第21話



 夕食会は終わり、俺は部屋へと戻った。

 

 アンリ4世。

 あんたナイスだ。俺自身、諸外国を旅してこの世界のことをもっと知りたいと思っていたら、諸外国を旅して知見を広めろという王令が下されたのだ。

 

 もはや、俺のために用意されたプレゼントと言っても過言ではない。


「殿下。もう旅を為されるのですか? 」

 

 と、一緒に俺の部屋にやって来たオレリーがそう言う。


「まあ早いところ旅を始めたいところだな。これでこの王宮ともサヨナラだ。最後にマリー嬢とシャルルには挨拶もするつもりだよ」


 もう、この王宮には戻って来るつもりはない。

 とはいえ、何も今日から旅を始めるというわけでもないのだ。


「では今日中に出発為されるのですね? 」


「いや、準備こそしているが、出発は少しばかり後になる思う。シャルルのことも診てやらないといけないしな」


 それにタオドールとミハイルとやらも何とかしなければならない。やり残しが俺にはあるのだ。


「もう準備を為さっていたので、てっきり直ぐにでも出発なさるのかと思っていました」


「誤解させてしまったのであれば、済まなかった。ところで、やっぱりオレリーも一緒に来るのか? 俺はもう王宮に戻って来るつもりはないぞ」


「覚悟はできています。どうかこの私を、殿下の旅の護衛として使ってください」


 と、オレリーが言う。

 もうこれ以上、訊いても答えは変わらないのだろう。


「そうか。では俺の護衛を頼むよ。だが報酬は支払えるかは判らないぞ? 」


 食い扶持を確保するために薬師になれたとはいえ、安定的に稼げるわけでもない。まあ、どこかの町に腰を落ち着けたら、また話は変わってくるのかもしれないが、あくまでも俺はこの世界を旅したいのだ。


「大丈夫です。私も冒険者ギルドに登録して、何とか食い扶持を稼ぐつもりですので」


 オレリーは、頬を赤くしながらそう言った。

 どうして、頬を赤くする必要があるのか判らないが、それでもオレリーも色々と食い扶持を稼ぐ手段は考えているのだろう。

 

 まあ、近衛騎士をやっているのなら、冒険者としてもやっていけるに違いない。ましてや荒くれ者を負傷させるくらいなのだ。


「そこまで考えてくれているとは。よろしく頼むよ」


「ええ。ですがそもそも当面……いえ数年は資金繰りに困ることはないと思いますよ」


 数年は資金繰りに困らないというのか……。

 確かに、俺にも現時点で僅かながらカネはある。僅かながらだ。

 どうやら、王太子は毎月報酬が支払われるようなのだが(単に王族というだけではもらえない)、転生前のこのポンコツギヨームが殆ど使い果たしていたようだ。だから僅かしかないわけである。


 それでも資金繰りに困らないということは、考えられるのは2つ。

 1つは王家から旅に生じる経費が支払われるということだ。だが、現時点では俺にそのような話は入ってきていない。俺にも話がこない以上は、その線は消える。


 なら、オレリーは何故、資金繰りに困らないといったのだろうか。

 考えられるのは、ヴァロア家からお金でも持ってくるということくらいだろう。


 それならそれで良い。オレリーも当面は食べることに困らないのならな。とはいえ、報酬こそ払えるかは判らないが、食費くらいは俺がオレリーの分も出すつもりである。


「そうなのか。だけど、食費とか宿賃は俺が負担するつもりだ。ヴァロア家からのお金は大事な時までとっておくと良い」


「えっ!? 殿下は何を仰っているのですか? 」


 オレリーは、キョトンとした表情を浮かばせながらそう言う。どうやら俺は可笑しなことを、無意識に言ってしまったらしい。


「何か可笑しなことを言ってしまったようだな? 」


「だって、ヴァロア家からお金なんて出ないというのに、殿下は何を勝手に想像為さっていたのですか」


 確かにな。

 ヴァロア家からお金が出るというのは、俺の勝手な推測だった。


「すまない。だが、数年の資金繰りに困らないと言ったら、それくらいしか思いつかなくてな」


「いえ。マリーさんも旅をご一緒されるのですよ。もしかて、聞いていなかったのですか」


「は? 」


 えっ!?

 マリー嬢が一緒に旅するだって?


 そんな話、知らないのだけど……。


「マリーさんからお聞きになっていると思ったのですが、殿下は知らなかったのですね」


「ああ。それで、その話は本当なのか? 」


「ええ。マリーさんのお父様である宰相閣下も、認めてくださっているらしいですよ? 」


 宰相であるブルゴヌ公爵も認めているとはな。何か政治的な意図がありそうだ。

 例えば……俺とマリー嬢の婚約関係を維持させたいということだろうか? 


 まあ、今さら俺との婚約を破棄しても、シャルルと婚約できるかは保障できない以上は、この俺相手でも婚約関係を維持したいというのは、仕方のないことかもしれないが……。


 ともかく事の真否を知るためにも、直ぐにでもマリー嬢の部屋を訪ねるとしよう。


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