第5話

 →『警告。今日は、大失敗します。仮病を使って休みましょう』


 朝……、"未来予測AI"からの警告文だった。


「まだ、試用期間中なんだぞ? 詳細を教えてよ」


 →『それにより、未来が変わります。知らない方がいいです』


「会社は、休むからさ」


 長い演算が始まった。

 その間に、会社に電話して休みを貰う。


「工場の直接作業員だと、ラインが止まるんだよな。生産数に直結するから、当日有給休暇は、嫌がられる」


 そんなことを考えていたら、演算が終わった。


 →『まず、交通事故に遭う未来がありました。それと、工場の製造ラインの機械が壊れます。不慣れな製造ラインに飛ばされて、怪我をしていたでしょう』


 えっ? 二段構え?

 工場に辿り着けない未来と、怪我をする未来か。





 次の日に会社に行くと、製造ラインが止まっていた。火事は起きなかったらしい。

 会社の主力となる、製造ラインの停止だ。人員の再配置で、大騒ぎだ。

 有給休暇が推奨されて、作業員の半分が休んでいる。

 俺は昨日休んだので、今日は出勤しないといけない。


 それで、配置替えか……。


『多分だけど、不慣れではないラインになるはずだ』


 今朝の"未来予測AI"は、何も言わなかったしね。悪い未来はないはずだ。

 そうだな……。朝の占いにもなんだな。



 アナログな軽作業に、配置になった。

 隣では、重作業を行っている……。俺では、腰を悪くしそうだ。


『あちらの配置は、昨日、配置転換が終わっているんだな……』


 重労働は、自信がない。それよりも、クリーンルームで仕事をしたい。エアコンが効いているしね。

 俺は、作業に没頭した。



 あっという間に、一日が終わった。

 誰とも会話せずに、手を動かすだけの一日……。俺にはあっているな。


「一応、順調になるのかな……」


 夕食を買って、帰路につく。

 歩いている時だった。

 腕時計型のウェアラブル端末が、振動した。その文字に驚く。


 →『強盗が、あなたの隣を通ります。撃退してください』


「えっ?」


 そう思った時だった。


「きゃ~! 泥棒!」


 前を向く。

 男が走って来た。バッグをひったくったみたいだ。

 その男が近づいて来る。

 俺は、立ち塞がった……。まあ、道の真ん中で棒立ちしてただけだけどね。

 泥棒が、フェイントを入れて俺の横をすり抜けて行こうとする……。

 サッカーかバスケットボールか……。そんな動きだった。


『間合いを詰めて、急に方向転換ね……』


 正直視えている。俺は、動体視力はいいんだよね。

 動きは、学生時代にバスケ部だった奴の動きそのものだ。

 右足を前に出すと、足が引っ掛かり、泥棒が転んだ。

 両手が、バッグで塞がっていて、顔面からアスファルトにダイブした。


「……痛そうだな。鼻血が凄い出ているよ」


 →『終わりじゃないです。確保してくださいよ!』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る