84. 学園長
学園とは平等であるべき。
それが学園長のモットーだ。
平等とは、すなわち中立であるということである。
第一王子・第二王女連合派と国王派が対立している。
近頃、内戦に発展するだろうと言われていた。
そうなれば魔法学園も無関係ではいられない。
どちらに付くかも考えなければならない状況であった。
だが、学園長はどちらの味方をするつもりもなかった。
あくまでも学園は学ぶ場。
中立を貫く。
学園の生徒を戦争に巻き込みたくはなかったし、学園を学ぶ場から変えたくはなかった。
学園長が学園を平等にしようと考えたのも、彼の過去が起因していた。
学園長はもともとバベルの塔の研究員をやっていた。
そこで二人の友人と出会った。
イカロスとラプンツェルだ。
気兼ねなく話せる友人であり、何度も議論を交わした。
魔法の話がメインであったが、ときには国の今後のことなども話した。
とはいっても、結局は魔法の話になる。
魔法を今度どのように発展させていくか。
それに対し、学園長は魔法を広く普及させることこそが、魔法の発展につながると考えていた。
学園長の考えは二人から、青臭いと否定された。
意見の対立、というよりは考えの相違だろう。
個人主義であるバベルの塔では、魔法は普及させるものではなく独占するものだと考えられていた。
学園長はそんなバベルの塔のあり方に疑問をいだいていた。
もっといえば、魔法を独占しようというこの国の考え方が好きではなかった。
魔法学園の時代から、結局、魔法は持てるものだけの研究であった。
一部の者が既得権益のように魔法を独占するのはいかがなものかと考えていた。
そのせいもあって、バベルの塔では傲慢な者が多く、自身の研究のために他者を貶めようとする者も大勢いた。
その現状に嫌気が指し、いつしか自分の研究によって魔法を発展させるよりも、魔法が発展する土壌をこの国で作りたいと考えるようになった。
しかし、イカロスは学園長の考えを鼻で笑った。
そんなことをして何の意味がある?
自分の研究に自信を持てないから逃げたのであろう?
学園長は馬鹿にされようが、自分の夢のためにバベルの塔を離れ、魔法学園に来た。
そうして魔法学園に来てからというもの、全てが順調だった訳では無いが、少しずつ魔法学園を変えることができた。
シャーリックを首席で卒業させたのも、彼の成果の一つだ。
平民が首席など、今までではあり得ないことだった。
そうしてアークやマギサといった、平等を謳う者がやってきた。
二人の努力もあり、魔法学園は大きく変わっていた。
学園長が目指したものが少しずつ実現していった。
そんな折、アークがバベルの塔に行きたいと言い出した。
今、アークは渦中の人である。
国で大きな動きがあり、アークはその中心にいる。
そのアークがバベルの塔に行きたいと言ったなら、何かしらの理由があるのだろう。
学園長はあくまでも中立を維持したいと考えている。
しかし、平等を実現するためにアークが尽力してくれた事実も変わらない。
そう考え、学園長はアークの提案を受け入れた。
この時点で、学園長は無意識にアーク寄りの考えをしていたのだが、あくまでも中立を保とうと考えていたのだ。
学園長は自らもバベルの塔に行く決断をした。
バベルの塔にはイカロスとラプンツェルがいる。
イカロスはバベルの塔で塔長をやっている。
だが、ラプンツェルは行方不明になっていた。
ラプンツェルがどこにいるかはおおよそ想像がつくが、いまの学園長では見つけ出すことができない。
「もしかしたらアーク君なら……」
学園長はアークならラプンツェルを見つけ出し、救い出してくれるかもしれないと考えていた。
つまり、学園長が留学を許可したのには、彼なりの考えがあってのことである。
結局彼は、中立を保ちたいと言いながらも、自分の私利私欲のために動いていた。
「私を塔に留学させていただければ、あなたが望んでいるものを手に入れて参りましょう」
学園長はアークにそう言われ、自分の考えを見破られているようで少しだけ恥ずかしさを覚えた。
「アーク君はとんでもない生徒ですね。末恐ろしいどころじゃない。もうすでに恐ろしいですよ」
学園長はアークを恐ろしいと感じていたのだが……。
もちろん、アークは何も考えてなどいない。
何も考えていないアークが過大評価されているという事実が、最も恐ろしいことだろう。
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