝を手にしたら何をしようか?


 そうだ、あれがいい!


 領民どもに新型の農具を与えてやろう!


 それを使ってどんどんと生産量を増やさせ、オレが搾取する。


 最高だ!


 あとはあれだな。


 戦争で死んでいった者たちに金を恵んでやろう。


 オレのために頑張ったのだ。


 それぐらい報いてやらねばな。


 そうしてさらにオレのために働くやつらを増やしていく!


 ふははははっ!


 夢が広がるぞ!


 最高だ!


 ふはははははははははっ!


「若いのよ」


 マーリンが「よっこらせ」と岩に腰掛けながら話しかけてきた。


 その隣には目を押さえているシュランゲがいる。


「なんだ、老体」


「儂はお前の目的を知らん」


「はっ、目的か。そんなもの――」


「よい。言わんでよい。別に知りたくもないわ」


 なんだよ、こいつ。


 目的なんて決まってる。


 楽して生きていくこと、それがオレの目的だ。


 前世のように苦労ばかりの人生など懲り懲りだ。


 そのための金だ。


 金があれば楽に生きれるし、やれることも増える。


 まあ、今でも十分金はあるがな!


「一つだけ聞かせてくれ」


「なんだ?」


「この国は前を向けるのか?」


 はっ、なんだよ。


 意味がわからん。


 質問の意図がわからん。


 てか、そんなの知るかよ。


 そもそも、


「前を向けるかどうかは環境次第だ。環境が良くなれば勝手に前を向いて歩きはじめるだろ」


 前世のオレは最悪の環境にいた。


 後ろ向きなことばかり考えていた。


 しかし今はどうだ?


 伯爵という最高の環境を与えられた。


 だからオレは常に前を向いていられる。


 環境がすべてだ。


 勝ち組のオレは、生まれながらにして最高の環境を与えられている。


 ふははははっ!


「そうじゃな。お前さんの言う通りじゃ」


 マーリンが頷く。


 なんだがよくわからんが、わかってくれたよう。


 で、結局この老体は何が聞きたかったんだ?


◇ ◇ ◇


――ゾクッ


 カミュラは嫌な予感がした。


 背筋が粟立つというのはまさにこのことを言うのだろう。


 彼女は目の前にそびえ立つ城を見て、本能的な恐怖を感じた。


 認識阻害によって今まで気が付かなかった。


 気がついてしまえばもう無視はできない。


 濃厚な・・の気配。


 一歩でも踏み入れれば、もう元には戻れない。


 そう錯覚させるほどの圧力を、その古城は放っていた。


 死の神――ヘル。


 すべての元凶であり、ヘルを倒すことがアークの、そしてアークに従うカミュラの目的。


 このために今までやってきた。


 怖がっていてはいけない。


 進まないといかない。


 しかし、足が震えて動かない。


 だが、


「さあ、道は開けた! 夢を掴み取りにいこうか!」


 アークが周りを鼓舞した。


 カミュラはアークを見た。


 アークはこの濃密な死の気配を前にして、恐怖をまったく感じていないようだった。


 怖がっていてはダメだ。


 ここからの戦いはきっと今までの中で最も厳しいものになるだろう。


 それでも逃げることは許されない。


 カミュラにはプライドがある。


 覚悟してきたのだ。


 カミュラだけじゃない。


 干支のメンバーも、マギサやルインもこの戦いに向けて並々ならぬ決意を持ってきた。


――ぞわり。


 決意を固めたカミュラをあざ笑うかのように、黒い集団が押し寄せてきた。


 闇の手の軍勢だ。


 しかし、恐れるに足りず。


「問題ございません」


 カミュラはアークのように不敵に笑った。


 そうすることでなぜか力が湧いてくるように感じた。

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