第18話


 俺はこの世界に転生して来て以来、パーティ会場を除けば、父親であるアンリ4世と会うことは無かった。


 だが、ついに父親であるアンリ4世から呼び出しを受けたのである。


「全く、廃嫡した王子を呼び出すなんてな」


 俺は案内役の執事に向かって、そう文句を垂れた。


「陛下と殿下は、親子でもあるのです。父親として、そのご子息とお話したいこともあるのでしょう」


 案内役の執事は、そう当たり障りのないことを言う。何というか、面白みに欠ける返答だ。オレリーやマリー嬢と話しているほうが、よっぽど面白い。


 そして、国王アンリ4世の執務室に到着した。

 俺はノックして、その執務室に入る。


「ギヨームよ。来たか」


 俺の姿を見るなり、アンリ4世がそう言う。


「お呼びでしょうか。陛下」


「急で申し訳ないが、今日も立食式の夕食会がある。お前に来てもらうぞ」


 と、アンリ4世が言った。

 まさか、それだけの用で呼んだわけではあるまいな……。


 それにしても、またパーティか。嫌になるね。まあ、ビールでも飲ませてくれるなら、話は違うのだが。


「夕食会の件。承知いたしました。それで、わざわざ俺を呼んだということは、他にも何かお話しがあるのですよね? 」


「ああ。薬師試験に合格したらしいな? 」


「よくご存じで」


 オレリーあたりが伝えたのであろうか。


「ニックネームは、ヴィル・ポンポン。冒険者ギルドでは大道芸人として名を馳せているようではないか」


 なるほど。

 色々と俺の活動を知っているようだ。ということは、王族……もとい自分自身をネタにした歌も、アンリ4世が知っていてもおかしくはない。


「それで、その話がどうしたのですか? 」


「薬師試験の合格おめでとう。これを、直接言いたかっただけだ。もう下がってもよいぞ」


 アンリ4世がそう言う。

 ならば、俺も特に用事は無いので、ありがたく下がらせてもらうではないか。


「では下がらせてもらいます」


 そう言って、俺は国王アンリ4世の執務室を出る、





 アンリ4世の執務室から、ギヨーム王子が出ていく。

 その後ろ姿を、アンリ4世は眺めていた。一体、どういう気持ちで眺めていたのか、私には判らない。


「釈放してくださって、ありがとうございます」


 ギヨーム王子がドアを閉めたのを、しっかりと確認した私は、タンスの中から顔を出し、そう言った。


「ユウカ嬢。お主の提案どおり、ギヨームを追放することにした。これでブルゴヌ公爵の影響力を高めることを防ぐことは出来るだろう」


「そうですね」


「先日の夕食会での話なのだが、マリー嬢は相変わらずギヨームに近づいていた。しかも悪酔いしたギヨームを介抱するふりをして、自身の部屋に連れ込んだという報告を受けている。やはり、ブルゴヌ公爵家としてはマリー嬢とギヨームの婚約を破棄するつもりはないのだろうな」


 うそ?

 まさかの王太子継続ルート?


 私もスピンオフ作品をプレイさせてもらったけど、そんなルートは無かったはずだ。


「……既成事実が出来上がっているという懸念がありますね」


「確かにな……。仮に既成事実が出来ているなら、婚約破棄は一層難しくなる」

 

 国王アンリ4世がそう言う。

 その通りだと思う。しかも、仮にギヨーム王子の子を妊娠したとなれば、ますます婚約破棄への道は険しくなるだろう。


「一旦、その話は置いておきましょう。ギヨーム王子追放後の話ですが、今度は世継ぎをどうするか……です」


「シャルルがいるだろう? 」


「シャルル殿下は、ずっと高熱に悩まされているのはご存知ですよね? 」


「ああ」


 あくまでも放置しておけばの話だけど、いずれシャルル殿下は死ぬ。何故ならブレンニュ公爵家の息がかかった典医が、薬と称して毒を盛っているからだ。


 てっきり、マリー嬢がシャルル殿下に鞍替えすると思ったけど、そうはならなかった。


「もしかして! 」


 ふと思う。

 ギヨーム殿下は、薬師試験に合格したのだ。もしかしたら、既にシャルル殿下のことを診ているかもしれない。場合によっては、アッカ草が使われていることにも気づいている可能性もある。


「どうした? 」


「い、いえ。ちょっと懸念していることがありまして……」


 別にシャルル殿下が生存するのは良い。

 私だって、シャルル殿下に死なれて良い気持ちはしないからだ。しかし、もしもシャルル殿下が元気になれば、彼にもまた婚約の話が舞い上がってくるだろう。


「その懸念している事、とやらを話してくれ。些細なことでも構わん」


「やはりシャルル殿下の婚約相手を、何とかしなければなりません」


「なるほど。ギヨームを国外に追放したとしても、今度はシャルルをどうするかだな。先ほどは、シャルルを世継ぎにすれば良いとは言ったが……」


 と、アンリ4世が言う。

 何事もなければ、次の王太子はシャルル殿下になるだろう。


「いっそのこと、他国から娶りますか? 」


「ふむ? 」


「スコルランド王国は別として、例えば中央諸国同盟の加盟諸国から選んでもよろしいかと」


 中央諸国同盟と言うのは、ガリヌンス王国の東に位置する小国諸国による同盟であり、その盟主国は、慣例としてプロシアノ公国とアストリア公国が交代制で務めている。


 現在の盟主国は、アストリア公国だったはずだ。


「なるほど。検討する価値はあるな。ブルゴヌ公爵の影響力を高めず、またブレンニュ公爵兼スコルランド国王に対しても、ある種のメッセージになる」


 そう言うアンリ4世は、とても含みある表情をしていた。

 私が提案してあげただけなのに……。


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