第33話
マリー嬢とオレリーは疫病に感染した。
それが俺の判断である。
例えば、インフルエンザの時のような検査を行ったわけでもない。
しかし、高熱という症状が出た以上は、そう判断しても問題はないだろう。何せ、この街で流行している疫病か否かにかかわらず、俺に出来るのはあくまでも対症療法だけなのだ。
因みに、ステータス確認では病気の確認までは出来ない。
そして、2人に高熱の症状が現れてから既に3日目の朝を迎えた。
感染を出来るだけ防ぐために御者のおっさんには、馬車の中で寝泊りしてもらっている。
「オレリー。解熱薬を作ったぞ」
「殿下……ありがとうございます」
オレリーが弱々しい声でそう言い、ゆっくりと起き上がり俺の作った解熱薬を飲もうとする。
「ゆっくりと飲めよ」
オレリーはゆっくりと解熱薬を飲んだのであった。俺はそれを確認し、直ぐにマリー嬢が寝ているベットに向かう。
「マリー嬢。直ぐに薬をつくるからな」
「……はい」
マリー嬢はオレリーよりも重症なのだ。
額を確認すると、やはり熱が籠っていた。2人とも解熱薬の効果が無くなってきた時間帯だとはいえ、先ほど確認したオレリーよりも熱いのは間違いないだろう。
まずは額にのせていた濡れタオルを交換した。それから、解熱薬を作りに取りかかる。
解熱薬を作りつつ、こう思う。
マリー嬢はもう助からないかもしれないと。そう思わせるだけの理由はある。それはオレリーと違って、解熱薬の効き目が弱いからだ。
実際、俺の診ている患者の中には解熱薬の効き目が弱い患者がいる。そして、その内の何人かは死んでいるのだ。
「よし。薬ができたぞ。ゆっくり飲むんだ」
俺は、マリー嬢にゆっくりと解熱薬を飲ませた。
それから2人に薬を飲ませ終わった俺は、患者たちの診療を開始する。朝から晩まで、ひたすら解熱薬を作っては飲ませるのだ。
材料の買い出しは、御者のおっさんの役目になっていた。
考えてみると、俺も御者のおっさんもそろそろ危ないかもしれない。そうなれば、先に罹患しているマリー嬢やオレリーの面倒は誰が見るのか……。
解熱薬の投与を止めた時、即ち2人の命が尽きる時だろう。
※
2人に高熱の症状が現れてから4日目。
相変わらず、2人の容体は快復しない。この日も、俺は朝から晩まで診療を行った。
5日目。
今日も、2人の容体は快復しない。まあ今まで診てきた患者の誰1人も快復しないのだから、判っていたことだが……。
ところで、俺が診ていた患者の幼子が死んだ。
幼子の家族からは散々罵倒されたが、何が反論する気にはならなかった。
6日目。
結果は同じ。
ふと思ったが、俺は公都ブリュトワープにやって来て以来、他の薬師と一度も接触していなかった。他の薬師たちが診ている患者の状況も知りたいところだ。
そう思って、老人クルトの家に行ったところ、彼からとんでも無い話を聞いた。
何でも、僅かに残っていた薬師たちも疫病に罹患してしまい、診療どころではないのだという。つまり今現在、まともに診療しているのは俺だけなのだ。
まあ、薬師たちも数多くの患者と接してきたのだし、感染するべくしてしたのだろう。
こうなると、俺もそろそろ危ないな。
7日目。
1週間経っても、2人が快復することは気配は一切感じられないが、今日は嬉しいことが起こった。
俺が診ていた患者数名が快復していたのだ。その患者数名については、解熱薬を飲ませるのを止めて、様子を見ることにした。
8日目。
2人の状態は相変わらず。ところで俺も御者のおっさんも今のところ元気だ。
今日はさらに快復に至った患者たちがいた。
※
2人に高熱の症状が現れてからちょうど2週間といったところだ。
朝になって俺が2人の熱を確認したところ、2人の熱は下がっていた。
既に解熱薬の効果が無くなっている時間帯なのにも関わらず、熱が下がっているということは、ついに、マリー嬢とオレリーの2人も快復に至ったのだ。オレリーに比べてマリー嬢は危ない状況にあったが、彼女もこうして無事に快復してくれた。
「2人とも。良かったよ。ホッとした! 」
俺は安堵した。
そして、今日も公都ブリュトワープでの1日が始まろうとしている。だが今日は、喜びに満ちて1日が始まるのだ。
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