第3話

 今日は、休日の朝だ。

 俺は、歩いて近くのスーパーに向かった。昨日のウイルス入りの"競馬予想AI"がとても気になったからだ。若干の期待はある。

 誰かの悪戯いたずらの可能性が高いけど、宝くじは買わなければ当たらない。ハズレでもいい。結果が知りたい。


「まだ、9時45分……」


 なんだろう、この期待感は……。

 宝くじ売り場で待っていると、カーテンが開いた。


「いらっしゃいませ。くじの種類はどうしますか?」


「スクラッチで……」


 店員が、箱ごと見せて来た。


「何枚購入しますか?」


「左下の10枚をください」


 左右を間違えないように、指をさす。

 三千円を支払って、購入した。


 その場で削る……。当然、狙っていた一番隅にあったスクラッチくじをだ。


「当たったよ……」





 一週間後に、百万円が振り込まれた。

 薄給の俺には、とてつもなく大きな臨時収入だ。


 この後、一週間をかけて、"競馬予測AI"の解析を行った。

 だけど、ウィルスと思われる部分が、ブラックボックスになっており、詳細が分からない。

 スタンドアロン(ネットワークや他の機器に接続しない)で動かしているのだけど、正常に動いているし。

 何を学習して、どんな演算を行っているのか……。データベースもバグっている。

 ディープラーニングで、何を学んだのかが解析できない。暗号化されているのかもしれないな。これを作った奴は、相当高度なハッカーなのかもしれない。


「まあいいか、また動作させてみるか……」


 何と言うか、期待させてくれるソフトだった。こんなソフトが売れるのかもしれない。


 →『どんな未来を予測したいですか?』


「俺は、どうしたら幸せになれるか」


 占いでのタブーだ。『生まれて来た理由』と『個人の幸せ』は聞いてはいけない。

 これで、このウィルスの真価が分かるだろう。

 しばらくすると、演算が終わった。


 →『まず、現在の会社では、将来はありません。転職を勧めます。あなたは、学歴は高いのですが、工場の直接作業員が向いています。その内向的な性格と向き合いましょう。資格を取れば、現在の給料より多くの賃金を得ることもできるでしょう。それと、友人と恋人が必要です。趣味を持ち、交流を増やしましょう』


「……」


 普段なら、「やかましい」と言って、消去デリートする場面だな。

 椅子に座って、考える。

 その日は、考えが纏まらずに何も手につかなかった。





 次の出勤日に、会社に辞表を出した。


「……お世話になりました」


「いきなりなんだな」


「請け負った仕事なんですけど、なにも作れませんでした」


「うん、いいよ。部長以下、誰も成果を期待してないと思うしね」


 社長の暴走だったのか。

 何人辞めさせるんだよ。


 その後、簡単な引き継ぎを行って、会社を後にした。

 パソコンの返却手続きが面倒なだけだったな。



 私物は少なかったので、俺は軽い鞄を背に帰路に着いた。

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