第13話
「片目を失っても勇者パーティーであるケイオスは旅をやめることができない。辞めたとしてもその先に待っているのは労いの言葉ではなく落胆の声だ。だからケイオスは回復したその日から何事もなかったかのように旅を続けた。私達もケイオスを止めることはできない。だけど続く旅は更に困難を極めるものだった。その話はまた今度にしよう」
「······ああ」
話を聞いたことに後悔はしていない。だけどシオン達が勇者パーティーであり続けた、いいやあり続ける必要があったのは周りの人間のせいだ。勇者パーティーに入るということは魔王を倒さない限り元の生活には戻れないという覚悟を持つことか。それが分かっただけでもよかった。
「よし、私が見張りに行く。暫くした後変わってくれ」
「分かった。頼むよ」
その日の夜は初めて交代制で睡眠を取った。やってみて実感する。慣れてないからかもしれないが、疲れが取れない。ともあれ魔物が寄ってくることはなくその日は安全に朝を迎えることができた。
「よし、行くか。今日目指す場所には街がある。そこでなら疲れが取れるだろう。かなり遠いが頑張れよ」
「おぉ、それはありがたい。あと今日からは早速魔物と積極的に戦いたいんだけどいいか? 逃げてばかりだと実力がつかないし」
「ああ、構わないぞ。だが焦るなよ。一人だけで倒そうとせずに私を頼れ」
「もちろん、俺一人じゃあ餌になりに行くようなもんだからな」
出発する前にガロアの太刀を使って何度かシオンと打ち合いをした。味方だと分かっていても真剣で打ち合うと緊張感が違う。シオンは上手く俺の剣をいなしていたが素人同士でやれば下手すると死者が出る。
そして道中背の高い草むらにいた魔物に俺たちは狙いを定めた。二足歩行のトカゲみたいな魔物。ファンタジー小説に出てくるリザードマンとかいう魔物だ。名前はガブラスというらしい。
「鋭い爪と牙、そして死角から迫る尻尾に注意しろ」
「分かった······あぶなかったら助けてね?」
「フフフ」
(えっ、何その笑顔)
ガブラスは四体いた。背丈は二メートルほどだろうか。近くで見るとどうして初戦でこいつを選んでしまったのかと後悔するほどだ。だけど仕方ない。強い敵を倒さなければ高い経験値は得られない。
荷物は岩陰に隠し俺とシオンは武器を手にした。生きるか死ぬかの戦いがすぐに始まる。ゴブリンとの戦いは突発的で勢いに任せたので上手くいったのかもしれない。
「行くぞ」
シオンは姿勢を低くし勢いよく走り出した。
「ちょっと待って」
「ひゃっ——」
肩を掴み止めるとシオンから聞いたことのないような声が漏れた。言っておくがこれは断じてセクハラではない。
「ななな、なんだいきなり」
「不意打ちで····よくない?」
「駄目だ。幹部との戦いになれば不意打ちなど通用しない。地力をつけろ」
「ちょッ——」
シオンは俺を突き放すようにガブラスに向けて走り出した。ガブラスは俺たちを視認し戦闘の構えに入る。
(うっわ、無理だろこれ)
真正面から向かっていくとやはり勝てる気がしない。俺は真正面に向かうシオンと別れ右に向かった。二体のガブラスはシオンに相対し残り二体は俺の方向へ向かってきた。
(あぁヤッベ······興奮してきたな)
二体の巨大な魔物に追われていると気がおかしくなる。小林の名前を叫びたいが今はもう助けにきてくれない。背の高い草むらに身を隠し俺は様子を伺った。
見つかれば生死をかけた先頭。
緊張し心臓の音がうるさいほどに聞こえてくる。
「文也ッ!」
「ウぶッ!!!」
死角に入ったと思っていたはずが俺はガブラスの強靭な尻尾に弾き飛ばされた。
「はぁはぁはぁ····」
(落ち着けぇ、落ち着けぇ)
太刀は鞘から抜いている。左手も全然動くから大丈夫だ。
「大丈夫か文也!」
「あぁ問題ない! すぐに倒す!!」
何がすぐに倒すだ。すぐに倒されるだろ。尻尾の攻撃が思っているよりも痛い。釘バットで殴られているような痛みだ。そんなもので殴られたことないけど。
「仕方ねえッ効果ないかもだけど」
俺は隠し持っていた催眠スプレーを取り出した。だがガブラスの顔まで届かない。
だから俺は思い切り投げつけた。
「グギャアアア!!」
「よっしゃあ!」
一体が催眠スプレーで混乱していた隙に俺は足元を太刀で切り膝をついた瞬間追い討ちをかけるようにして胸に太刀を突き刺した。
「あと一体·····」
(ッ———えっ)
そうだ、コマンドで戦うゲームではないから敵は待ってくれない。
背筋が凍りつき確かな死を感じる。
眼前にはガブラスの爪。身体は恐怖で硬直し動かない。
(死······)
「ハァアアア——!!」
「ッ——————」
常人離れしたシオンの剣速。その剣はガブラスの喉元を切り裂き巨体は音を立てて倒れ込んだ。
「目立った外傷は無いようだが大丈夫か」
「ああ。ごめん、催眠スプレー全部使っちゃった」
「お前が無事ならいい。行こうか」
(······かっけぇ)
その後俺たちはガブラスではなく初心者でも討伐しやすい魔物に限定しながら狩りを進めて行った。当然だが夕方までそんな調子で進んでいくと疲労感は昨日の比ではなかった。だが幸い街には早く着き夜遅くまで歩かずに済んだのだ。
「おぉ、向こうの街より少し発展してるな」
「ああ。お店を見られるのは今日だけだからじっくりと回るか」
「ここでもローブを着るのか?」
「ああ、敵の位置に近づいてきているから大勢人がいる場所で顔を出すのはよくない。初めに宿を取るぞ」
俺たちはフードを深く被り顔を隠したまま宿屋に向かった。
宿屋の受付といえばラノベの中でよくこんなワンシーンを見たことがある。
『いらっしゃい』
『宿を取りたいのだが二部屋空いているか?』
『ああすまないねえ。今日はお客さんが多くて一部屋しか空いてないんだ』
『一部屋だけか······仕方ない、ならその一部屋を。俺は野宿するから、お前は部屋を好きに使ってくれ』
そこでヒロインが主人公の手を掴む。
「私は····同じ部屋でもいいよ」
こんなふうなシチュエーションに憧れないはずがない。漢のロマンだ。
「ではこの一部屋を頼む」
「はいよ」
「えっ」
「——ん? どうした。しっかりベッドは二つだ」
「ひ、一部屋でいいのか?」
「料金はできるだけ抑えたいからな。すまないが我慢してくれ」
何というか····微妙に違う。いや違うくはないか。過程は違うが結果はほぼ同じ。敢えて悔しい点を言えばきちんとベッドが分けられていることだ。
「店にでも行こうか。何か戦闘に使うものを調達できるかもしれない」
「ああ。分かった」
異世界での店は新鮮だ。見たことのない薬、武器、防具も並べられ改めて別世界だと思わされる。戦闘に使えそうな道具を何点か買い漁り俺たちは夜の街をぶらぶらと歩いた。
「で、デートというのはこんな感じなのか?」
「デート?」
「い、いや。私はただ客観的に見てどう思われてるのか気になって。だから決してそういうつもりはなくて。わ、忘れてくれ」
俺たちは一度限りの観光と買い物をした後宿屋に戻って行った。この世界で言えば女性とのホテル。緊張するとは思ったが昨日あまり眠れなかったせいか熟睡できた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます