95. ルサールカ

 精霊使いドルイドの生き残り、ロスト。


 ロストの目的は、森の一族を滅ぼした存在を見つけ出すことだ。


 ドルイドは、というより、森一族は排他的な種族だ。


 とある女が現れるまで、彼らは百年もの間、他種族からの干渉を断っていた。


 森の中で静かに暮す種族だった。


 ロストはまだ小さい頃、森で迷ったことがある。


 その際に、一人の少女――セミークに助けられた。


 ロストはお礼にセミークを村まで案内した。


 それが約百年ぶりとなる外からの来訪者となったのだ。


 来訪者はロストたちに色々なことを教えてくれた。


 最初は警戒していた村人もいつしか心を許すようになった。


 森の一族は美しいものを好む。


 その女は美しかった。


 精霊使いドルイドは知識を持つものを好む。


 セミークの知識量は膨大だった。


 彼らが知らないことをたくさん知っていた。


 そしてセミークは賢かった。


 すぐにドルイドの知識を吸収していった。


 そうして3年もの間、セミークは森の一族の一員として暮らした。


 その頃には、セミ―クは村の一員として完全に受け入れられていた。


 だが、彼らは忘れていた。


 なぜ、百年もの間、他種族からの干渉をっていたのか。


 それはかつて精霊使いドルイドが予言したのだ。


 来訪者が悪いモノを引き寄せてくる、と。


 その予言を彼らは軽視してしまった。


 そしてまもなく、セミークによって村は滅ぼされた。


 正確にはセミークが原因で村が滅んだのであり、女が滅ぼしたわけではない。


 セミークは外のモノを連れてきてしまったのだ。


 森に棲息していた、精霊を。


 ルサールカという邪悪な精霊をその身に宿して。


 ルサールカに乗っ取られた女を、森の一族たちを支配し、モノに変えてしまった。


 そうして村が滅ぼされた。


 100年以上も続いた他種族からの不干渉。


 守り続けてきた教え。


 守り続けてきたことには確かに意味があったのだ。


 そんな中、奇跡的にロストだけは生き残った。


 多くのものを失って、一人だけ生き残ってしまった。


 ロストにとって、村は大切な場所だった。


 大切な人たちを奪われてしまった。


 その喪失感を埋めるように復讐心が芽生えた。


 原作のロストがアークと仲が良かった理由は2つある。


 一つはスルトがロストにとっての”運命の人”であったこと。


 スルトと一緒にいれば、ロストは復讐の相手と出会うことができる。


 そう予言に記されていた。


 だから原作ではロストはスルトと仲良くなっていた。


 しかし、この世界では、ロストはアークを”運命の人”だと勘違いしていた。


 そのため、積極的にスルトと関わる理由がなかったのだ。


 そしてもう一つの理由が、スルトが同じ復讐心を持った存在であることだ。


 傷を舐めあえるような存在。


 同じ傷を知っている存在。


 だが、この世界でロストはスルトと馴れ合うことはなかった。


 それはアークのせいであった。


 アークのせいでスルトの復讐心は弱くなっていた。


 ロストにとってスルトは、居心地の良い相手ではなくなっていた。


 ロストは徐々に一人になっていった。


 だが、それで良いと考えていた。


 ロストは一人になることで、自分の目的に集中することができた。


 そうして、ロストは着実にルサールカに近づけていった。


 村を壊した精霊、ルサールカ。


 そのルサールカがいま、フレイヤという女性の体に入っていることを突き止めた。


 ロストはアークの言葉を信用している。


 なぜなら、アークが”運命の人”であるからだ。


 運命の人がロストをルサールカのところまで導いてくれる――予言ではそう出ていた。


 運命の人であるアークがフレイヤを”黒”だと言った。


 フレイヤがルサールカで間違いないだろう。


 ロストはそう考えた。


 ルサールカは人に寄生し、フレイヤという女の皮を被り、人のふりをしている精霊だ。


 人のふりはできても、人ではない。


 人ではないから、人間の倫理観から外れたことを何の迷いもなく行える。


 そんな存在が人間社会で地位を築いているのは、恐怖でしかない。


 復讐のために、そしてこれ以上被害を大きくしないために、ロストはルサールカを自らの手で倒そうと決意した。


 と、そのときだ。


 突如、白髪の少女が現れた。


「やあやあ、ロストくん。はじめまして、私はシャーフ。キミの目的のために、ちょっとだけ手伝わせてくれないか?」

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