第14話

≪ユウカ・バロヌの独白≫



 私はこの世界のことを知っている。

 前世で、私自身がプレイしていたゲームの世界だったからだ。どうやら私は、そのプレイしていた世界に転移したということが後になって判った。


 しかもユウカ・バロヌという、一応はゲームの主人公として……。


 だけど、転移したことが判ったとはいえ、それがオリジナルかスピンオフ作品かで、私の立ち位置は大きく変わる。

 後者の場合、私はとんでもないことになってしまうのだ。


 だから私は、どちらに転がっても助かるように、仕込みを入れることにした。


「ふふ。予定どおり、アンリ4世から手紙がきたようね」


 結局、私が転移した世界はスピンオフ作品のほうだった。マリー嬢からの嫌がらせが全く無かったからだ。

 それが判ってからは、より一層その仕込みに精を費やした。


 本当は仕込みなどという大それたことはせず、何もせずじっとしていれば、それだけで何とかなったのだ。

 だけど、私の意思とは別に、ユウカ・バロヌというこの体は、無実であるマリー嬢を貶めるような発言を次から次へとしたのである。


 当時は≪私≫という意思がはっきりとは無かったのだ。

 イメージとしては、朝起きて寝ぼけているような状況……そんな状況で私は嘘をつきまくった。



 結局、悪役令嬢のマリーが、幸せになる世界になってしまったのだ。

 私にとっては不幸になる世界である。スピンオフ作品に転生した以上、他者を気にしている場合ではないのだ。


 ところで、このガリヌンス王家は大変な状況にある。王太子だったギヨームは廃嫡され、次の王太子と目されているシャルルも、今は病を患っているわけだ。

 

 現状、王子はこの2人しかいない。


 その上、ブルゴヌ公爵の今以上の影響力拡大が懸念されているし、さらにはスコルランド国王兼ブレンニュ公爵もちょっかいを出しているという……とても複雑な状況であった。


 

 その状況を踏まえた私は、廃嫡イベントの前にある≪大きな仕込み≫を行った(おこなった)のである。

 

 当時、ゲームどおりギヨーム王子とべったりだった私は、何とかアンリ4世と話す機会を得たのである。


 そして、≪ギヨーム王子とブルゴヌ公爵令嬢の婚約が解消になるよう行動する≫と、持ちかけたのであった。


 もちろん、金銭的な報酬も条件に入れた上で……。

 

 さて、ブルゴヌ公爵家を警戒していたアンリ4世は、結論から言えば、話に乗ってくれた。


 おかげで私は、マリー嬢に対する諸々の嫌がらせについて、アンリ4世からの≪仕事≫を引き受けたに過ぎないという、言い訳ができるようになった。


 その後、私は≪仕事≫としてギヨーム王子を誑かし、マリー嬢と険悪な関係になるよう仕向けた。そして私の仕込みは功を奏し、予定どおりギヨーム王子は廃嫡となった。私も表向きは、処罰される立場を甘んじて受け、迫真の演技もしたのであった。


 それから、今は獄中にいる。


 だけど……


「ここまでは良かったんだけどね……まだ婚約解消にはなっていないんだよねぇ」


 順調に事が運ばれたと思いきや、ここにきて予定が狂う。


「だけど、仕方ないか」


 ブルゴヌ公爵としては、廃嫡されたとはいえギヨーム王子と娘が結婚すれば、王家と姻戚関係になれる。あくまでも自分の娘を政略結婚の道具として利用し続けるなら、わざわざ婚約解消を切り出すことはないだろう。


 それに、確か彼には次女もいたはずだ。ならば次女とシャルル王子をくっつければ、なおさら良い。


 だが、私としては困る。

 国王アンリ4世から依頼された≪仕事≫は、『ブルゴヌ公爵家と王家であるボルボン家の姻戚関係を阻止せよ』というものだからだ。

 私の申し出とは少々異なるが、どちらにせよ今のところ結果は出せていない。


 何とか≪仕事≫を完遂して、報酬を頂かなければならない。


「殿下には、犠牲になってもらうしかないかな? 」


 ギヨーム王子のことである。シャルル王子については、また別の勢力が彼を亡き者にしようと画策していると思うので、私は傍観するだけだ。


 犠牲にする……という具体的な内容としては、国外追放あたりが妥当だろう。そうすれば、流石にブルゴヌ公爵も、娘とギヨーム王子の婚約を解消するはずである。


 ギヨーム王子も単なるゲームキャラではなく、1人の人格を持った人である。それは、しっかりと理解しているつもりだ。

 

 もし私に、運命を変えるような≪力≫があれば……。



 貴方を犠牲にするような策は、一切考えなかったよ。

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