第23話


 俺にとって想定外のことが起こった。

 というのも宰相であるブルゴヌ公爵が、あろうことか娘のマリー嬢をギヨームの旅に同行させると言い出したからである。


 まさか、ここまで王族との婚約関係にしがみつこうとしているとはな。

 娘のマリー嬢が可哀想でならない。もはや娘を自身の権力基盤の道具としか思っていないのだろう。


「陛下。私は悪くありませんよね? 私はあくまでもギヨーム殿下の国外追放を提案したのですから」


 と、ユウカ嬢が言う。

 確かに、ギヨームを国外追放ということにしていれば、流石に宰相も娘を同行させるような決断は下さなかったはずだな。


「すまなかった。ユウカ嬢の言うとおりにしておけば、こうはならなかったはずだ」


「息子さんであるギヨームに対して、情が生まれましたか? 」


 まあ、そう思われても致し方ない。


「いや、逆だ。ここ最近の奴を見ていると何故だか不気味に感じてな。だからあまり感情を刺激しないよう、曖昧な処分を下したのだ」


「確かに、以前とは様子が違っているように見えました。それに薬師試験にも合格し、シャルル殿下を診たとか……」


 以前の奴ならありえなかった。

 シャルルを診るなんてことも絶対に起こり得なかったといっても良いくらいに、ギヨームはシャルルを嫌っていたのだ。

 

 ギヨームは側室という制度そのものを嫌っており、その側室の子であるシャルルを嫌っていたわけである。


 ギヨームは常日頃から、一夫一妻制が正しいと言っていたことを思いだす。

 ギヨームの正義感を他人に押し付けるような、嫌な性格をしていたのだ。


 そのギヨームが、今ではシャルルを診たのだという。

 もはや、俺の知らないところで色々と状況は変わっているようだ。


「ユウカ嬢。貴殿には約束どおり報酬を支払う。今回の結果は余の落ち度もあるからな」


 元々、ユウカ嬢には大金貨10枚を支払う約束をしていたのだ。

 

「よろしいのですか? ギヨーム殿下の件はともかくとして、シャルル殿下の婚約者が決まるまでは私もお手伝いしようと思っておりましたが……」


 ユウカ嬢の現状の立場と能力で、シャルルの婚約者決定に影響力を及ぼすとは思えない。 

 既に求めてた働き以上のことはしてくれたわけだし、彼女にはここでお役御免となってもらうつもりである。


「シャルルのことは、余と側室の妻で何とかする。ユウカ嬢は自由に過ごすと良い」


「わかりました。ではありがたく報酬を頂きますね」


 俺は大金貨11枚が入った袋をユウカ嬢に手渡した。

 1枚はサービスである。ユウカ嬢は時々、1人暮らしがしたいと言っていたのだ。大金貨1枚もあればよほどの高級な家屋でない限り、家賃として1年は持つだろう。


「今までありがとう」


「こちらこそ」


 ユウカ嬢はそう言うと、一礼をして俺の執務室を後にした。

 

 彼女もまた可哀想な者だと思う。

 どういうわけか、必死に生きようとしているように見受けられるのだ。是非とも大金貨11枚を有効に使って、幸せなってもらいたい。




「こちらこそ」


 私はそう言って、国王アンリ4世の部屋を後にした。

 これからどうしたものか……。


 今さら、私のせいで男爵位を剥奪された実家に帰ることもできない。


「だけど、アロイスだけは気がかりなのよね……」


 アロイスは私の弟である。次期男爵という立場だったけど、私のせいで彼は次期男爵の道を閉ざされたのだ。


 もし、この世界がオリジナルに準拠した世界なら、彼も幸せな人生を送っていたであろう。勇者ユウカの弟として、彼もまた活躍するからである。


 だけど、この世界はスピンオフ作品の世界なのだ。私にとっては、辛い世界。


「でも、大金貨11枚をもらったことだし、これを元手に色々と試してみるのも手ね」


 何とか生き延びたのだ。

 これからの目標は、私のせいで没落したバロヌ家を救うということにしよう。


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