105. ゲームはプレイしてなんぼ
場面が切り替わったぜい!
とある村に火の手が上がっていた。
轟轟と燃えている。
村が、建物が、そして人が焼かれている。
大量の魔物が人間たちを蹂躙している。
「村が焼かれてますね」
「ええ、そうですね」
「これもマギ様の望んだことでしょうか?」
「もちろんです」
業、深すぎるだろ。
どれだけストレス溜めてんだよ。
というか、もはや人間性疑うレベルだわ。
まあでも、これを現実でやられるよりはよっぽどマシか。
つまり、あれだ。
現実では色々と欲求をぶちまけたくてもできないことがあるだろう。
だから、こういうVRでぶちまけているわけか。
まあ人それぞれ、色んな欲求があるからな。
VRで欲求を発散させているだけでも、立派だと思うぜ?
「私がこの惨状を引き起こしたのですね」
ん?
あ、そうか。
この魔物も魔女マギサが従えているって設定だったもんな。
「そうですね」
「ふふっ。アーク様は優しくないですね」
そりゃあ、そうだろう。
オレは悪徳貴族だからな!
優しさなんて当然持ち合わせていない!
自分の好き勝手にやりまくってるだけだ!
「しかし、本当にひどい光景ですね。まさか、ここまで再現するとは……」
オーディンも気合が入ってるな。
それもそうか。
だって、バベルの塔で99階まで登れたのも、ここ最近いなかったらしいしな。
オーディンも暇だったんだろうな。
手が込んでますねぇ。
「しっかりと再現してくれなきゃ、意味がありませんよ」
それもそうか。
中途半端なフルダイブはむしろ萎えてしまうだろうしな。
人がまた一人と殺されていく。
大の大人が魔物に食い破られていく。
内蔵が飛び出てきた。
……リアルすぎるだろ。
さすがにこの光景は酷い……。
この光景を本当にマギが望んでいるのか?
いや、なんかそれは違う気がしてきた。
オレの天才的な見立てでは、マギサの望みはおそらく「ストレス発散」だ。
しかし、この光景を見せられては、ストレス発散どころかストレスが溜まるだけだろう。
つまり、だ。
「この世界に入り込むこと。それがマギ様の望みじゃないですか?」
やはり、ゲームは自分がやらないと面白くない。
見るだけではつまらない。
「無理ですよ、そんなこと」
「でも、それならなぜそんな悲しい顔をされてるのですか?」
マギの表情が苦しいものになっていた。
もどかしいような、そんな表情だ。
わかるぞ?
この光景を見せつけられて、自分がゲームに参加できなくてもどかしいのだろう?
「……ッ」
まさか自分でも気づいていなかったのか?
オレにはわかる。
マギはゲームをもっと楽しみたいのだ。
魔物をフルボッコにしてストレス発散したい。
おそらく、それがマギの望みだろう。
人を助ける喜びと魔物をフルボッコにできる快感を同時に得られる。
それこそがこのVRでマギが望んでいるものだ。
「こんなクソ仕様の世界。とっとと変えてしまいましょう」
「え?」
「変えたいんじゃないですか? 私はもう我慢できません。こんな世界見ているだけなんて」
「でも、私にはそんな資格ありません……」
「誰が決めたのです? 資格なんていりませんよ」
ゲームをやるのに資格なんていらない。
本当にこのVRを見ていることしかできない?
そんなクソ仕様な仮想現実があってたまるかよ。
ゲームってのは自分がプレイして楽しんでなんぼなんだよ。
見ているだけのVRなんてクソの役にも立たん。
魔物が村の人々を蹂躙している。
次々と殺されていく。
1人、2人と……。
目の前で子供が魔物に追われている。
「せっかくならこの世界、楽しもうじゃありませんか?」
オレは右手に魔力を込める。
そして、
「――死ね、クソ魔物野郎」
子供を襲おうとしていた魔物を一撃で仕留めた。
「……ッ!?」
マギが目を見開く。
そして子どもの視線がオレに向かう。
まるで幽霊でもみたかのような顔をしている。
続いて、魔物たちがオレに気づく。
血の香りがオレの鼻孔を刺激する。
ああ、なるほど。
これでようやくこの世界に降り立てたというわけか。
「ほら? できたでしょう? マギ様」
オレはニヤリと笑みを浮かべながら、マギに手を伸ばす。
マギがオレの手を握る。
「私と一緒にこの世界を救っていきましょう」
ゲームの醍醐味は、自分が主人公になって敵を倒すことだ。
ゲームの主人公として世界でも救ってやろうじゃないか!
ふははははっ。
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