46. 奪う者
時は少しだけ遡り。
地下では、カミュラがスルトとロストを拘束していた。
彼女の鎖は二人では打ち破れない。
「エムブラ様。どうぞクリスタルエーテルを奪ってください」
「裏切るのか!?」
スルトがカミュラを睨みつけた。
「裏切る? 私が信頼も信用もしているのはアーク様だけです」
言外に、お前たちなど最初から信頼していないと伝えるカミュラ。
「……ッ!?」
「……」
怒りをあらわにするスルトに対し、ロストは考え込む。
アークの行動には意味がある、とロストは考えている。
しかし、情報が足りないため、いまここで考えたところで答えは出なかった。
「アーク君は果たしてどこまで知っているのでしょうか?」
エムブラがカミュラに問いかける。
「さあ。どうでしょうね?」
カミュラもアークが何をどこまで把握しているのかは知らないし、知っていたとしてもそれを教えるつもりはない。
そもそもカミュラはアークから詳しい話を聞くことはほとんどない。
もちろん、エムブラに関してもアークからは何も教えられていない。
だが、エムブラが何者であるかは、カミュラはおおよそ把握していた。
前回の演習での事件から、カミュラは諜報部隊を使ってエムブラの情報を集めていたのだ。
「
カミュラの問いかけに、初めてエムブラは余裕の笑みを崩した。
「……そこまで把握されているのですか」
「あなたはあまりにも目立ちすぎました」
「本当は目立ちたくはないのですが、状況が状況です」
「ことを急ぐのには、それなりの理由があるのでしょう?」
「ええ。なので早くクリスタルエーテルを頂きたいのですが。頂いてもよろしいですか?」
クリスタルエーテルと闇の手の者の暗躍。
この2つの事実から、これから起こるであろうことは容易に推測ができる。
カミュラの目的は予想されるだろう被害を止めること。
エムブラの目的はクリスタルエーテルを手に入れること。
この瞬間だけは、カミュラもエムブラも目的は一致していた。
「もちろんです」
カミュラはアークから「もしエムブラと遭遇したら、(クリスタルエーテルを)素直に渡せ」と指示を受けている。
「では、頂きます」
エムブラはカスルトたちの前で、あっさりとクリスタルエーテルを奪い取ったのだった。
◇ ◇ ◇
拾弐の亥――エバ。
彼女は会場の観客席からアークと骸の戦いを黙って見ていた。
骸がアークに倒されてからすぐ後に、展開されていたフィールドが解除された。
それと同時にフィールドに充満した魔力が一点、骸に集中していく。
そして直後、骸の体が再生された。
否、それは再生と呼ぶにはあまりにも異様な光景だった。
骸の体から肉が削げ落ちていく。
観客は目を背けたくなるようなグロテスクな状況だ。
一言で言えば気味が悪い。
死者蘇生はもっと美しいものであるはずなのに、目の前で広がる光景は禍々しさしかない。
そして、
――カタカタ
骸が動き出した。
カタカタカタカタ、と奇妙な動きをする骸。
そう、それはまさにスケルトン。
「――――」
エバは無言で会場へと降り立った。
そしてアークと骸との間に立つ。
メデューサは突っ立ったまま、呆然とエバを見ている。
「アーク様。お下がりください。ここは私が引き受けます」
エバの役割の一つにアークを護衛することがある。
無論、アークが守られる存在ではないとわかっているが、それでも彼女の役割はアークを守ることにある。
「どけ。オレの晴れ舞台を邪魔するなよ、エバ」
「はっ」
「こいつはオレの獲物だ。オレが
「かしこまりました」
アークの命令は絶対だ。
エバは頭を深々と下げてから、アークの後ろに下がる。
「死者が未練タラタラに現世にしがみつくなど、死神とやらは仕事をサボってやがるようだな」
アークが骸に向かって言い放つ。
「ならば代わりに、オレが貴様を黄泉の国へ送ってやろう。
光栄に思え? なんせ伯爵が直々に送り届けてやるのだからな。
あの世で自慢すると良い。アーク・ノーヤダーマに
エバは表情があまり動かない。
それはすべてハゲノー子爵の実験のせいである。
もともと表情豊かな少女だった。
もしもいまエバの感情が表に出るとしたら、どんな表情を浮かべるだろうか?
それはエバ自身にもわからない。
「カタカタ」
骸の骨と骨をぶつかり、音が鳴る。
エバは骸を見た。
エバと骸の視線が重なる。
エバには、骸の淀んだ瞳が少しだけ光ったように見えた。
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