第37話

 ギヨーム王太子が王都バリヌを発ってから、既に1カ月以上が経っている。


 その間に私は、国王アンリ4世から貰った大金貨11枚を資本金としてバロヌ商会を立ち上げた。都合よくバルヌ家の隣家が空き家であったので、それを購入・改築して店舗にしたのである。


 もちろん、まだ親族以外の従業員は1人もいない状態だけど、いずれバルヌ商会が大きくなったら雇いたいとは考えている。


 さて、商会を立ち上げてか直ぐに儲けが出たので、大金貨25枚程度を保有するに至った。前世でプレイしたゲームの記憶を元に、王都バリヌで流行る品物を購入し販売したからである。

 

 まあ転売と、さほど変わらないだろう。


 ともあれ、そのおかげで最低最悪に陥った家庭状況も多少はマシになったと思う。

 

 だが、今は借金をしている状況だった。

 

「とにかく、青銅と鉄を買い集めなさい」


「姉さん! 多額の借金を背負ってまで青銅や鉄を買い占めるなんてリスクだよ。もし値下がりでもしたら……」


 番頭を務めている弟のアロイスが、そう言う。

 もし値下がりでもしたら、今度こそバロヌ家は終わるかもしれないね。だけど、これから青銅と鉄は急騰するはずなのだ。


「大丈夫よ。私を信じなさい」


 私は強きな態度を示して、そう言った。


 もうまもなくガリヌンス王国が、3大国の1つであるイスパド王国との国境紛争が始まるはずだからだ。

 その国境紛争が原因で、大規模な戦争になると考えた商人たちによって青銅や鉄の買い占めが起こるという流れになる。


 だけど実際には大規模な戦争になることは無く、両国それぞれの思惑によって原状回復によって終戦となる。つまり、国境紛争が勃発した段階で買い集めた鉄と青銅を売れば、大儲けできるというわけだ。



 因みに、この話は、オリジナル作品・スピンオフ作品のどのルートでも共通して起こる。

 とはいえ、本編に大きく関わってくるのは、オリジナル作品の主人公がイスパド王国の王太子のルートの入る場合だけだった。

 そのルートに入った時だけ、国境紛争が起こった背景などが語られるのだ。


 端的に言うとこうなる。

 スコルランド王国とイスパド王国が、ガリヌンス王国を挟撃しようと画策する。


 しかしイスパド王国が実際に軍事行動に出たものの、スコルランド王国は一切動かないので、手を引こうと考える。一方でガリヌンス王国としてはスコルランド王国との問題がある手前、大規模な戦争を避けたい。


 こうして、国境紛争は原状回復で終わるのだ。


 ついでに補足すると、ガリヌンス攻撃を画策したイスパド王国とスコルランド王国は、そもそも戦争状態にある。



 まあともかく私は、各国の思惑などよそに物を売ってしまえば良いわけだね。





 娘マリーがギヨーム王子と旅立ってから、既に1カ月以上が経つ。

 今頃は、どこで何をしているのだろうか……。


 娘マリーとギヨーム王子は、婚約破棄の危機を迎えた。

 それはギヨーム王子がユウカ・バロヌなる娘と親密な関係になったことが原因である。ユウカ・バロヌの戯言を信じたギヨーム王子が、娘マリーにきつく当たったのだ。


 そして、その事実を何故か細かく知っていた国王アンリ4世によって、公の場でギヨーム王子は廃嫡宣言が為されたのである。


 ギヨーム王子の廃嫡は、私の予定を狂わせた。

 少なくとも以前のギヨーム王子は、とても操りやすい存在だったのだ。彼が国王になった暁には、この俺が彼を操り人形にしてこの国を牛耳ろうと考えていたのである。


 しかし、ギヨーム王子は廃嫡になってしまったのだ。

 ギヨーム王子の廃嫡後、周囲の貴族たちからは婚約破棄を勧められたが、俺はテキトウにあしらった。


 廃嫡されたとはいえ、ギヨーム王子との姻戚関係を維持するためである。予定は狂ったとしても、王族との姻戚関係は築いていたほうが良いからだ。


 それに、今後何がどうなって廃嫡取消になるか判らない。

 「廃嫡という処分」も取り消されれば、廃嫡自体が無かったことになる。つまり、ギヨーム王子が王太子として返り咲く可能性もあるのだ。

 

 だからこそ、ブレンニュ公爵家も大暴れしているのだ。


 因みに、次女とシャルル王子との婚約成立に向けての準備も進めている。とにかく、数は多く撃っておいたことに越したことはないだろう。


 ところで、ギヨーム王子は我がブルゴヌ公爵家に頼ってきた。ブレンニュ公爵の飼い犬についてや、タオドール薬師一家のことなどである。ギヨーム王子が我がブルゴヌ公爵家なしではやっていけなくなるのも、時間の問題かもしれないな。




「アナタ。久しぶりに一緒になりましょう」


 不意に、俺を支配する者の声がする。

 即ち、俺の妻である。


「お、おお」


 俺がそう声に出したときには、妻は俺に密着していた。俺にも男の性があるが故に、妻のオーダーに逆らえず、妻に為されるがままに服を脱がされる。


 既に40代中盤だというのに、年不相応な美貌を持つ妻に迫ってこられたら、俺は抵抗など出来ようにもない。


 そう言えばマリーはギヨーム王子を泥酔させた挙句、部屋に連れ込んだらしい。

 流石は、俺の妻の血を引く者だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る