第24話

 

 三年間で経験したほとんどの戦争が砦に攻め込んで来る敵を迎撃するためのものだった。シオンは三年前の戦いでの反省点を活かそうと言い出しこの三年で少しずつ砦の周りに多くの罠や結界を張ってきた。それが功を奏したのか、戦いが進むにつれ俺たちは快勝することも多くなったわけだ。


「お兄ちゃん!」


「ウブッ——」


 夜、砦にある自室で寝転んでいると腹部に亜空間タックルが飛んできた。お兄ちゃん、実に素晴らしい響きだが飛び込んできた幼女は本当の妹ではない。サラという七歳の女の子だ。特に何もしていないが俺のことをお兄ちゃんと呼んで懐いてくれている。


「どうした? トイレか?」


「ち、違うもん! シオンお姉ちゃんが呼んでたの!」


「シオンが? もう十時なのに珍しいな。早く寝るんだぞ」


「は〜い!」


「······はぁ。シオンの部屋でもいいからあとで戻れよ」


 俺のベッドでサラはすぐさま寝息を立て始めた。いつもだからこの光景は見慣れてる。そして俺はシオンの部屋に向かった。


「うぅ〜寒ぅ」


 俺とシオンの部屋はかなりの距離がある。ちなみに周りの部屋はレオやニキ、フェイといった男子勢に囲まれている。ちなみにこの三年、シオンとは本当に何もなかった。というよりロサリアやファイザといった美少女達とシオンの百合展開に期待しすぎたのかもしれない。きっと小林がいれば同じ考えをしていただろう。


「おっ、フミじゃねえか。女子部屋の方向に進むとは流石勇者だねぇ」


「頑張れー!」


「いや違う違う」


 多分砦内で顔を見かけた全員と毎回喋ってる気がする。それくらい多くのやつと仲が良い。付き合ったり結婚しているやつらは別だが基本男の住む場所と女の住む場所で大きく分かれている。そういうところはきちんとしないと面倒だからだ。


「シオーン?」


 シオンの部屋の扉をノックすると返答もなくすぐさま扉が開いた。


「あっ、あぁ来たか。入ってくれ」


 言われるがままシオンの部屋に入ると良い香りが鼻を抜けた。中は女の子の部屋という感じで前に住んでいた家よりもさらに綺麗でオシャレになっている。シオンを見て思うのは申し訳ないけど服装がエロい。


「何か話か?」


「·····私達に話したことだ」


「あぁ、それか」


 話した内容。それは三年経ってようやく踏み切ることにした幹部及び魔王の討伐だ。三年である程度戦えるレベルまでは成長できた。これ以上戦争を長引かせても死者が増え続けるだけだ。時間はかかったがこのあたりで戦争を終わらせなければならない。そこでようやく踏み切った決断だ。


「私は正直、自分の考えがまとまらない。不謹慎かもしれないが、お前達と····お前と過ごすこの三年は幸せだった。それが壊れるのが嫌なのかもしれない。今の状況が続けばこの時間がもっと続いていく·······すまないな。明日が最後だというのに迷わせるようなことを言った」


「まあ、俺も現状維持は好きだぜ。だけど誰も死なずにこの戦いに勝てればお前達は安全に暮らしていけるだろ」


「お前達って······文也もここにいるだろ」


「もちろんここにいるみんなとは離れたくないぜ。でもさ。元いた世界で小林にも逢いたいし、それに何か忘れてる気がしてさぁ。俺は向こうで死んだけど魔法があるこの世界なら元の世界に戻れる方法があるかもしれない」


「でもその後は、必ず戻ってきてくれ。ずっと待ってるから······よし、肩を揉んでやる。疲れてるだろ」


「いやいや、シオンも疲れてるだろ」


 断ったがシオンは無理矢理肩を掴み肩揉みを始めてくれた。口ではそう言ったけどシオンとの交流は正直嬉しい。


「顔がとろけてるぞ。まったく、かわいッ–——かわ、乾いてるな肌が」


「ん? そうか?」


「何でもない。黙っていろ」


「あっ、はい。あぁーそこそこ。そこ気持ちいわぁ」


「······一つ聞いてもいいか?」 


「どうした?」


「もしも····もしもだ。元いた世界に帰れるかわりにこの世界に二度と帰れなくなるなら····二度と私に会えなくなるならどちらを選ぶ」


「いじわるな質問だな。まあ多分、頑張ってこの世界に帰れる方法を探す。だから暇ならシオンも俺のことを迎えに来てくれよ」


「·······うん」


(大好き。大好き······大好き)


「やっぱり、まだ伝わらないかなぁ」


「伝わる? 何が?」


「何もない。夜遅くにすまなかったな」


「ああ、サラが俺のベッドで寝てるから連れてくるよ。ここで寝かせてもいいか?」


「本当に好かれてるな。今日くらい一緒に寝てあげればどうだ? たまにはいいだろ」


「俺寝相悪いからさ。怪我させると大変だろ」


 そうしてシオンの部屋から出ると待ち伏せていたように二人の人物が立っていた。銀髪で俺と同じ背格好。お姉さんキャラのロサリアに先日十八歳になったばかりのレイ。どちらも綺麗で二人の間で百合展開を期待してしまうのも少なくはない。だが驚くことにレイは美少女ではなく超絶美少年だった。この事実を知ったのはほんの一年ほど前だ。俺の中で色々壊れたのを覚えている。


「あらあら、珍しくこんな時間にシオンの部屋に行っていたからわたくし期待していましたのに。事後報告にしては早過ぎるわよね」


「な、何もなかったんだよね?」


「当たり前だろ。事後じゃなくて事前だ」


 ロサリアは何かとここに住む全員の恋愛事情に詳しい。だけど当の本人は高嶺の花過ぎて誰も近寄ってこない。いわゆる見る専というやつだ。


「ボク見てなかったんだけど、本当に何もなかった?」


 対するレイは恋愛事情には鈍感だが何かと問い詰めてくる。


「本当だ。明日は早いからもう寝てくれよ。頼むぜ」


「了解ですわ。そういえばレオがあなたを探していましたよ」


「えぇ? レオもかよ。分かった。じゃあおやすみ」


「おやすみなさい」


「おやすみ、文也。また明日」



「··········ねえレイ。あなたはそれでもいいの? 明日が最後かもしれない。その感情はどこにしまっておくつもり?」


「あははぁ、気づいてたか。確かにもしもボクが女の子なら·····心底文也に惚れていたのかもしれない。でもこの感情はほとんどが憧れだから。ボクは近くで見ていられればそれでいい」


「フフフ、それが聞けてよかったわ」



***********************************



 レオという男はとにかく気性が荒い。初めの頃は狂犬のようでまともな会話もできなかったのが事実だ。二年経ったくらいの時ようやく心を開いてくれた。暴言は絶えないが今ではレオのことがある程度わかってきた。二年である程度だ。


 でもまずはレオの部屋に行く前にサラを運ばなければいけない。


「······あれ?」


 自分の部屋に入り中を見ると何故かレオとサラが二人でトランプをしている。もう一度扉を見るがどう見ても俺の部屋だ。いつの間にかレオが中に入っている。


「何してんだ。一応ここ俺の部屋だぞ」


「あぁ? おっせぇよ! いつまで待たせてんだぁ?」


「そんなこと言っちゃだめ! お兄ちゃんのこといじめないで!」


「····べ、別にいじめてない」


「お前は黙ってればカッコイイんだけどなぁ。面倒見もいいしさ」


「黙れ! 死ね!」


「もう!」


 こんな風に暴言を吐いてくるがレオは俺より三つ年下だ。だがもちろんレオの辞書に上下関係なんてものはない。サラに以外、誰彼構わずこの態度だ。


「サラ、シオンの部屋に行こうな。一人でいけるか?」


「いけない。あとで抱っこしてつれていって」


「わかったわかった。それでなんだよレオ。俺に用があるんだろ?」


「これ」


 レオは後ろから何かを取り出し俺に手渡した。


「······義手。新しいやつ」


 レオからもらった義手は磨かれ光沢を放っていた。実は前々から俺は無くなった右手を補うために義手を使用している。だが激しい戦闘で既にボロボロになっていた。


「マジか。助かるわぁ。······ん? 魔力でも付与してるのか?」


「魔法使えねえくせになんで分かんだよ。まあ後々になれば分かる。それまで壊すなよ。じゃあ俺は寝る」


「おう、ありがとうな」


 このようにレオはいわゆるツンデレキャラだ。それに面倒見もいいとくれば沼る女子もいるだろう。高校の友達に欲しいキャラだ。


「さてと、サラ。シオンの部屋行こうな」


「抱っこぉ」


「サラ。その顔でこんなことをするとたくさんの男の子が勘違いしてしまう。分かったな?」


「かんちがい?」


「そうだ。サラは別に好きじゃないのに男の子はサラに好かれてる思っちゃうってことだ」


「どうして? お兄ちゃんのこと好きだよ?」


「俺もだ。よし、もう寝ていいぞ。運んでおくから」


「うん、おやすみ」


 色々とあるがここでの生活は本当に飽きない。シオンが考えるのと同じくこの生活を続けていきたい。

 でもこんな幸せな生活もそろそろ終わりを迎えようとしていた。サラと会うのも今日で最後だ。

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