第39話
翌朝。
俺とマリー嬢は何事もなかったかのように、平然を装って出発した。オレリーが昨夜のことを知っているかは判らないが、俺は黙っているつもりである。
そして今日は何事もなく町に着き、宿屋に泊まった。
それから数日があっという間に経ち、俺たちはプロシアノ公国の公都ベルケーニに到着したのであった。
公都ベルケーニには、ほんの少し長く滞在する予定である。
「ようやく公都ベルケーニに到着いたしましたね」
マリー嬢がそう言って馬車を降りると、周囲を見渡す。馬車駅からでも、公都ベルケーニの立派な街並みが一望できる。
夕日と相まって、確かに良い眺めかもしれない。
まあ、ガリヌンス王国宰相の娘として、何かプロシアノ公国に思うところがあるのかもしれない。
プロシアノ公国は、アストリア公国と交代で中央諸国同盟の盟主国を務める国だから、ガリヌンス王国にとっても重要な国の1つに違いないだろう。
「ここまで賊に襲われなくて良かったよ。本当に」
公都ベルケーニに到着して悦に入っているのだろうマリー嬢を尻目に、俺はそう呟いた。
たった1人の賊によって馬車が襲撃を受けるという話は、ここにやって来るまでに至るところで聞いた。
それらの話を聞く限りだと、賊は毎回俺たちの少し先を進んでいた馬車を襲撃していたのだ。
つまり、ここ公都ベルケーニにその賊がいる可能性は充分にあるだろう。
「ええ。私たちの行く先々で、女性の賊が1人で馬車を襲撃していました。私たちも狙われていてもおかしくはなかったですね」
オレリーの言うとおりだ。もし予定よりも早く道を進んでいたとすれば、俺たちが狙われていたかもしれない。
「しかし賊の目的もよく判りませんぜ? 近くにその賊がいるからと言って、絶対に狙われるとは限らないでしょう」
と、御者のおっさんが言う。
随分と楽観的だな。このおっさんは。
「私は話を聞く限り、無差別に狙っていたように感じましたが? 」
1人で悦に入っていたマリー嬢が、話に入ってくる。
だがマリー嬢の言うとおりだ。俺も話を聞く限りだと、その賊は無差別に馬車を狙っているように感じたのである。
「まあ、場合によっては冒険者などの用心棒を雇うことも考えなくてはな」
1人で馬車数台を燃やすなんて、とんでもない奴に違いないないのだ。護衛は1人でも多くいた方が良いだろう。
「私では力不足ですよね……。申し訳ありません」
オレリーが少し俯きつつ、そう言った。少し、無神経なことを言ってしまったかもしれない。
「いや、オレリーは充分護衛としての役目を果たしてくれているよ。しかし危険に対する保険は複数かけておいても問題ないだろう」
俺がそう言うと、オレリーは安堵したかのような表情をした。
それから俺たちは公都ベルケーニの通りを進む。
御者のおっさんは、露店で売られている酒を飲んで既に出来上がっていた。テキトウにブラブラしていると、偶然にも宿屋が目に入ったので、俺たちはその宿屋で泊まることにしたのである。
※
翌朝。
俺は、鶏の鳴き声に起こされた。
今日はそれぞれ自由行動をしようということになっている。とはいえ、マリー嬢とオレリーを1人にするのは危ないので、2人には一緒に行動してもらうことにした。
さて、早いところ支度をして出かけてしまおう。
俺がプロシアノ公国の公都ベルケーニで滞在する時間を設けたのには、ちょっとした理由がある。
なんでも公都ベルケーニでは、冒険者たちの活動が盛んらしいのだ。しかも、初心者でも冒険者の職にありつけるという話を聞いている。
つまり、今日俺が出かけようとしている場所は冒険者ギルドなのである。素早く支度を済ませた俺は、直ぐに宿屋を出て冒険者ギルドを目指した。
冒険者ギルドにやって来ると、まだ早朝だというのに賑わっていた。
「何か俺にも出来そうな依頼はないかな……」
俺はそう呟いて、掲示板を眺める。
確かに俺にも出来そうな依頼はいくつかある。例えば、冒険者ギルド内の清掃や、街の清掃などだ。だが、何というか冒険者らしい依頼の中で俺に出来そうなものは何1つ無かったのである。
まあ仕方ないな。
俺の心は勝手に踊れど、≪現実≫は俺と一緒に踊ってくれはしないのだ。
「今日もダンジョンへ行きまーす! ルーキーたちも数多く募集していますから、どしどし参加してください! 」
と、不意に女性が大声で呼びかける。
声の感じからして、まだ10代だろうか?
その女性とその仲間らしき者たちの周囲には、多くの冒険者たちが集まっていた。彼女たちと一緒にダンジョンへ行こうと考えた者たちが、集まってきたということだろう。
何だか面白そうだ。
俺も参加してみようか。
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