4. 妹

 オレにはひとつ下のクソ生意気な妹がいる。


 クズな両親のクズな部分を引き継いだような妹だ。


 生意気が人間の皮を被ったようなやつだ。


 わがまま言い放題でクソ生意気で、クソむかつくやつだ。


 両親が生きている頃はそれで良かった。


 いや良くはないが、まあ両親が甘やかすから放置しておいた。


 だが今はダメだ。


 この家のモノはすべてオレのモノだ。


 使用人だってオレのモノだ。


 そんなオレのモノを好き勝手使うのは許さん。


 無駄な贅沢をするのも許さん。


 贅沢をして良いのは領主のオレだけだからな!


 それにクズな両親に似ている妹を見るのは気分が悪かった。


 というわけでオレは教育という名の調教を始めた。


 まずはブクブクに太った見にくい体を変えさせた。


 使用人に食事を管理させ、昼間には外を走らせた。


 嫌だと言ってきたから、さらに食事を減らさせた。


 使用人を殴るクセがあったから、それも矯正させた。


 オレの使用人を殴るなど許せん。


 オレが代わりに妹をぶん殴った。


 妹はギャーギャー泣いたが、


「痛いだろ? 貴様はこの痛みを他人に与えていたのだ」


 と説教してやった。


 人に説教するって気分がいいぜ。


 ちなみにオレがぶったときに「お父様にもぶたれたことがないのに!」と言って妹が泣いていたから、つい笑っちまった。


 その他にも領民と一緒に農作業をやらせたり、大嫌いな勉強をさせたりと、オレはあらゆる調教を施した。


 そのおかげで最近の妹はかなりマシになった。


 とりあえずクズな両親の面影はなくなった。


 調教は成功したようだ。


 やっぱり権力って最高だな。


 だが教育をしすぎたせいか、妹はよくわからない方向に進んでしまった。


 農作業をウキウキとし始めたり、使用人との距離が近かったり、勉強を楽しいと言い出したりし始めた。


 調教しすぎて頭が壊れたのか?


 まあいい。


◇ ◇ ◇


 エリザベート――ノーヤダーマ家の長女でアークの妹である。


 原作では、多くの領民を虐殺したと言われている。


 さらに彼女は自分が一番美しくないと許せないたちであった。


 美しい娘たちを集め、幽閉し、殺し、血を浴びて喜ぶようなキャラであった。


 常に自分が一番美しくありたいと願っていた。


 願いのために美しい者たちを虐殺していった。


 さらにその悪行が進み、様々な拷問道具すらも作り出していった。


 拷問道具で美しい少女たちを醜い姿に変えていった。


 原作ほどまではいかないものの、この世界でも彼女は悪女として育っていた。


 両親の醜い部分をそのまま引き継いだような子供だった。


 いや、両親以上に醜い性格をしていた。


 使用人を物のように扱い、鞭を打って高笑いしていた。


 勉強は馬鹿がするものだと考えていたため、無知でもあった。


 無知ゆえに自分が愚かだとも気づかなかった。


 そしてアークに殴られるまで、殴られると痛いということを知らなかった。


 アークに教わるまでは、無知で無能で愚鈍な少女だった。


 そして今の彼女は、以前の自分を恥じていた。


 もしもあのまま成長したら、とんでもなく無知で傲慢で嫌味な女になっていたことだろう。


 そうなったときに一番苦しむのは自分自身である。


 誰も嫌な女に近づこうなんて思わない。


 鞭で打っても、権力で屈服させても、恐怖で脅しても、結局何も手に入らない。


 彼女が本当に求めていたのは、血でもなければ権力でもないからだ。


 本当に欲しかったのは、笑いあえる関係。


 信頼しあえる関係だった。


 今は農民と一緒に農作業するのが気持ちいいと感じている。


 使用人と一緒に笑い合うのが心地いいと感じている。


 知らないことを覚えるのが楽しいと感じている。


 キレイな体を保つのが嬉しいと感じている。


 どれも昔の自分だったら絶対に感じなかった喜びだ。


 そんな喜びを教えてくれたアークに、エリザベートは感謝していた。


 最近貴族の社交パーティーに出ると、よく男たちから声をかけられるようになった。


 でも、誰を見てもときめきがなくなった。


 彼女の目には苦労を知らないボンボンにしか見えなかった。

 

 見た目が良くても、中身が伴っていない者ばかりだ。


 昔の彼女なら、見た目が良ければなんでもよかったのだけれど。


 中身など二の次だった。


 彼女の考えが変わったのは、もちろんアークのせいだ。


 アークは8歳で爵位を授かり、ボロボロだった領地の立て直しを実施した。


 そして皆無だった領民の信頼を一気に勝ち取ったのだ。


 そもそも8歳で爵位を授かること自体がかなり稀なことだ。


 基本的には爵位を授かるのは成人になってから。


 爵位とはその地位にふさわしいと認められたときにはじめてなれるものだからである。


 アークには今までに多くの苦労があったと思う。


 そんなアークの近くにいたせいで、エリザベートは社交パーティーに出てくる貴族の子息がただのボンボンにしか見えなくなってしまった。


「すべてお兄様のせいですよ。責任とってくださいね」


 彼女は隣にいるアークに聞こえないようにつぶやいた。


◇ ◇ ◇


 悪の兄妹。


 アークとエリザベートの二人を指す言葉だ。


 この二人は中盤、アニメの中でコンビとして出てきた。


 もちろん主人公の敵として、だ。


 エリザベートが初めて登場したのは、アークが二度目に主人公と対峙するシーンである。


 そして、このシーンは鬱展開としても有名だ。


 原作開始直後、彼らの領地は闇の手の者と呼ばれる集団によって占領されるのである。


 二人は軍勢を率いて主人公たちに立ちはだかる。


 その際、アークとエリザベートは闇の手の者によってキメラに改造されている。


 彼ら二人は文字通り、一心同体となる。


 ケルベロスのような、アーク、エリザベート、犬の3つの頭がある化け物として登場する。


 二人には自己再生の術式が身体に組み込まれることになる。


 もともと魔力量が多いこともあり、死にたくても死ねないという事態が発生する。


 世にも醜い化け物として主人公たちの前に立ちはだかり、主人公たちにトラウマを植え付けることとなる。


 アーク兄妹は、超絶バッドエンドを迎えるキャラたちなのである。


 ちなみにエリザベートは一部のマニアから人気があった。


 エリザベートの顔をAI使って痩せさせたものが絶世の美女になったからだ。


 二次創作では「エリザベートを痩せさせてみたら美少女だった件」というのが人気を博した。


 図らずしもアークは、エリザベートに二次創作と同じことをやったのだった。

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