003 家に入り浸っている隣の幼馴染がいつの間にか通い妻になっていた。

「(ピンポーン)

(ガチャッ)

あ、こんにちは。今日も暑いね。結構汗かいちゃった。

…あ、うん。今日もお裾分け、持ってきたんだ。

………

いえいえ。私が好きで持ってきてるんだから気にしなくていいよ。

…中身?

うふふ、今日は何でしょう?

………じゃん。肉じゃがでーす。

前に君がおいしいって言ってくれたからね。また作ってきちゃった。

ちゃんと、お肉もたくさん入ってるから大丈夫だよ。

…ううん。一人暮らしって大変だもんね。

私も一人暮らしだけど、実家近いから親のありがたみが結構しみてるんだよね。

君の方の実家って、かなり遠かったよね?

………新幹線で3,4時間かー。それは遠いね。

でも、私が隣にいるから大丈夫だよ。料理に家事洗濯、困ったことがあったら何でも言ってね。

………

お礼って…別にいいよ、いまさらそんなの。

昔から付き合いのある君だし。全然いいって。

…あー、じゃあそうだなー…

次は何が食べたい?

………

ううん。私にはそれがお礼になるの。

君がおいしいって言ってくれる時の笑顔を見るために、こうして作ってきてるんだから。

…はいはい、お粗末様です。

じゃあまた、今度何か作ったら持ってくるから。

それじゃあね」



「………

うわー、何この惨状。どのくらい放っておけば部屋がこんなに汚くなるの?」

………2か月って、掃除しなさすぎだよ。

もっと前に私に言ってくれれば、こんなことにはならなかったのに…

はいはい。じゃあ始めるよ。

とりあえず君は、床のごみを捨てるところからやってね。

………

………

………

…洗濯物もこんなにいっぱい…

ちゃんと洗ってるの?

1週間に一回って…普通毎日洗うものだよ。

上着もズボンも……下着も。

……え、それは自分でやるって。

別に、君の下着なんて気にしないよ。

小さいころから何度見てると思ってるの。

まとめて洗わないと水道代だってもったいないし。

ほらほら、さっさとこっちに返して。

…って、洗剤も切れてるし。

しょうがないなー、もう。

ちょっと私の家から持ってくるよ。

………

………

………

うーん、こう掃除してるとさ。なんかいらないもの多くないかな?

イヤホンが5つくらいあるし、封が開いてない漫画が何冊もあるし………って、なにこれ、プロテイン?

もう、あんまりムダ遣いしすぎちゃだめだよ。

………

『お母さんみたいだ』って、君のお母さんじゃないよ、もう。

そうやって話をごまかさない。

君はもうちょっと、家事とかできるようにならないとダメだよ。

料理だって、私がいないとすぐ適当に済ませちゃうし。

ハンバーガーとかコンビニ弁当だけじゃ栄養偏っちゃうんだよ?

ちゃんと自覚してる?

…もう、私が付いてないと本当にダメなんだから、君は」



「(ガチャッ)

あ、おかえりー。

今日もお疲れさま。ごはん、もうちょっとでできるからね。

それとも、先にお風呂入る?お湯は沸かしてあるけど。

………そう。ごはんね。じゃあちょっとだけ、待っててね。

………

………

………

はい、どうぞ。

今日は君の好きなオムライス~。

あ、ちょっと待って、食べさせあげる。

…はい、あ~ん。

…って、ここで照れないでよ……やってるこっちも恥ずかしくなってくるから。

え、『恋人みたいだな』って。

もう、そんなわけないよー。

………うんうん、ないない。

…うん、そんなことないって。

だって、私たちはもう『夫婦』でしょ?

すぐそばに一緒に住んでて、私が料理や洗濯をして、君がお仕事に行ってる。

これが夫婦じゃないなら、なんだっていうの?

………

え、夫婦じゃないって…

じゃあ、夫と妻?お父さんとお母さん?旦那さんと奥さん?

………

どれでもないって…

冗談はほどほどにしてよ、もう。

私は、君のことなら何でも知ってるよ。

どんな料理が好きかとか、どんな趣味があって、スポーツは何が得意なのか。

友人関係もばっちり把握してるし、コンビニでよく買うお菓子だって知ってるし、エッチな本の好みだって知ってるよ。

私以上に君にぴったりの人なんて、他にいないって。

だから、君と私は夫婦なの。

あ、そうだ。婚姻届け出さないといけないね。

それとも、親への紹介の方が先かな…

ねえねえ、君はどっちだと思う?」

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