第2話 実用実戦当日

 実用実戦当日。


 全学年がコロシアムに集まり、一年生は開会式が終わるとクラスごとに待機室に押し込められ、二、三年生は観客席で野次や歓声、声援を叫ぶ。


 教師陣はステージに近い場所で列をなして座り、有事の際の制止に備えている。


 対戦相手はくじ引きで決まる。 


 くじを引くのは校長だ。


 さっそく校長は用意されたボックスの中に腕を突っ込み、まず一人目の名前が書かれた紙を引き抜く。




「ワタル・田中」




 コハクは安堵の息を吐いた。


 流石に一回戦出場は避けたい。


 その思いはクラスメイトのほとんどが同じようで、安心したように肩の力を抜いたが、一回戦目の片方が選ばれただけ。


 次のくじ引きで自分の名前が引き抜かれるかもしれないという緊張感に、再び体と表情を強張れせた。




 モニターを食い入るように見つめる。


 再び校長がくじを引いた。




「イッセイ・瀬田」




 「わーっ!」と、後方から叫び声が上がった。


 皆が振り返ると、そこには椅子の前に膝をついた男子生徒の姿があった。


 選ばれたクラスメイトに、みんながワッと沸き立ち、頑張れよ、負けるなよなどと他人事だから気さくに声援を送る。


 選手は入場してください、とのアナウンスに従って、瀬田は緊張しながらも「ぶちかましてくるぜ!」と勇んで待機室を後にした。


 


 モニターに一回戦の選手二名が登場し、ステージに上がる。


 そして、手に持っていた登録書を審判役の教師に渡すと、お互いを鼓舞し合って距離をとった。


 


 審判が開始の合図を出すと同時に、二人の能力は「俺が考えた最強にかっこいい名前」を叫ぶと同時に発動した――。








 数戦が終わり、コロシアムの熱狂は一戦ごとに沸く一方だった。


 待機室は空席が目立った。


 出場したクラスメイト達のほとんどは、今頃医務室の世話になっている頃だろう。


 先日、教室でコハクに声をかけてきたホノカも、二戦前に出場し勝利して、そのまま戻って来ない。




 破壊されたコロシアムのセットも、岩系能力者の教師によってあっという間に修復される。


 修繕費が掛からないので便利だ。


 多分学校も、それを打算して岩系能力者の教師を雇ったのだろう。


 学校側の節約事情を一人で察しながら、コハクはくじを引かれるのを待った。




 校長がくじ箱の前に立ち、腕を突っ込む。




「――クロハ・剣条」




 彼の名が呼ばれた瞬間、静寂がコロシアムを支配した。


 が、すぐさま爆発的な歓声が湧き上がる。




「いよいよ、彼が出場するのか」




 コハクも、内なる興奮に声を震わせた。


 クロハ・剣条。


 学校創設以来、過去最高得点となるオールSSS判定で主席入学した男子生徒の名である。


 一般的な生家の出であるが故に気取った言動は無く、誰にでも平等に接する柔和な態度から、入学して間もなく学校内の人気者になった。


 噂では、ホノカと好い感じの仲らしい。


 コハクは直接関わったことはないが、以前学内で生徒手帳を落とした際に拾ってくれたそうだ。


 その生徒手帳は、ホノカを経由してコハクの手元に戻ってきた。


 そういえば、お礼を言ってなかったなあ。時間があったら言おう。


 コハクは、未だ冷めやらぬ歓声を聞きながら思った。




 さて、そんな最強主人公枠の彼と剣を交える運の無いやられ役は誰だ?


 コハクは、校長が対戦相手のくじを抜き出すのを待った。


 校長の眉尻が、対戦相手への哀れみに垂れ下がる。


 そして、唇が哀れなやられ役の名を紡ぎ出す。




「――コハク・呉本」


「――――――――……――……‥‥‥‥え?」




 コハクは戦慄した。


 

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