第40話


「すみません。俺も貴方たちと一緒にダンジョンへ行きたいのですが……」


 俺は、女性とその仲間たちに声をかけた。


「とりあえず、ギルドカードを見せてくれ」


 女性の横に座っていた厳つい男に言われるがまま、俺はギルドカードを見せた。すると、厳つい男の表情は見る見るうちに侮蔑を籠ったものになったのである。


「何か問題がありますか? 」


 堪らず俺はそう訊ねる。


「F級じゃ話にならないんだよ」


 と、厳つい男は言って俺のギルドカードを投げつける。

 俺は、直ぐに投げつけられたギルドカードを拾う。


「たまに居るんだよねぇ。こういう勘違い君が」


 先ほどまで呼びかけを行っていた女性までもが、便乗してそう言う。何が勘違いだ。そもそもルーキーたちも数多く募集してると言ったのはそっちじゃないか。


「おいおい。勘違いさせるようなことを言っていたのはどっちだよ?  」


 カチンときた俺はそう言った。


「てめぇ調子に乗ってんじゃねえぞ? 」


 厳つい男がそう言って、俺の胸倉を掴む。 

 とても短気な野郎のようだ。


「はぁ? なんでうちらが文句言われなくちゃいけないわけ? 」


 女も少々ヒステリック気味になってそう言った。何というか、あまり相手にしてはならない連中に関わってしまったようだ。

 

「まあ待てよ」


 すると、仲間の1人であろう青年がそう言って近づいてくる。


「彼もせっかく夢を追っているんだ。だから僕は、彼を同行させることに文句はないよ? 」


「……わかったよ」


「フリッツがそう言うなら……」


 と、2人もしぶしぶ了承したのであった。しかし、今さらこの者たちは一緒に行動したくはない。


 どうしたものか。


「名前を教えてくれないか? 」


 と、青年ことフリッツが訊ねてくる。


「ヴィル・ポンポンだ」


「そうか。もし良かったら僕たちと一緒に来ないか? 」


 まあ良い。

 彼らに同行するよしよう。戦闘ではまともな戦力にはならないだろうが、俺を誘ってくれた青年の面子を立てるためだ。


「ありがとう。どうかよろしく頼むよ」


 俺はそう言うと、青年はニッコリとほほ笑むのであった。




 プロシアノ公国の公都ベルケーニで冒険者たちの活動が盛んな理由は、その周囲に幾つものダンジョンがあるからだという。まあ、ダンジョンが多ければその周囲の街が冒険者たちの拠点になるのは当然なことなのだろう。


 俺たちが向かっているダンジョンも、公都ベルケーニから片道徒歩30分程度のところにある。今日はそのダンジョンで、上級モンスターを狩ると言うのだ。

 

 今は俺を含めて4人で行動している。

 

 先ほどの青年……フリッツ。

 周囲の冒険者たちに呼びかけをしていた女……メラニー。

 胸ぐらをつかんできた厳つい男……ゲッツ。

 最後に……ヴィルこと俺だ。

 

 本当ならもっと同行者がいたはずなのだが、青年フリッツが今日は4人で行動したいと言い、結局4人で行動することになってしまったのである。


 ダンジョンへ向かう途中、他愛もない雑談をした。

 彼ら3人は、公都ベルケーニでは有名な冒険者パーティー≪漆黒の守護士たち≫なのだという。ランクも全員A級とのことなので、実力もかなりあるのだろう。


 後で、ローマニア王国までの護衛に就いてもらうよう交渉してみようか。


 そして俺も、自身のことを出来る限りで話した。例えば、ガリヌンス王国出身で今は薬師をしつつ各地を放浪していることなどだ。

 

 さて、30分くらいは歩いたはずだ。

 そろそろダンジョンに着く頃だろう。


「……みんな。止まるんだ」


 青年フリッツがそう小声で言う。

 その声と同時に、俺も異常な事態に気が付いた。


「おいおい。マジかよ……」


 思わず俺はそう声にする。

 数台の馬車が、燃えていたのである。


「てっきり、たき火かと思っていたがな……」


 ゲッツの言うとおり、俺もたき火の類かと思っていたのである。煙が立ち込めている様子は少し前から確認していたからだ。


 ところで、数台の馬車が燃やされるという話は、ここ最近毎日聞いてきた話だ。即ち女の賊1人によって数台の馬車が襲撃を受けて、そして燃やされるという話を。

 

「お、おい。これは逃げた方が良い。間違いなく危険な話だ」


 俺は震えた声でそう言った。

 

「どこへ逃げるの? 」


 と、不意に背後から女性の声がする。

 その声はメラニーの声ではない。


 俺は恐る恐るその声がするほうを見ると、そこには黒いローブを纏った1人の女が立っていたのであった。


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