第31話
私の名前は
突然ですが、私には好きな人がいます。
その男の子はよく表紙に可愛い女の子が描かれた小説を読んでいます。表紙に描かれる女の子の絵は毎日のように変わり、私は少し嫉妬してしまいます。
その男の子は毎日、小林さんという方と一緒にいて片時も離れることはありません。正直に言えば私だって片時も離れたくはありません。ずっと喋っていたいです。だから私は小林さんにも嫉妬してしまいます。
男の子の名前は南雲文也君と言います。私はどうしても彼と話したくて彼の好きなアニメやライトノベルの勉強をしました。勇気を出して話しかけてみると彼はあたふたしながらも喋ってくれました。彼は変わらず、とても優しい人でした。
「南雲君。今年の夏アニメは豊作ですね。見ましたか?」
「見た見た! 小説の頃から読んでたのがアニメ化してさぁ」
「異世界に召喚されたらすぐに右腕を喰われたんだが、ですよね」
「そうそう! 本当面白いんだよ」
「ウフフ。私も身近でよく似た話を知っていまして。興味深い物語です」
「み、身近?」
「あっ、えっ、すいません。別の小説です。アニメの感想また話しましょうね」
「もちろん」
休み時間、それも小林さんが離れている時にこうして話をしに行きます。この時間が一日で一番幸せな時間です。小林さんは私と南雲くんが話しているのを見ると嬉しそうに笑って何処かに行きます。小林さんは南雲くんの親友であり、お父さんみたいな存在なのかもしれません。
放課後も南雲君と話したいのですが、いつも小林さんと帰ってしまうか小林さんを置いて追い付けないほどの速度で帰路についてしまいます。何か大きな秘密があるかもしれません。
「それで結衣〜南雲とはどうなの?」
「うん。話しているととても幸せな気持ちに····」
「······もう好きじゃん。告白しちゃえば?」
「ええ、実は今日告白しようと思ってるの」
「ふぁッ!?」
「ふぁッ!?」
そこは女子トイレ。千春が驚くと同時に隣の男子トイレから声が聞こえた。
「待って今の声····小林ッ! あんた盗み聞きしてたわね?」
「······うむ! していた!」
小林は開き直り壁越しに答えた。
「だ、だが今日は厳しいかも知れぬ。今朝我がおかずを提供したからな。欲望の溜まった今日の南雲氏は風よりもはやく帰路に着くであろう」
「おかず? 小林さんは料理をなされるのですか?」
「こらこら、結衣は聞かなくていいの。でもあんた、折角の結衣の勇気を邪魔したんだから手伝いなさいよ」
「りょーかいッ!」
千春と別れた後、小林さんに呼ばれました。だけどいつもと違って小林さんの表情は違いました。
「結衣たん、告白する前に一つ願いがある」
そう言うと突然小林さんは深々と頭を下げました。
「南雲氏は変態で面倒くさがりでどうしようもない男なのかもしれない」
「えっ、そんなことは····」
「だが我の親友なのだ。誰も見えないところで誰よりも苦労している。今まで散々他人から冷たくされてきたというのに誰よりも優しい。だから頼む、どうか南雲氏を見捨てないでほしい······頼むッ」
友達のために頭を下げられる小林さんは本当にいい人です。もちろん私の答えは決まっています。
「小林さんが南雲君の友達でよかったです。安心してください。南雲君は私が幸せにします」
「フハハハハ! それが聞ければ結構結構!」
そして私は小林さんの協力してもらい早朝に正門の前で南雲君を待ちました。私は彼にはやく好きと言いたかった。その気持ちが前に出てとても緊張しました。
しかし結局、告白は上手くいきませんでした。彼は逃げるように小林さんの元へと向かったのです。
南雲君の席は私のすぐ後ろにあります。授業中後ろを向いて話したいという気持ちはありますが何とか我慢して真面目に授業を受けています。不真面目と思われて嫌われてしまうのが一番嫌なので。
南雲君は時々考え事をしているのか問題に答えられずあたふたしていることがあります。教えてあげたいのですがいつも小林さんに先取りされてしまいます。そこでもまた嫉妬してしまいます。
ですが小林さんのおかげでもう一度告白の機会を得られました。
私はようやく彼に好きと伝えられました。
南雲君は驚いていましたが一日だけ時間が欲しいと言いました。
いつまでだって、私は彼の返事を待てます。
「······やっとかぁ」
だってお前に好きと伝えるまで二十一年もかかったのだから。
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