004 ゆがんだ愛を抱いたサイコパス○人鬼からは逃げられない

「…ねえねえお兄さん。ちょーっと、道を聞きたいんだけど…

(――シャキン)

動かないで。

今、首元にナイフ当ててるから。少しでも動くとすっごく痛いよ。

とりあえず、このままちょっと歩こうか。ちょうどそこに路地があるから、そこまで移動してね。

………

………

………

よしよし、着いたね。

んー?ナイフを離してくれって?

いやいや、離すわけないじゃん。

だって、離したらお兄さん逃げちゃうでしょ。

そしたら私が困るもーん。

………

…私?いや、お兄さんとは今日が初対面だよ。

これまでも会ったことないでしょ。

………私が誰かって聞かれてもねー、しいてゆうなら………

『サ・ツ・ジ・ン・キ』ってやつだよ。

知ってるかな?最近よくニュースでよくやってる無差別の連続○○事件。

あれ、私なんだよね。

しっかし、テレビとか新聞とかってマジでひどいよー。

どこもかしこも、私のことをサイコパスだとか猟奇的だとか、そんなことばっか書いてあるんだもん。

私はそういうのじゃないのに。

…『俺をどうするのか?』って、そんなの決まってんじゃん。

私はこれから、お兄さんのことを、


○すよ。


………あー、震えてる震えてる。ライオンとばったり出くわしたくらいの震えてんじゃーん。

いや、ライオンなんてあったことないけどねー。

でも、あんまり震えない方がいいよー。

ほら、ナイフの刃が当たっちゃうし。

…『俺が君に何かしたのか?』

ううん。お兄さんは何にもやってないよ。

だからさっきも言ったじゃん、今日が初対面だって。

私がたまたま街を歩いていて、お兄さんがたまたま街を歩いていて、そして私たちはばったりと出くわしましたとさ、って感じ。

一目見た瞬間、私のアンテナが「ビビッ」と反応しちゃってさ、それでお兄さんを選んだって、わけ。

そこからお兄さんの後をついていって、あんまり人気がなくなったから声をかけたんだよ。

………さっきより震えてない?大丈夫?今日、そんなに寒くないと思うけど。

いやー、でも、こんなコンビニもスーパーもあまりない田舎でも試しに歩いてみるもんだね。

こーんなお兄さんと出会えるなんて、今日の私ツイてる!

………えー、お兄さんもテレビとかみたいに、私がサイコパスだとか猟奇的だっていうのー?

ひっどーい。私別に頭もおかしくないし、社会のルールだって、大体守ってるよ。

○すの以外はね。

………んー?どうしてお兄さんを○すのかって?

それはね、

お兄さんに、


一目惚れ


したからだよ。

…いや、一目惚れは一目惚れだって。

あー、さては、お兄さん灰色の青春送ってたでしょ。

恋の一つもしたことないんだねー、かわいそー。

私は、お兄さんの全てが好きになっちゃったの。

その肌も、目元も、唇も、ぜーんぶ、私好みなんだよね。

もうどストライクって、やつ?

今の私、お兄さんのことしか考えられないんだ。

お兄さんのことを考えて考えて、考えられなくなっちゃって、だから○すの。

…おかしい?

おかしくないって。

だって、お兄さんを今ここで○せば、お兄さんの最期に、私がずっとそばにいられるんだよ。

最後の瞬間を一緒にいられるなんて、最高に愛してる時間じゃん。

私はお兄さんが事切れる瞬間を見られて、お兄さんは事切れる瞬間まで私のことだけを考えてる。

知ってる?

人間って。危機的状況になるとものすっごく、時間が長く感じられるんだよ。

最後の瞬間ともなれば、それこそ一日、一か月…いや、一生分くらいの長さになるんじゃないかな。

そんな時間、私のことを考えてくれるなんて、もはや愛じゃん。

そんなお兄さんに愛されると、私は幸せいっぱいになれるんだよね。

………やっぱりおかしいって?

別にいいもーん、わかってくれなくても。

…でも、今のお兄さん。私のことだけしか考えてないでしょ?

きっと、逃げることとか私を騙そうと四苦八苦してるんだろうけど、でもそれって、私だけを見てくれてるってことだよね。

私のこと以外考えれないってことだよね。

今でもそうなんだから、○される間際ともなれば、どうなるんだろうね?どうなるんだろうね?

…じゃあお兄さん、これから私のこと、一生分、いっぱいいっぱーい愛してね。

いっくよー。

(スパッ)」

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