第27話


「貴様の夫はこの俺を裏切った。だから妻である貴様と娘には死んでもらう」


 と、間違いなく領主代行らしき人物……否、ミハイル・ブランはそう言った。


 もはや、じっとしているだけではタオドールの妻子が殺されてしまう。行動に出なければならない。


 幸い、ここにはミハイル・ブランと囚人しかいなかった。警備の兵が誰1人としていないのである。


 何というか警備が緩すぎるような気もするが、行動するには今が絶好のタイミングだろう。

 

「ミハイル・ブラン! 」


 俺はそう叫んだ。

 するとミハイルは、突然のことで驚いたのか、体をブルッとさせながら俺を見た。そして俺は続けて言う。


「俺はギヨーム・ボルボンだ。王族として命ずる。直ちにその場を離れよ」


 威厳があるかどうかは、どうでも良い。

 一番肝心なのは、はっきりと奴に聞こえる声で言えば良いのだ。


「……た、確かに貴方はギヨーム殿下のようだ。まさかこのような場所でお目にかかるとは思っていもいませんでしたが……。しかし非常に残念ですが、殿下にもここで死んでもらうことにしましょうか」


 ミハイルはそう言うとレイピアを抜き、走って俺に向かってきた。

 一方の俺は丸腰だ。しかも周りにはレイピアによる攻撃を防げるようなものはない。


「では死んでくださいィィィ! 」


 もはやミハイルは至近距離である。レイピアが俺の胸を貫こうとしている。


 そう言えば、俺には収納スキルがあったよな。今目の前で、俺を貫こうとしているレイピアとかって収納できないのだろうか? 


 そう思った途端、ミハイルの持っていたレイピアが消えたのであった。

 消えたのだ。


 だからミハイルの右手が俺の胸に当たる。それもそれで、とても痛い。だが俺は死ぬことはなかった。


「な、なんだと……? 」


 と、ミハイルは驚いた表情を浮かばせながらそう言って、体勢を崩す。

 俺自身とても驚いている。まさかとは思うが、レイピアの収納に成功してしまったのであろうか? 


 だが、あの老人の声は確かに言っていた。

 収納したいと念じれば、収納できると。


 俺はミハイルの持っていたレイピアを収納したいと思っていたわけだし、そう考えると確かに条件は満たしているように思う。

 ならば……。


「お前こそ、ここでくたばれ! 」


 俺はそういつつ、レイピアを取り出したいと念じた。

 するとどうだろうか? 


 俺は右手でレイピアを握っていた。しかも、ミハイルの首に突き刺さるか否か、という状況になっていいる。


「……どうなっている」


 もはやミハイルは唖然としていた。


「殺されたくなければ、直ぐにタオドールの妻子を閉じ込めている牢の鍵を渡せ」


 俺はそう言いい、レイピアをミハイルの首に軽く突き刺した。


「くそっ! 」


 ミハイルは、そう悪態をつきながら牢の鍵を俺に手渡してきた。

 俺はそれを左手で受け取る。


「タオドールの妻子たちを閉じ込めている牢まで歩け! 」


 俺はそう命じた。

 とは言っても、恐らくすぐそこだろう。先ほど、ミハイルの奴はタオドールの妻子であろう者と話していたからである。


 案の定、ミハイルは先程まで話していた者たちの前で立ち止まった。


「タオドール薬師のご家族の方ですか? 」


 俺は、牢の中にいる2人にそう訊ねた。


「……は、はい」


 2人の内、中年の女性がそう言った。


「そうですか。では直ぐに鍵を開けます」


 俺はそう言って、ミハイルから手渡された鍵を使って牢を開けた。慣れない左手での作業だったので少しばかり時間をロスしたが、些細な問題だ。それよりも、俺はミハイルが変に行動しないよう警戒するほうが重要であった。


 そして、タオドールの妻子は牢から出る。


「ミハイル。牢の中へ入れ! 」


 俺がそう命じると、ミハイルは素直に牢の中へと入った。

 きっと自分の命が大事なのだろう。


 それから直ぐに、牢の鍵を閉めたのである。


「直ぐに城を抜けるとしましょう」


 と、俺はタオドールの妻子に言う。

 だが、そうは言うものの、どうやって抜け出せば良いのだろうか? また賄賂でどうにかするというという手もあるが……。


 あまりお金を使いたくはないし、賄賂で以て成功するとも限らない。

 ともあれ、一先ず中庭へと急いだのであった。


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