第20話
まさに俺が国王アンリ4世から国外追放宣言を受けている最中に、弟のシャルルがまるでタイミングを見計らったかのように、乱入してきた。
そして、シャルルは俺の近くへと、周囲の視線など気にせずやってくる。
「シャルル。お前は病床の身だろう。部屋で休め! 」
と、アンリ4世が言う。
「父上。そんなことよりも、兄上の国外追放を取り消してください」
シャルルがそう言う。
まさか、俺を庇ってくれるとはな。
だが俺の問題だと言うのに、巻き添えをくらってシャルルまで国外追放になってしまっては困る。
シャルルには、これからこのガリヌンス王国を背負ってもらうのだから。
「シャルル。良いんだ。お前は部屋で休んでいろ」
俺はそう言った。
「兄上! 僕の熱を下げてくれたのは兄上です。やぶ医者の典医などより、兄上のほうがよっぽど優秀ではありませんか! 」
解熱薬の作り方を知っているだけだ。高度な医療サービスなどできやしない。
「シャルルいい加減にしろ。ギヨームは確かに薬師だ。典医でもお手上げだったお前の病気を緩和させたようだが、それとは別に、こいつは問題行動を起こしている」
アンリ4世が怒鳴り声をあげて、そう言った。
こいつもこいつで、何としてでも俺を国外へ追放したいようだな。
「やぶ医者すら見抜けない者……つまり父上に、兄上の本質など見抜けませんよね! 」
と、シャルルも遂に怒り出す。
そういうシャルルだって、俺の本質など知らないだろう。いや、俺に本質と呼べるようなものが、あるのかすら判らない。
「何を言うか! お前には期待していたが、どうやら期待外れのようだな」
シャルルも、公開の場で恥をかかせられるとは。
俺のせいだ。原因は俺にある。何とかうまくまとめないとならない。
「父上。シャルルまでをも公開の場で恥をかかせるのはお止めください」
「ギヨーム。それは本心で言っているのか? 」
「そのつもりですが? 」
少なくとも、シャルルまでもが嫌な目に遭うのはおかしいと本心で思っている。
「ふむ……」
不意に、アンリ4世は何やら考え込む。
もしかして、俺はシャルルとも仲が悪かったのであろうか……。
※
【アンリ視点】
「父上。シャルルまでをも公開の場で恥をかかせるのはお止めください」
と、ギヨームが言う。
まさか、ギヨームがこんなことを言うとはな。正室の子供であるギヨームは、側室の子供であるシャルルを嫌っていた。
一体どういう風の吹き回しなのだろうか……。
まあ、国外追放を目の前にして、自分の保身のため……即ち周囲の者たちに対する印象操作のため言ったのかもしれない。
とはいえ、今しがた聞いたシャルルの熱を下げたのはギヨームだと言う。だとすらなら、ギヨームは本心で言っているのだという可能性も残る。
それに、シャルルもまさかここまでギヨームを庇うとは思わなかった。
「ギヨーム。それは本心で言っているのか? 」
「そのつもりですが? 」
「ふむ……」
ここは、国外追放を断行すべきなのだろうか?
こいつは本心で言っているというが、それは嘘だ。だが、嫌っていた弟の病気をわざわざ治すということは、ただ事ではない。
私の知っているギヨームなら、病弱なシャルルを喜んで見ているはずなのだ。
奴の真意が判らんが、あまり奴の感情を刺激しない方が良いかもしれない。とはいえ、ブルゴヌ公爵の娘との婚約関係は破棄の方向へ進めたい。
「ギヨーム。国外追放は取り消す。そして、新たにお前には王令を下す」
「王令ですか? 」
さて、どんな王令にしようか……。
ブルゴヌ公爵の娘との婚約関係が破棄の方向に向かうという……ちょうど良い案が出てこない。
だからと言って、王令で直接婚約関係を破棄するのは拙い。
「余が許可を下すまで、諸外国を旅し、知見を広めるのだ。追放ではないので、ガリヌンス王国内の移動は自由だが、王都についてはひと月に7日までの滞在期間と制限する。これはサボりを禁ずるためだ。以上! 」
と、私はテキトウに思い付いた案で王令を下したものの、私自身でも何がしたいのか判らない。
しかし、何度も王令を取り消すことは拙い。
ギヨームには諸外国を旅してもらうことにしよう。
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