第30話 タン塩


「残念だったな」

「いえ、レベルの方は『ダンブレ』に任せることにします」

 冬夜は少しも落ち込んでいなかった。

「でもよかったっすね!魔王装備の新しいのが出来て!」

「だな!これで性能が良ければ言うことなしだ」

 お世辞にも魔王装備の性能は良くない。まぁ、魔王ジョブ自体がチートだからだろうけどな。

 

「よし、はやく家に戻ってレベル上げに行きましょう」

「だな」


 家に戻ると転移してダンジョンに潜る。101階層からだ。

「おりゃー!」

「気合い入ってるな」

 順調に進み150階層まで行ったところで勇者はレベル120になった。俺も武闘家が120を超えた。

「やった!」

「よかったな、俺も魔王はまだ127だからそんなに差はないぞ」

「ハハッ!はやくアップデート来ないかなぁ」

「んじゃ戻るか!」

「はい」


 家に戻るとさっそくビールを開けて乾杯だ。

「「クゥー」」

 二人とも声を出して幸せに浸る。

 次は何しようかと考えていると、冬夜も何のジョブにしようか考えているようだ。 

 お互い目が合い、

「「あははは」」

「もう次のこと考えてたろ?」

「秋さんもそうですよね」

 冷蔵庫からもう一本づつビールを取ってソファーに座る。

「明日は休みにしようか?」

「え、何でですか?」

「いや、ずっとレベル上げに専念してたからな、たまにはゆっくりするのもいいかなと思ってな」

「あー、いいですね。僕もちょうど寝不足気味だったので」

「ゲームのしすぎだよ」

「ハハッ、いや、なんか隠しダンジョンみたいなのないかなーって検索してたら遅くなっちゃって」


 買い出しとかもしときたいし、明日は休みにする。


 次の日は冬夜は寝ているようなのでリビングでゲームをしている。『ファイナルブレイブ』はやっぱ面白い。ジョブはあと三つ、狩人、魔剣士、ギャンブラーだ。

 全部で21のジョブに隠しジョブの魔王。

 次はやっぱり狩人で行くか。

 今週のイベントは復刻イベか、これはパスしてアイテム集めでもするかね。


「おはようございますぅ」

「もう昼だぞ」

「あはは、夜更かししちゃって」

「顔洗って来なよ、そろそろ買い出しに行こうと思ってたんだ」

「あ、僕もいきます」

 ダダダっと走って洗面所にいく冬夜。


 バーガーやら牛丼なんかの出来てるものを大量に買っていく。弁当屋なんかにも注文しておく。

 まだ屋外は暑くてジリジリとしているが、久しぶりの買い物に二人とも大満足だ。

「あ。スマホ新しくしようかな?」

「いいですね!」

 ふたりとも同じ会社だったので機種変更をしてデータを移すと、やはり異世界転移はちゃんと移ってくれた。ちょっと不安だった。

 保護フィルムとカバーも買って準備万端。


 やはり新しい機種でやるのはいいもんだな。俺の古い機種だったから画像が綺麗でモチベが上がる。

 冬夜も同じだったらしく喜んでいる。


 その日は夜までゲームをしていた。


 次の日はまた転移してダンジョンに行くが、また一からだ。俺は狩人で冬夜は僧侶。

 ガンガン二人で狩っていき、30階層で一休み。

「狩人もいいな!」

「僧侶はなかなか難しいですね」

「バフがいい感じじゃないか」

「でも、これじゃない感が強くて」

 冬夜は前衛がいいんだろうな。

「まぁ、レベル上げだしな」

「そうっすね」

 それからもレベルを上げ、70階層で今日はストップした。


「秋さんいないと僧侶のレベル上げしようとも思いませんでしたよ」

「あはは、前衛だけしかしないんじゃないか?」

「そうですね」

 パーティー組まないと可能性を潰してる時もあるんだな。

「それより焼肉でも行きません?」

「いいねぇ!」


 俺たちは久しぶりの夜の外食に心浮かれていた。

「二名様入ります」

 店員さんについて席につくと、注文をしてビールが先に来たので乾杯をする。

「まじ久しぶりです」

「俺も焼肉なんてもう何年も食ってないよ」


「あれ速水じゃない?」

「あぁ、ダンジョンの?」

「そうそう」

 ヒソヒソ話が聞こえてくるが当の本人は肉が来るのを楽しみにしている。

 そういえば速水は一時期有名だったなぁと思いながら肉が来たので焼いていく。


「お!誰かと思えばダンジョン攻略出来なかった死に損ないじゃねぇかよ」

「あ?」

「僕は攻略を辞めません!なんていっておいてこんなところで焼肉とはな!」

「何が言いたいんですか?」

 はぁ、こう言う馬鹿がいるのを忘れてたわ。

「俺も冒険者なんだよ、それがお前みたいな軟弱なやつと一緒にされたくなくてな!」

「あっそうですか、モグモグ」

 冬夜は少しもこたえてないようで呑気に焼肉を楽しんでいる。

「お客様。他のお客様のご迷惑になりますので」

「ああ?こいつがいると飯が不味くなるんだよ!」

“チャキ”

「これ以上はやめとくことだな」

 相手の首元にナイフを突きつけている。

「あ、あ」

「わかったならさっさといけ!」

 男は去っていったがザワザワとしている。

「まぁ、気にすんなよ」

「気にしてませんよ?だってあいつ俺より弱いんですから」

 冬夜はまた焼肉を堪能している。

「それよりこのタン塩最高ですね」

「あはは、大物だわ」

 冬夜はやっぱり凄いわ。

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