第26話

 ブレンニュ公爵領の領主の館。

 簡単に言ってしまえば、それは城である。


 俺はその城門前にやって来た。

 

 だが、ここにきて俺はある問題にようやく気づいたのである。というのも、俺は王族の身分を利用して中へ入ろうと考えていたわけだが、今の俺に王族であることを証明する物がないわけだ。


「やあ」


 無策のまま俺は、城門を警備する兵士に近づいた。


「ここは領主様のお館だ。用が無いなら立ち去れ! 」


 と、兵士が言う。

 まあこうなると思っていたよ。とりあえず、奴ら2人のステータスでも確認をしてみるか……。



――――――


警備兵A 23歳 男

職業 ブレンニュ公爵領の兵士

レベル2

HP125

攻撃力23(+33)

防御力18(+20)

魔力5(+0)


特記事項  薄給のため、カネがもっと欲しい


――――――


――――――


警備兵B 43歳 男

職業 ブレンニュ公爵領の兵士

レベル5

HP145

攻撃力43(+33)

防御力38(+20)

魔力5(+0)


特記事項  そこそこの給料を貰っているが、ギャンブル好きのため多大な借金を抱えている。手元にカネが欲しい


――――――


 なんだ……。

 こいつらカネが欲しいのか。


「ここは、これで入れてくれないか? 」


 俺は持っていた大金貨2枚を取り出し、2人に見せた。

 実は領都ルンアンに来る前に王都バリヌで、≪画伯モント氏の絵画≫を大金貨4枚で売りさばいたのである。


「大金貨だと!? 」


 2人の内、若い方……即ち警備兵Aがそう言う。


「これだけあれば」


 と、中年の警備兵Bもそう言った。


「たまに商人などが来るだろう? 俺も一応、美術商をやっていてね」


 と、俺は咄嗟に思いついたことを言う。


「まあ良いだろう。本来なら領主か領主代行の許可状が無いと城内での商売は出来ないが、特別だ」


 警備兵Bは、大金貨1枚を受け取るとそう言って中へ入れてくれたのであった。俺は警備兵Aにも大金貨1枚を渡し、中へと入った。


 警備兵Bの案内で、俺は中庭まで連れて来られると、そこには商人らしき数人が商いをしていた。商人らしき者たちは、それぞれの商品を並べていた。


 休憩時間なのか一部の使用人らしき者たちが、商品を購入している様子も窺える。


「じゃあ俺は戻る」


 警備兵Bはそう言って、城門前へと戻っていった。


 さて俺は、収納スキルで収納していた≪陶芸家ランヌ氏作成の壺≫を取り出した。一応は商人のふりをするためである。本当の目的は、この領主の館の地下にある牢獄へ行き、タオドールの妻子を保護することだ。


 それから、時間がただ過ぎる。


 結局、情報など得られなかった。しかし情報を得ようと迂闊に行動すれば、俺自身が捕まりかねない。だから、中庭でウロウロするほか無かったのだ。


「領主代行が帰って来たぞ! 」


 使用人らしき1人がそう叫ぶ。

 すると、中庭は慌ただしくなってきた。


 数分もしないうちに、格好から見て領主代行らしき者が、ずかずかと中庭に入って来た。こいつがミハイルなのだろうか……。


「直ぐに牢獄へ行く。そこで用を済ませたら、またすぐに出かける」


 領主代行らしき者はそう使用人に告げ、俺の前を通り過ぎた。


 やはり、こいつの後を尾行するとしよう。

 俺は早速、領主代行らしき者を付けることにした。警備の目もあるが、俺は他に良い作戦が思い付かなかったため、これくらいしか方法がない。


 運の良いことに、今のところバレている様子はない。


 そして、領主代行らしき者が螺旋階段を降り始めたのであった。俺もほんの数秒の時間を置いてから、その螺旋階段を降りる。


 螺旋階段を降りると、そこには牢獄が広がっていたのであった。


 そして、領主代行らしき者が鉄柵越しで、誰かと話している様子が目に入った。

 今の内に、奴のステータス確認をしてみるか……。


―――――――

ミハイル・ブラン 年齢36 男

職業 ブレンニュ公爵領の領主代行

レベル26

HP238

攻撃力120(+20)

防御86(+2)

魔力30(+0)


特記事項 人殺し


―――――――


 なるほど。

 お目当てのミハイル・ブランをようやく見つけられたようだ。


 しかし、もしも戦闘になったら俺がやられてしまうのは間違いないがな。


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