002 無邪気な後輩は無邪気に見守り続けている

「せんぱ~い~、今帰りですか~?

って、見ればわかりますよね。カバン背負って下駄箱で靴はいてるところを見れば。

相変わらずいつも一人ですよね、先輩は。

ボッチなんてかわいそう~。

…へぇー、今日は「たまたま」一人なんですね。

別に見栄はって嘘なんかつかなくてもいいですよ。

先輩がだいたい一人なのはあたし知ってますし。

…あー、黙った。やっぱり図星じゃないですか~。

………

え、何の用かって?

いや~、用ってほどでもないんですけど、あたしも今帰りで、ちょうど先輩見かけたんで一緒に帰ってあげようかなー、って。

…え。今日は寄る所があるんですか。

どうせいつもの本屋さんかゲームショップですよね。それくらいなら、あたし付き合ってあげても構わないですけど。

…えー、それでも一人で買えるんですか~?

あー、わかった。一緒にいると買えないもの買うつもりなんですね。

わかりましたわかりました。

今日はあたしが大人として引いてあげますよ。

ばいば~い、せんぱ~い。

………

………

………

…一緒じゃなければ、別にいいよね」




「せんぱ~い。偶然ですね~。

…って、どうしたんですか、先輩。

人の顔を見るなりびっくりしたような顔しちゃって。

『君か』って…そうですあたしですあたしです。

先輩のかわいいかわいい後輩ですって~。

それにしても今日は調子悪いんですか。なんか、怯えた顔してません?先輩?

………

え、ストーカーですか?先輩に?

アハハッ!

ちょっと、先輩。超ウケること言わないでくだいよー。

先輩にストーカーとか、いるわけないですって~。

………

え、マジですか?

『最近、視線を感じる』ですか…

毎日毎日、外にいても家にいても誰かに見られているような気がする、と。

それって、いつもの本屋さんとかゲームショップとか、コンビニでってことですか?

ふーん………

………

…でも、やっぱり信じられないですよー。先輩の勘違いとかじゃないんですか?

…確かにいるんですか。

あっ、そうだ。

じゃあ今日は先輩のために。あたしが一緒に帰ってあげましょうか?

二人で帰れば、そのストーカーさんもいなくなるんじゃないんですか?

………

…『危ないからいい』って。

ふ~ん。あたしのこと心配してくれるなんて、優しい先輩だな~。

でもあたしなら平気ですよ。いざとなったら先輩を置いて逃げるくらいの体力はあるんで。

………

いや、冗談ですって。

ホンとのほんとに、ちょっとくらいは心配してなくもないですよ?

………

それでも一人で帰る、ですか…

強情ですね、先輩も。

はいはい、わかりましたわかりました~。

今日もおとなしく、あたしは一人で帰りますよ。

先輩なんてし~らないっ。

………

………

………

って、ほんとに一人で帰っちゃったし。

…それにしても、先輩にストーカー、ね…」




「………

………

………

先輩、いつもの本屋さんに入る。

まっすぐ入って漫画コーナーで新刊のチェック。

一通り見たら雑誌コーナーへ。

今日発売の週刊誌を立ち読み。

立ち読みだからハイペースで読み進める先輩。

…数分で終わり。

今日は何も買わずに帰る。

先輩の好きな漫画の発売じゃないから、それも当然っと。

…お店を出て自宅の方に。

いつもよりちょっと早歩きのペース。用事でもあるのかな?

…いつものコンビニに入る。

今日食べる夕飯の弁当と、おやつを物色中。

先輩のことだから、ここから数十分は悩みそう。

………

…ん~。それにしても、先輩のストーカーなんてほんとにいるのかな?

右、左、前、後ろ。

…やっぱり、先輩を見ている人なんてどこにもいない。

このあたしの目をかいくぐって、先輩を見てる人なんて、絶対絶対いないはずなんだけどな~。

でも、先輩のあの怯えようはマジだったし、何かに怯えてるのはほんとっぽかった。

あたしが『大丈夫!』って言っても先輩は信用してくれなさそうだし、安心させるにはどうしたらいんだろ…

先輩のことは色々知っているけど、そんな方法なんてわかんないしなー…

…ん~、でも、やっぱりあたしの知らないところで、って可能性もあり得るよね。

あたしがこれからもちゃんと、見守ってあげないと。

…安心して、先輩。

先輩を脅かすストーカーなんて、このあたしの目が黒いうちは絶対絶対、許さないんだから」

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