130. 竜

 サボることは決めたが、どこに行こうか?


 うーん、とりあえず領地のほうに行こう。


 せっかくなら、もっと他のところに行ってみたいよな……。


 まあいい。


 とりあえずガルム領に向かいながら考えよう。


 豪華な馬車に乗って行く。


 貴族は最高だな!


「アーク様。私達は……もう戻れないのですね」


 マギサが悲壮感漂わせて言ってきた。


 そんなにサボるのが怖いのか?


 ふははははっ。


 真面目なやつだな!


 そういえば、前世のオレも真面目だった。


 学校を休むことはもちろん、仕事もサボらず真面目にやってきた。


 だが、その結果がクソな結末だ。


 真面目に頑張るとかクソ喰らえだ。


 この世界なら好きなようにやっても問題ない。


「もうずっと前から、私は戻るつもりはありませんでしたよ」


 あんな最期おわりはもう嫌だ。


 勘弁してくれ。


 二度目の人生なんだ。


 好き勝手に生きてやると決めたんだから。


 オレはもう過去の自分に戻るつもりはない。


「強いですね、アーク様は。私もそうあらねばなりません」


 いや、王女は真面目でいいけどな?


 まあいい。


 馬車の中は、少しだけ雰囲気が暗かった。


 そんなにサボるのが嫌ならついてこなければいいのに……。


 馬鹿なやつらだ。


 まあいいや。


 こいつらが好きでついてきただけだし。


 オレはオレで勝手にサボりを楽しもうではないか!


 ふははははははっ!


 しかし、やるなら徹底的にやらないとな。


 オレはシャーフに命じて、他人から見えにくくするようにさせている。


 見つかったら面倒だしな!


 馬車はシャーフの”消す”魔法によって、存在感を消されている。


 ついでにオレにも消す魔法をかけてもらった。


 完璧に存在を消すことはできないものの、遠くからはほぼ見つからなくなるらしい。


 これでオレは誰にも見つからないぜ!


 ふはははっ!


 最高のボイコットしてやるぜ!


 ◇ ◇ ◇


 戦争が始まる予感。


 カミュラは素早くロット侯爵が攻め入ってくるという情報を得た。


 ”指”は国の至る所に送り込まれている。


 当然、ロット侯爵のもとにも”指”が入り込んでいる。


 だが、ロット侯爵が攻め入ってくるだけでは戦争とは呼べない。


 せいぜい小競り合いだ。


 この小競り合いは後に来るだろう、戦争のきっかけに過ぎない。


 王派対第一王子・第二王女連合の戦争。


 今まで拮抗していたパワーバランスが、バベルの塔の事件をきっかけに崩れ始めた。


 そしてロット侯爵のガルム領への侵攻。


 これはきっかけに過ぎない。


 ロット侯爵を打ち負かすだけなら容易だ。


 問題は、グリューン侯爵がロット侯爵の味方をしたことだ。


 あそこは謎に包まれている。


 もともと、戦力はほとんどないと思われていた。


 無視しても良いほどであり、カミュラも深くは調べていなかった。


 つまり、優先順位を下げていたということだ。


 だがしかし、ここにきて竜の軍勢を隠し持っていたという事実が発覚した。


 竜とは世界最強の種族。


 もっとも厄介なことといえば、空を飛べることだろう。


 この世界の魔法技術では人は空を飛ぶことはできない。


 イカロスのような特殊な力がない限りは……。


 そのため、人類はいまだに竜に対し対抗手段を持ち得ないでいた。


 空の覇者、竜。


 それが敵側にいるということは、今後の戦いにおいてかなりにディスアドバンテージとなる。


「どちらにせ……まずはロット侯爵軍を徹底的に叩き潰さなければなりませんね」


 カミュラはロット侯爵領の方角を見つめながら呟く。


「しかし――」


 カミュラは知っている。


 アークがすでに動いているということを。


「アーク様を敵に回すなんて、敵に同情してしまいますね。

百手……いや、千手先を読むアーク様を前に、竜などただの空を飛ぶトカゲでしかないでしょう」


 カミュラはアークに絶対的な信頼を寄せているのだった。


◇ ◇ ◇


 竜。


 原作でも出てきていた最強種。


 闇の手の軍勢として登場し、主人公たちを絶望させた。


 主人公一行が北の辺境伯のところにいるときのことだ。


 アニメでは、第一軍が辺境伯に攻め入る回がある。


 第一軍は国王軍の中でも最も精強な部隊である。


 だが、辺境伯軍も負けてはいない。


 特に辺境伯軍は守りの戦いに優れていた。


 というのも、何度も北の異民を食い止めてきた経験があるからだ。


 対して第一軍は攻めの軍隊であった。


 最強の矛と最強の盾。


 それらがぶつかり合う戦いは、当初辺境伯軍が優位だと思われていた。


 辺境伯軍は城で迎え撃つことができるからだ。


 軍の規模は同じ程度であったため、守りに徹する辺境伯のほうが圧倒的に有利であった。


 しかし、結果は辺境伯軍の敗北。


 その理由が、竜だ。


 竜によって空を支配された。


 最強の地上部隊である第一軍。


 さらに空の覇者である竜の群れ。


 この2つから同時に攻め入られた辺境伯は、最後まで徹底抗戦したものの力及ばず……。


 主人公スルトたちは炎で燃える辺境伯の城を見ながら逃げ出したのであった。


 これが原作での出来事。


 しかし、この世界では闇の手のターゲットは辺境伯ではなくなっていた。


 いま最も厄介な敵。


 それはアーク・ノーヤダーマ。


 空を覆う竜の群れがガルム領に攻め入ろうとしていた。

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