第15話
「まさか、我が不肖の息子であるギヨームが、薬師試験に合格したことには驚いた。1カ月足らずの勉強で、本当に薬師試験に合格してしまうとはな」
国王アンリ4世が、そう甲冑姿の男に言った。
その甲冑姿の男の手には、小さな樽が複数入っている袋が握られている。
「私が期待したとおりでしたな? 」
甲冑姿の男がそう言うと、樽の入った袋を机の上に置いた。
そして続けて言う。
「前にご所望されたビールを持ってきました」
「これはこれは。どうもありがとう」
アンリ4世はそう言うと、直ぐに氷結魔法を放ち、樽の中に入っているビールを冷やした。それから、甲冑姿の男に樽1つを開けさせ、ワイングラスに注ぎ、それを一気に飲む。
「久しぶりだ。やはり、ビールは旨い」
何度かワイングラスにビールを注ぎ、そして飲み干したあと、残りを甲冑姿の男に渡した。そして飲むよう促す。
甲冑姿の男は、樽の中に入っていたビールを一気に飲み干した。
「ところで、ギヨームが薬師試験に合格したのは想定外だった。だが、薬師試験が難しいとされている所以は、単にこの国の識字率が低いからに他ならない。読み書きさえできれば、薬師試験自体は簡単なのだろう」
日本の医師や薬剤師と比べれば、この世界の薬師のレベルは限りなく低い。
だが、識字率自体が低いこの世界では、薬師試験も難関資格の1つとして位置づけられているのだ。
「確かに仰るどおりです。ですが薬師は少ないわけですし、ギヨーム殿下もなかなか立派な志だと思いますよ? 」
「奴は謎だ。あの一件以来、人が変わったような気がする。しかし何か心に秘めて行動しているのだろうな? 以前は、ただ正義だけを口にする馬鹿だったのに」
そう口にするアンリ4世は、既にギヨームの処遇を決めていた。
既に、ユウカ・バロヌからの手紙が届いており、彼女からの手紙には、ギヨームを国外へ追放すべきという提案が記されていたわけである。
アンリ4世は、その提案に応じたわけなのだ。
「しかし次期国王としては、やはり向かないと? 」
「ああ。だから奴について、最終的にどうするか、結論は変わらん」
そう言うアンリ4世には、一抹の不安もあった。
彼から見て、最近のギヨームは不気味なのだ。少し前のギヨームなら、良い意味でも悪い意味でも真っすぐな奴だったのだが、廃嫡後から急に態度が変わったのである。
もちろんこれは、廃嫡宣言の直後にギヨームとして転生したからの他にないが……。
「私は特に意見は言いませんが、陛下には不安があるように感じられます」
甲冑姿の男には、アンリ4世の不安感が伝わっていた。
だが、アンリ4世はそれを隠すつもりない。
「まあな。廃嫡後から、奴の行動がおかしくなったと思うのだ。廃嫡になったから、あのようになったのか……。それとも元々ああいう奴だったが、廃嫡を境に本性を出したのか。或いは、廃嫡の時期と重なったのは単なる偶然で、関係性はないのか……。ここ最近は、そればかり気になっている」
「そうだったのですね。陛下も口ではギヨーム殿下の変わりように期待しているとのことを言っておりましたから、私も今まで陛下が不安に感じていたなど、思いもしませんでしたよ」
甲冑姿の男もついさっき、アンリ4世が何やら不安に感じていることに勘づいたのである。
それまでは、単にアンリ4世がギヨームを期待しているのだと思っていたのだ。
例えば、ヴィル・ポンポンとして変な歌を歌うことや、薬師試験を受験したことなど、どれも悪事を働いているわけではない。
だが、これらのギヨームの行動について、アンリ4世はずっと不気味に感じていたのであった。
「まあ先ほども言ったとおり、奴をどうするかは、もう決まっている。それを変えるつもりはない」
国王アンリ4世は、そう言い切った。
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