第28話
中庭に戻ると、相変わらず商人たちによる営業が続いていた。
俺たちは、城内の兵士たちに咎められることもなく中庭を進む。
やはり、警備が緩すぎるような気がする。
「あの貴方は一体……? 」
と、夫人が訊ねてくる。
まあ、俺が一体何者なのか、それが気になるのは当然だな。
「何でも屋のヴィル・ポンポンと言います」
「何でも屋? 」
「タオドール先生から、お二人を助けるよう依頼を受けたのです」
「夫が依頼を? 」
「まあ……そういうわけです」
俺はテキトウに、そう言った。
実際は俺が勝手に進めたことだ。
さて、問題は依然として残っている。この城からどうやって抜け出すかという問題である。今のところは順調だが、また門番を通過する必要があるわけだ。
……。
そして、何とか城門付近までやって来た。門番の兵士は2人。だが、賄賂で買収した2人ではない。タイミング悪く交替してしまったようだ。
可哀想だが、良いことを思い付いた。
ここは腹を括るしかない。
覚悟を決めた俺は、門番2人が持っている槍を収納したいと念じた。
すると、たちまち2人の持っていた槍は消える。突然持っていた槍が消えたからか、門番2人はパニックに陥った。
さらに俺は、2人の兵士が装備している革製の鎧も収納するべく念じると、革製の鎧も消えた。またさらにズボンや服、パンツまでも収納したのである。文字通り丸裸になった門番2人は赤面しながら地面にうずくまった。
妻子2人は突然丸裸になった門番を見て、非常に驚いている様子だ。
「今は城から逃げることに専念しましょう」
そう言って、俺はタオドールの妻子を連れて城を出た。
城を出ても、油断は禁物だ。
それにここでモタモタしていたら、異常に気づいた他の兵士たちがやって来るかもしれない。
「さあ、まずは自宅まで急ぎましょう。そこでタオドール先生が待っておりますので」
俺たち3人は、直ぐにタオドールの自宅へと戻ったのであった。
「ソフィ! アンナ! 無事でよかった」
「あなた! 」
「お父さん! 」
と、家族3人が感動の再会を果たす。
「感動の再開を果たしているところ申し訳ないが、直ぐに王都バリヌへ急ぐぞ。ここはミハイル・ブランのお膝元なんだ。いつまでも滞在しているわけにはいかない」
「し、しかし殿下……。ここには、自宅に家財道具があります」
「お前なら王都バリヌにも住まいがあるのではないか? 」
「ええ。確かに王都バリヌには借家がありますが……」
「本当に大切な物や、生活に最低限必要な物だけもってこい。王都バリヌについたら残りの俺が家財道具を用意してやる。住まいはしばらくその借家を利用しろ。後でちゃんとした住まいを用意するし、こちらの自宅も俺が後で適切に処理する」
何とか用意してやらないとな。
とはいえ俺には力が無いので、後でマリー嬢に相談するとしよう。まあ、家財道具だけなら≪陶芸家ランヌ氏作成の壺≫を売ればどうにかなるだろうけど。
「わかりました」
それから、タオドールたち3人はものの数分で、数点の着替えのみを用意して持ってきた。
「直ぐに馬車駅へ向かうぞ」
俺はそう指示し、馬車駅へと急ぐ。
馬車駅に到着すると、先ほどの御者のおっさんが佇んでいた。
「また会ったな? 」
俺はそう声をかけた。
「あ、ああ。あんたたちか……。あんたたちのせいで、俺はクビになっちまうよ」
と、御者のおっさんがボヤく。
もしかしてスピードの出しすぎが、上にでもバレたのであろうか。
仮にそうなら、確かに俺のせいだ。
「そ、それはすまなかったな。それで……物は相談なのだが、王都バリヌまでまた送ってくれないか……」
「別に良いですよ。どうせクビになりますからね。ですので、やけ酒・やけ食いの稼ぎ分くらいは、おカネ請求するんで」
「そうか。ならこれをくれてやる。釣りはいらないよ」
俺はそう言って、大金貨1枚を手渡す。
「えっ……大金貨!? 」
御者のおっさんは驚いた表情でそう言い、大金貨を受け取る。
彼とは、王都に着いたら後で話したいことがある。
「じゃあ頼むぞ。それも、帰りもなるべく速くしてくれよ」
そして俺たち5人は王都バリヌまで、馬車で移動したのであった。
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