第17話
タオドールに対する尋問の結果、ミハイルとやらは頻繁に王宮へやって来ることが判った。とはいえ、ミハイルの顔は知らないので、タオドールにはまだ協力してもらう必要がある。
だがそれよりも、まずはシャルルの病気を治す必要があるわけだ。
そのため、俺は薬師ギルドの付近にある薬草屋にやって来た。
ここでユルチャン草とキツチャン草を買うためである。
さらに調剤用の鍋や薬研、それに火炎バーナーも買いそろえる必要があるので、薬草屋で用を済ませたら、他の店を覗くとしよう。
「ユルチャン草とキツチャン草を、1葉ずつください」
俺がそう言うと、店主はユルチャン草とキツチャン草を、それぞれ1葉ずつ棚から取り出し、カウンターの上に置く。
俺は金貨2枚を支払い、ユルチャン草とキツチャン草を受け取った。
「まさか殿下ご自身がシャルル殿下を診るなんて、思いもしませんでした」
と、護衛の名目で俺の脇にいるオレリーが言う。
「担当の典医の知識が古すぎたんだ。ユルチャン草だけを煎じて飲ませていたものだから、なかなかシャルルの熱は下がらなかったんだよ」
テキトウに俺は嘘を言った。
だが薬師試験テキストによれば、昔はユルチャン草だけで解熱薬を作っていたのは事実なので、辻褄は合うだろう。
タオドールは、王族に対する殺人未遂を犯したわけだが、今はまだ最低限の名誉は守ってやるつもりなのだ。
「なるほど……それでシャルル殿下もなかなか熱が下がらなかったのですね」
「まあ、そういうことだ」
「ですが、腑に落ちません。そのような古い医学の知識しか無い者が、どうして王宮の典医になれたのでしょうか? 」
オレリーが、なかなか鋭い質問をしてくる。
タオドールの奴は、本当のところシャルルを殺害しようとしていたわけだが、奴とはある種の取引関係にある以上、それを暴露するわけにもいかない。
「俺もよく判らないが、典医の採用体制に問題があるのかもな」
こういえば、この場は誤魔化せるだろう。
「確かにそうですね。私はあとでマリーさんと一緒に採用担当を問い詰めてみるとします」
「……あまりお勧めはしないが、好きにしろ。だが俺はシャルルの看病で忙しくなるだろうし、一緒に採用担当を問い詰めるつもりは無いぞ」
「ええ。大丈夫です」
可哀想な採用担当……。
俺が変に誤魔化したせいで、こうして巻き込まれることになったのだな。すまん!
それから、また別の店へと赴き、店棚を覗く。
薬研や鍋などが揃えられている。
「すみません。調剤用の鍋、それに薬研と火炎バーナーをください」
「3つ合わせて、金貨10枚だよ」
俺がそう言うと、店主は店棚からそれぞれの商品を、カウンターに移した。代金を支払い、俺はそれぞれの商品を受け取る。
「毎度あり! 」
店主がそう叫ぶ。
店での用事を済ませた俺は、直ぐに王宮に戻ることにした。本当は1杯やりたいところだが、直ぐにでもシャルルに薬を飲ませてやりたいのだ。
※
さて、オレリーと一緒に王宮へと戻って来た俺は、直ぐにシャルルの部屋へと向かった。
「シャルル。直ぐに薬を作るからな。待っていろよ」
「兄さん。ありがとう。兄さん! 本当にありがとう」」
と、シャルルが涙を流しながらそう言う。
どうやら、とても嬉しいようだ。
その横で、俺は解熱薬を作る。まずは火炎バーナーにマッチで火を付け、鍋の中に入った水を沸騰させる。
その間に、ユルチャン草とキツチャン草の葉を薬研で粉末状にするのだ。元々、薬研と言う道具がこうなるのか知らないが、本当に粉末状になるのだ。日本の回転寿司屋で提供されるようなお茶の粉のようになる。
だから、そのままお湯に入れれば完成なのである。
さて、粉末状にしたユルチャン草とキツチャン草の葉を、沸騰したお湯の鍋中に入れた。
見る見るうちに、お湯の色は変わっていく。
「よし完成だ」
俺は用意していたコップの中に、ゆっくりとを解熱薬を注いだ。
「熱いから少し冷まして、ゆっくりと飲むと良い」
「うん」
そして、シャルルは解熱薬をゆっくりと飲む。これで熱が下がってくれると嬉しいのだが……。
「明日も来る」
「うん。ありがとう」
シャルルがそう言うのと同時に、俺はシャルルの部屋を出る。
相変わらず、シャルルの部屋の前には、誰が雇ったのか知らないが、私兵が立っていた。
「キミたちの雇い主は、一体誰なんだ? 」
ただ黙って立ち去るのもそれはそれで何だかモヤモヤするので、俺は私兵たちにそう訊ねた。
「……申し訳ございませんが、ギヨーム殿下にも我々の雇い主は明かせません」
「そうか」
ここで無理やり、吐かせるという手段もあるのかもしれないが、まず俺にそこまでの戦闘力は無いし、それに戦闘力に自信があったとしても、周りの目が有る以上は、難しいだろう。
因みにタオドールも、この私兵たちの雇い主が一体誰なのかは判らないらしい。
まあ十中八九、私兵どもの雇い主はミハイルとやらなのだろうが。
俺は大人しく、自分の部屋に戻ることにしたのであった。
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