第4話 最強との対戦 一つ目の技②
コハクが渾身怒りを込めた“雷神宮さんだー”は、バリバリと心臓が跳ねるような轟音を幾重にも轟かせながら、目を焼き潰す光と共に地面から突き上がった。
コロシアムステージの土台そのものが危うい存在と化したことを瞬時に悟ったクロハは、真上に跳躍しながら、空中で体を捻り、真剣の成分を活かしながら、最強の称号にふさわしい軽やかな身のこなしで雷の槍を住なす。
「俺の最大の攻撃技なのにいぃいいぃぃいぃいいぃッ!!!」
格の違いを見せつけやがって! とコハクは地団駄を踏む。
そのたびに雷が自分を穿ち殺そうと襲い掛かって来るので、クロハはとりあえず、コハクの癇癪が治まるか、魔力切れになるのを待った。
隙を見て攻撃に移るために、一旦深く足を付かなければならないが、回避の体勢を変えるために一瞬つま先を付けただけでも、瞬間的に雷は襲い掛かってくる。
すごい能力だと感心する。
感心するが、それ以上に気になることがあった。
君は、いったい、どうして――。
ステージから何度も穿ち上がる雷が静まるまで往なし続けて、やっとコハクの魔力が途切れる。
コハクは、魔力の大量放出による疲労感を覚えながらも、やっと両足を付けたクロハを殺意ギラッギラの眼差しで睥睨した。
悔しい。あまりにも悔しい。
火傷一つ負わせることもできず、コハクの最大の大技ともいえる“雷神宮さんだー”を軽々と躱され続けた。
クロハが疲弊した様子もない。
けれども、とてつもなく困惑した表情で何度も瞬きを繰り返している。
「なんだよ。弱すぎてびっくりしたのか?」
自分の最大の大技を自分自身で侮辱したいわけではないが、負け惜しんでしまうと自然と自虐してしまう。
「いや、違うよ。むしろ、君の技の攻撃範囲と執着的な雷には驚いた」
「ハン! じゃあ、何だよその顔」
「気になることがあって」
コハクは、眉間を寄せた。
「聞きたいこと?」
「うん。呉本くん、君は――――どうして、技に人の苗字を付けてるの?」
「それな」「俺も思った」「私が呼ばれたのかと思った」「あんた苗字が雷神宮だもんね」との声が、観客のざわめきの中から聞き取れた。
コハクは、「ア、雷神宮さんいらっしゃってたんですか。別に、俺の“雷神宮”はあんたの“雷神宮”とはまったく関係付けたわけじゃないけど、まあ、これから末永くお世話になります」と、雷神宮さんに内心で頭を下げた。
「は? んなこと何で気にするんだよ」
「いや、急に目の前で百年ぶりの宿敵、でも以前すごくお世話になったから敵対してても敬称が抜けず、会えてちょっと嬉しいけど、その内情が声に混じらないように滅茶苦茶苗字怒鳴ってる人みたいな言い方だったから……」
「いや、お前への殺意しかこもってないけど。会えてちょっと嬉しい内情とかカケラも無いんだけど」
クロハはちょっと傷付いた顔をした。
初対面の同学年に面と向かって嫌悪をぶつけられたのだから、まだ精神的に若く思春期に突入しているクロハのハートには引っ掻き傷がついた。
「でも、何で“雷神宮さんだー”なの? すでに登録されてる“ライジングサンダー”に似てるけど」
コハクは唇をもごもごと動かした。
「……だからだよ。俺がかっこいいって思ってた“ライジングサンダー”、登録されてたから。でも諦められなくて、何か似た感じのがないかなーって考えてたら、“雷神宮”って語感が似てるなーって閃いたんだよ」
「あ、あ、そうなんだ。ふうん、そうなんだ。や、でも、そうなんだ」
クロハは何と声をかけていいのか考えあぐねいて、けれども良い言葉が思い浮かばなかったので「そうなんだ」を連呼することしかできなかった。
内心では「いや、でも流石に、急に他人の苗字を怒鳴られながら攻撃されたらビビるよ。どんな悪人でも、人違いです! って言っちゃいそう」と発動名への評価を行っていた。
その間コハクはというと、「そうなんだ」を連呼するクロハに苛立ちを募らせていた。
クロハが内心で評価している間、彼は無意識のうちに「そうなんだ」をすでに十五回以上は繰り返している。
コハクは、とてつもなく馬鹿にされている心地になった。
いやだってお前が訊いて来たから名付け秘話を話してやったのに、感想も無く、返される言葉は数多く繰り返される「そうなんだ」。
うっっっっっっっっっっっっっっっっっっっぜ!!!!!!!
コハクは剣を構えた。
すると、武器の動きに意識を現実に引き戻したクロハは警戒する。
剣を構えても、繰り出される攻撃が必ずしも物理攻撃とは限らない。
剣の動作によって繰り出される特殊能力――代表的なのは、飛翔斬撃だ。
コハクの一挙の先を予測しなければならない。
さあ、何が来る?
コハクは自分を落ち着かせるように、深く息を吐いた。
次に繰り出そうと考えているのは、少ない魔力で剣撃の瞬間的な速度を上げる風の能力。
だが、それはひとまず足に纏わせる。
コハクに、飛翔斬撃は使えない。
それすなわち、剣において習得しているのは斬る刺すの物理攻撃である。
コハクの出方を伺うクロハが、恐らく風の能力を攻撃に使うだろうと予測しているのが、わずかに防御体勢に動いた動作から推察される。
ばーか、移動だよ。
コハクは悪党のようなニヒルな笑みを浮かべた。
そして、背面から風能力の魔力を滑らせて、太ももから下を覆う。
風とは無色透明。
最も読まれにくい能力だ。
コハクは膝を曲げ、そして飛び出した。
「しね!!」
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