48. 守られた名誉

 オレはスケルトンを見下ろす。


 こいつなんだったんだ?


 結局、なにがしたかったんだ?


 わからん。


「貴様の知り合いか?」


 オレはエバに問いかける。


 エバはじっとスケルトンを見ては、小さく首を振った。


「……いえ。知りません。知らない人です」


「そうか」


 ふーん。


 まあいいや。


 本人がそう言うなら、オレがとやかく言うことではない。


 だがまあ、骸骨のやつ魔物のくせに良い顔して逝きやがる。


 伯爵のオレに直々に殺されるとは、あいつも運が良い。


 良い仕事したぜ。


 とまあ、乱入者のことはもうどうでもいい。


「それで、メデューサよ」


 オレはメデューサに顔を向ける。


「……なんでしょう?」


 メデューサのやつ、ボケーっとした顔をしてやがる。


「乱入者はいなかくなったぞ。さあ、存分にやり合おう」


「? なにを……」


「決勝戦に決まっておろう。それともあれか? 貴様は棄権でもするのか?」


「……」


「オレは構わん。どうせ結果は変わらんしな。オレが優勝するのは必然。過程が変わるだけだろう」


「……言ってくれますね」


 メデューサが意思のこもった目でオレを見てくる。


「このメデューサ、全力でお相手いたしましょう。ゴルゴン家に名にかけて。

間違って私が勝ってしまっても、文句は言わないでくださいね」


「はっ。万が一にもないことだろうがな。せいぜいオレを愉しませてくれ」


 メデューサよ、オレの舞台を飾る名脇役を演じてくれよ?


 脇役が活躍するほど主役は映えるからな!


◇ ◇ ◇


 仕切り直しで行われた、アーク対メデューサの決勝戦。


 優勝はアークであったものの、アーク相手に健闘したメデューサも讃えられ、学生のレベルを大幅に超えた二人の戦いは、伝説の試合として後世に語り継がれることになる。


 さらにこの試合を通して、メデューサの名声は高まり、同時にゴルゴン家の名誉は守られることとなった。


 原作では、メデューサの暴走によってゴルゴン家は立て直しが効かなくなるほど失墜したのだが、またもやアークの介入によってシナリオが変わったのである。


 さらに今大会、一般人の死者はゼロ。


 原作のシナリオでは到底考えられない結果となった。


 それもすべてアークの原作介入があったおかげである。


 クリスタルエーテルの奪取、干支を使った闇の手の者からの襲撃阻止、そしてナンバーズ骸の殺害。


 すべての鬱展開を食い止めたアークは、鬱展開クラッシャーと言えるだろう。


 もちろん、アークは鬱展開を阻止しようなどとも1ミリも考えていない。


 ただ好き勝手に動いただけである。


 その結果、勝手に周りが救われているだけだ。


 しかし、周囲の者はそう受け取らない。


 アークに忠誠を誓っている者たちはアークに対してより忠誠心を高め、アークに忠誠を誓っていない者たちはアークの慧眼に感服した。


 本来の原作では、あり得なかった展開。


 本来であれば、鬱要素満載の胸糞展開になるはずであった。


 こうしてアークは無自覚に原作の鬱展開をぶっ壊していくのである。


◇ ◇ ◇


 ふぅ。


 ようやく魔法大会終わったぜ。


 まあ結局、オレが称賛されるだけの、オレにとって都合の良いイベントだった。


 やはり、オレは恵まれている。


 この世界はオレにとって超イージーモードだ。


 伯爵は最高だな!


 なんか学園の奴らや騎士団っとやらが、乱入者の件でオレに問い合わせてきた。


 だが、知らん。


 オレが知るわけがないだろう?


 面倒だから、対応は全部カミュラに丸投げしといた。


 あ、そういえば……。


 カミュラのやつ、テスト盗むのに失敗しやがった。


 エムブラに遭遇したとかなんとか。


 まあそれなら仕方ない。


 だが、テストは面倒だ。


 と思ってたら、ラトゥがテスト用紙を回収してくれていた。


 さすがラトゥ。


 こいつ、カミュラよりも諜報に向いてるよな?


 まあいいか。


 カミュラもカミュラで良い仕事してくれるしな。


 ラトゥのやつ、エムブラが持っていた他の資料も回収したようだ。


 魔女に関する資料や闇の手の者に関する資料を発見したと報告してきた。


 その中に闇の手の者たちの首領の情報もあったとか。


 たしか首領はヘルと呼ばれる男らしい。


 いや別に、そんな情報いらないんだが……。


 魔女とか闇の手の者とかそんなことよりも、オレはテストさえ乗り越えればなんでもいい。


 ラトゥが盗んできたテストのおかげで、オレは余裕でテストを乗り越えられた。


 ふはははは!


 これぞ権力!


 やはり伯爵は最高だ!


 そういえば、エムブラは教師を辞めたんだとか。


 理由はわからん。


 人間関係が嫌にでもなったのか?


 学園に通うクソガキ共を教えるなどストレスでしかないだろう。


 平民は仕事があって大変だな。


 まあオレのような貴族は、仕事なんてせずに領民の血税で楽して生きているけどな!


 貴族に生まれてこれて良かった!


 と、そうこうしていると、一年が終わって長期休暇が訪れた。


 ふはははは!


 今度の長期休暇は誰にも邪魔されずに優雅に過ごしてやるぜ!


第二章 新入生編 ――完―― 

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