第25話

 

 仲間と今日に備えて入念に準備してきた。戦闘は基本九割型敵が砦に攻め込んでくる。でも今日は違う。敵陣、それも魔王城へと攻め込みこの戦争を終わらせる。もしこれがゲームならセーブしておきたいができるはずもない。一発勝負、負けたら終わりだ。


「文也さん。朝食の準備ができました」


「あぁ、すぐ行く」


 フェイは毎朝こうして起こしに来てくれる。レオとは真逆の性格。とにかくしっかりしているヒーラーでレオと同い年なのが驚きだ。


「皆さんも既に支度をしていらっしゃいます。サラちゃんは起こさない方がよろしいでしょうか」


「·····そうだな。前みたいに泣くかもしれないから寝かせておこう」


「分かりました······文也さん。改めてになりますが、あなたがいたから僕たちは今日を迎えられました。僕含め、皆さんも本当に感謝しています」


「い、いきなり何だよ」


「事実を述べているだけですよ。文也さんがいなければ僕達は死んでいたかもしれません。精神的にも何度も何度も支えて頂きました。本当に、感謝してもしきれません。きっとこれから先、あなた以上に尊敬できる人は現れないでしょう」


「······お前と結婚するやつって幸せだろうな」


「いえいえ、とんでもありません」


 そして毎朝食事をしている部屋に向かった。普段は全員揃って朝食を取ることは珍しいが今日は違う。同じタイミングで朝食を取りできる限りコミュニケーションをとっておく。というより全員会話することを求めていた。この時間が最後かもしれないと薄々感じているからだろう。


 魔王城へ行くのは六人と少数。後衛としてフェイとレイ。中衛にシオンとレオ。そして前衛は俺と村継。六人のみの陣形を組み攻め込む予定だ。みんなかなり強いのでこの少数でも何とか戦える。その分砦に敵が攻め込んでくる場合に備えて罠や結界だけでなくひとまずはファイザやロサリアに残ってもらう。


「サラは本当に起こさなくていいのか? 起きた時大泣きするぞ」


「仕方ないだろ。帰ってこればいいんだから」


「フハハハ! その通りにござる。幹部も魔王も倒して宴を開こうぞ」


「ひとまずここは私やロサリアに任せてください」


「ええ。非戦闘員を避難させた後、砦近くに敵の気配がなければすぐさま助けに参りますわ」


 ロサリアの言う通り状況が良ければ応援が来てくれる。転移魔法は何の事前準備もなしに使えば魔力が一瞬で底をついてしまうらしい。それも複数人で使用できる魔法でもないので膨大な魔力を分担することもできない。ガイアの魔力量が凄まじかったということだ。だけど始点と終点のそれぞれに転移魔法陣を設置することで魔力消費はロサリアやファイザ一人で賄えるほどに抑えられる。正直言ってその作戦がかなり勝敗に影響を及ぼす。


 戦い前に感じる独特の緊張感。初めの頃は吐きそうだったけど今はもう慣れた。決戦前の朝食だと言うのに食卓に張り詰めた緊張感はない。


「······んで、最後に何かねえのかよ。フミ」


「えっ、何かって?」


「最後に言うことだよ。テメェ勇者やってるくせに自覚ねえよな」


「ボクにも聞かせてくれ。文也の言葉を聞くと安心できる」


「······何言えばいいの?」


「俺に聞くんじゃねえよクソが!」


「えぇぇ····」


 周りを見るといつの間にか視線が集まっていた。朝早いというのにほとんど全員が目を覚ましギャラリーの数が多過ぎる。ここでちょっとトイレッ——とか言えばかなり気まずい状況になるかもしれない。


「··········」


 シオンに助けの視線を向けると顔を下に向け震えている。

 クソッ——笑いを堪えてやがる。シオンも助けてくれない。公開処刑だ。


「······俺は魔力も使えない。右手もなければ片目もない。だけど欠点だらけの俺を見捨てずにいてくれてありがとう。こんな俺に話しかけてくれてありがとう」


「··········」


「あっ、そういや魔王倒した後俺ら無職じゃん。仕事探さないとな」


「······プッ、プハハハハ!!」


 咄嗟に出た言葉で全員が声を出して笑った。


「文也殿らしいな。安心なされ、魔王を倒したという名誉さえあれば食うに困らんでござろう」


「締まりませんわね。ですがあなたらしいですわ」


「あーあ、頼んだ俺が馬鹿だった」


「そんな褒められてもなぁ。まあいい感じにリラックスできただろ」


 これは結果オーライかもしれない。戦いを経験してきて確実に言えるのは緊張し過ぎは良くないということだ。ある程度リラックスすれば自分の実力を最大限に引き出せる。


「······よし、行くか」


「はい。それでは準備を致します」


 魔王城まで歩いて行くわけではない。事前に魔王城近くに転移魔法陣を設置しここから瞬時に転移できるようにしている。もちろん魔王城の近くに魔法陣を描くことは容易でなかった。一時間以内で描き終わる魔法陣だがそこに住む魔物に地面を荒らされ何度も書き直した。それも二つ。バレないように少しずつ描き一年かけてようやく完成させたファイザとロサリアの努力の賜物だ。


 全員完全に武装し戦闘モードに切り替わった。魔王領と呼ばれる魔王の住む地域は魔物の強さや天候に至るまであらゆるものがイレギュラーだ。転移した瞬間襲われる可能性もある。運ゲーだが準備もしっかりした。


 あとは勝つだけだ。


 六人で魔法陣の上に立った。実は転移するのは初めての経験だ。アニメでは見たことあるけどいざ実際にやろうとすると恐怖しかない。


 緊張していたその時、左手を誰かに握られた。


「大丈夫だぞ。転移されても身体に影響はない」


「······シオンってエスパー?」


「震えてるからだ」


「······」


 死ぬほどカッコ悪い。だけど覚悟は決まっている。

 全員武器を手に取りすぐさま戦闘を開始できる状態だ。


「皆さん。それではいきます」


 行きはファイザが転移を行う。

 研ぎ澄まされた集中力、ファイザの魔力は辺りに広がり足元の魔法陣が光り始めた。


「わたくし達もきっと向かいますわ。ご武運を」


「おう。じゃあ頼むぜ!」


 次の瞬間視界は光に包まれ俺たちは魔王城へと転移した。

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