第25話


 それからの行動は早かった。

 俺はタオドールを連れて、特急馬車を使いブレンニュ公爵領まで急いだ。とはいえ、ブレンニュ公爵領での用を済ましたら、また王宮には戻って来るつもりなので、マリー嬢には王宮に残ってもらった。


 オレリーは、俺の護衛のために同行している。

 つまり今は俺とタオドール、そしてオレリーの3人で移動しているわけだ。


 目的地は、ブレンニュ公爵領の領都ルンアン。

 その領都ルンアンにタオドールの妻子は住んでいるのだと先ほど聞いた。


「殿下」


 と、タオドールが言う。


「何だ? 」


「流石にミハイルも特急馬車を使って移動しているはずです。後から特急馬車で追いかけたところで、間に合うのでしょうか」


 確かに、ミハイルの奴も時間との勝負のはずだ。

 特急馬車を使って移動したに違いないだろう。


「任せておけ」


 俺はそう言ったものの、具体的な作戦が思い付かない。

 ミハイルの奴がタオドールの妻子を襲撃するより前に俺たちが保護するためには、スピードしかない。スピードだ。


 スピードで競うほかない。


 自動車だったら、高速で走らせるなんてことも可能だが……。

 ちょっと待てよ? 


 俺は特急馬車の馬を、鑑定スキルで鑑定することにした。

 すると、馬の情報が脳内に入ってくる。



―――――

種別 特急馬車用に選別された馬

状態 至って良好

相場価格にして大金貨150枚分

特記事項 稀代の名馬にして、馬車を引いてもなお、時速180キロを出すことが可能。さらに0.1秒以内の急停止も可能。また極めてタフである。

―――――


……。


 おいおい。

 まさか……な?


 何て幸運なのだろう!


 もはや、かっ飛ばしてもらう他はあるまい。


「御者! もっとスピードを出してくれ」


 俺がそう言うと、御者は馬に鞭を打ち、スピードをあげる。


「もっとだ」


「お客さん! これ以上は馬がもちませんよ? 」


 御者がそう言う。


「いいや。この馬なら何とでもなる。もっとスピードを上げてくれ」


「しかし! 」


「良いから早く! 」


「わかりましたよ! もうどうなっても知りませんからね! 」


 御者はそう言うと、再び馬に鞭を打ち、特急馬車のスピードはみるみる内に上がっていくのであった。


 日本にいた頃を思い出す。

 まさに今、高速道路を自動車で走っているかのように、特急馬車は進む。幸い歩行者は道の脇を進んでいるため、人身事故が起こる様子はない。


 いざとなったら、急停止をすれば良い。


 それから、俺たちを乗せた特急馬車は急発進と急停止を繰り返しながら(様々な理由で)、僅か50分ほどで領都ルンアンに到着したのであった。


 結果、馬車酔いは酷いものだが……。


「とにかく、急いで家族のもとまで行くぞ! 」


「はい! 」


 俺たちは全速力で走り、タオドールの自宅まで急ぐ。少しでもミハイルの奴に後れをとったら、タオドールの妻子は無事では済まないだろう。


 そして、タオドールはある家屋の前で立ち止まった。

 

「ここが私の自宅です」


 タオドールが指で指し示してそう言った。


「なら、直ぐに家族の安否を確認するぞ」


 俺がそう言うと、タオドールを玄関をノックする。玄関を開けようとしたものの、鍵がかかっていたわけだ。


「私だ。ソフィ……いるなら玄関を開けてくれ」


 数秒の長い時間が過ぎる。

 タオドールにとっては、もっと長く感じたことだろう。


「……どうやら出てくる気配がなさそうですね」


 と、タオドールが言う。声のトーンからして、焦っているように感じられる。無理もない。妻子の安否が判らないのだからな。


 それから、俺たちはタオドールの玄関前で立ち尽くした。

 それ以外にやることがないからだ。


 考えてみれば、ミハイルの奴がタオドールに初めて接触するより前から、既に奴がどこかにタオドールの妻子を監禁している可能性もある。


「なあ。ミハイルの奴は、ブレンニュ公爵領では具体的にどんな立場なんだ? 」


「奴はブレンニュ公爵領の領主代行という立場です。ですので、奴のブレンニュ公爵領内における権力は絶大なものでしょう」


 なら、監禁されていてもおかしくはないか……。


「領都ルンアンに牢獄はいくつある? 」


「私の知っている限りですと、1つです。領主の館の地下にあるはずです」


「そうか」


 話は早い。

 王族の立場を利用して、領主の館に侵入することにしよう。


 さっそく俺は、タオドールとオレリーを残して単身で領主の館へと向かった。領主の館へ行くくらいなら、案内は必要ない。護衛も……まあ何とかなるだろう!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る