第29話


 タオドールの妻子を助けた後、王都バリヌに戻って来た頃には夜になっていた。タオドールたちとは馬車駅で別れ、今はオレリーと御者のおっさんの3人で行動している。


 行き先は、いつもの酒場だ。


 御者のおっさんには大金貨1枚とちょっとを支払ったわけだが、今日は俺のおごりで付き合うことにしたのだ。

 

「旦那! 奢ってくれるなんてありがてぇ。だが悪いが今日はとことん飲ませてもらうからな」


 既に、露店の酒を飲んで酔っている御者のおっさんがそう言う。

 おっさんがとことん飲んでも、俺の支払い能力を超えることはないだろうし、問題は無い。


 まあ、これから旅を始めようとしているわりには無駄遣いが過ぎるかもしれないが、このおっさんを飲みに誘ったのには一応の理由がある。


 ともかく俺たちは、いつもの酒場にやって来た。

 

「とりあえず、ビール3杯と干し肉ね」


 早速注文する。

 そして僅かな時間を置いて、ビール3杯と干し肉が運ばれてきた。御者のおっさんは、一気にビールを飲み干す。


 俺もジョッキの半分まで一気に流し込み、オレリーはゆっくりと飲んでいる。

 

「それで、あれだけの報酬をくれた上に奢ってくれるなんて、どういうつもりなんだ? 」


 と、業者のおっさんが言う。


「そのことなんだが、クビになるかもしれないって言ってたよな? 」


「ああ。具体的に言えば、御者ギルドから追放されるかもしれないってことだ。もし追放されたら、御者としての仕事にありつけなくなるから、事実上のクビってことだよ。で、危険運転は追放事由になる。まあ、あんたからもらった報酬もあるし、それに馬車とあの馬さえ売ればしばらくは食いつないでいけるが……」


 なるほど。

 なら、こちらにとっては好都合かもしれない。


「その上で訊きたいことがあるのだが、御者ギルドから追放されたとしても、御者としての仕事は合法的にできるのか? 」


「理屈の上では合法的にできるが、殆どの御者は御者ギルドを介して仕事にあるついているわけだからな。どこぞの貴族の専属でない限り、御者ギルド未加入でやっていくのはきついだろうよ」


 御者ギルドに加入していなくても、合法的に御者としての仕事ができるのであれば、問題はない。


「実は俺たちはある事情で旅をすることになってな。そこで、俺たち専属の御者になって欲しいのだ」


「あんたらの専属に? ま、まあ、あれだけの報酬を寄越すくらいには金持ちなのだろうが……」


 御者のおっさんはそう言うと一旦話を中断し、給仕を呼び勝手にビールを3杯とつまみを注文する。俺はともかく、オレリーはまだ1杯目のビールを飲み切っていないというのに……。


 まあ良いか。

 

「で、どうなんだ? 」


「是非ともその話に乗らせてくれ」


 と、御者のおっさんが言う。


「なら取引成立だな。これからよろしく頼むよ」


 これで、俺たちの旅は多少は楽になるだろう。


 さて程よくアルコールも回ってきたことだし、いつものアレをやるとしよう。昨日、王族に対する侮辱で追放されそうになったが知ったこっちゃない。今日も王族ネタを披露してやろう。


 酒場が盛り上がる。

 御者のおっさんは困惑する。

 オレリーは呆れ顔をする。


 そしてしばらく時間を潰したのち、俺たちは酒場を後にしたのであった。御者のおっさんはとは酒場を出て直ぐに別れた。彼とはまた明日もここで会う約束している。


 今はオレリーと二人っきりで王宮までの道を進む。


「旅を始めるのはいつか、具体的な日程はもう決めているのですか? 」


「大体は決まっているが、明日みんなと相談して正式に決めようと思う。皆の都合も考えなければならないからな。だからマリー嬢にも明日は一緒に同行してもらわないとな」


 明日は俺、マリー嬢、オレリー、そして御者のおっさんの4人でそれを話し合いたいと持っているのだ。まあ流石にマリー嬢を連れていつもの酒場に行くのは拙いだろうし、程よい店でも見つけなければな。


 そして俺たちは王宮に到着し、それぞれの寝室へ向かったのであった。


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