第11話
無事に薬師試験に合格した俺は、オレリーと共に冒険者ギルドにやって来た。
まだ正午にすらなってはないものの、もう今日はやることは無いし、今から飲んでも問題ないだろう。
「とりあえずビール2杯と、干し肉を」
俺はテーブルにつき、早々に注文した。
オレリーも毎回1杯だけは、ビールを飲む。だから俺は勝手に2杯注文したのだ。仮にオレリーが飲まなかったとしたら、俺が飲めば良い。
どうせ俺は2杯どころか何杯も飲むのだしな。
「改めまして、合格おめでとうございます」
と、オレリーが小さめの声で言う。
先ほど、大声でとんでもない発言をした人物とは思えないほどに。
「ありがとう」
「私は本気ですよ。殿下をお守りするのが、私の任務です。ですから、殿下が旅をされるのでしたら、私もついて行くのが筋だと思います」
ビール2杯と干し肉が運ばれて来た。俺は一先ず、ビールを流し込む。いつも、特に乾杯などはしない。
「オレリーが良いなら、俺は別に構わない。確かに旅の護衛も必要だしな」
「本当ですか!? 」
「ああ」
と、俺も返事するものの、ちょっとした懸念はある。
「ところで、上は承諾しているのか? 」
「いえ。まだ話してはおりません」
やはりか。
オレリー個人の話に留まっているわけだ。
「もしも、上が承諾しなかったらどうするつもりだ? 」
俺がそう言うと、オレリーはビールを一口飲む。
何とも言えない苦みが、とても爽快だ。
「その時は、近衛騎士を退職するだけです」
なんてことを言い出すのか……。
近衛騎士としてよりは、俺の護衛という役割を重要視しているのであろうか?
「近衛騎士を退職って、それは流石に考え直したほうが良いのではないか? 」
「いえ。私は近衛騎士団という組織よりも、ヴァロア家の一員としての立場に重きをおいているに過ぎません。他の家のご子息様たちも、自身の家に重きを置くでしょう」
なるほど。
もしかしたらオレリーは、貴族の娘なのかもしれない。
仮に貴族となると、やはりそういうしがらみもあるのだろう。まあ現代日本でも、例えば女性が結婚すると寿退社という流れも、まだ少なからずあると聞く。
俺は、そういうしがらみが、とても嫌いだ。仮に女性という立場で結婚したとすれば、俺なら強くそういう慣習のようなものを拒否しているに違いない。
ところで、オレリーはヴァロア家の一員としての立場に重きをおいていると言った。
オレリーが近衛騎士を辞めてまでも俺に同行するというのは、それがヴァロア家の方針だからということだろうか?
仮にそうだとすれば、≪ヴァロア家は一応は王族の護衛をしている≫と、そういう評判を高めることが目的なのかもしれない。
「わかった。ところで、俺はそろそろ始めるぞ」
ここに来たら、歌うのは日課である。
そして知らぬ間に、お金を得るのだ。
今日は久しぶりに、王族ネタでも披露しよう。
何というか、たまには日本酒でも飲んで≪桃中軒雲衛門とその妻≫という歌を歌いたくなるものだ。この歌は、俺は聴いている内にどういうわけか、気に入ってしまったのだ。
もっとも、俺からすればとても歌うのが難しい歌であるわけだが……。
いつも通り東京節を歌う。
それから、今度はテキトウに思い付いた歌詞で歌うのだ。今日もまた、元王太子ネタを披露した。
商売のつもりで歌っているわけではないが、観客の反応はいつも通りであり、今日もまた投げ銭をしてもらった。
「さて、そろそろ帰るとしよう」
そしてオレリーと共に、王宮への帰路につく。
一応、互いに王宮が住まいだからだ。
「殿下。今日も楽しかったです」
と、オレリーが俯きつつそう言った。
オレリーも意識もしっかりしているが、護衛として完璧な仕事が出来る状態ではないだろう。
「そろそろマンネリ化してくるだろうし、頃合いだと思うがな」
別に俺は芸人と言うわけではない。
偶然ならともかく、新しい芸を、継続的に編み出すことなどできやしない。
「私はまさか殿下が、あんなことをされるとは思いませんでした。今でも思い出すと、笑ってしまうくらいですよ」
王族や貴族は、堅苦しい楽しみ方しかしないのだろう。だから、俺の酔っ払い方は庶民的で、オレリーにとっては新鮮過ぎるのかもしれない。
そうして、色々と雑談しつつ王宮の城門に到着したのであった。ここで、オレリーとはここで別れる。
「オレリー。また明日」
「ええ。またビールでも飲みましょう」
…………。
さて、俺が自室に戻って直ぐの事である。
1人で試験合格の余韻に浸かっていると、執事がやって来たのであった。
「どうしたんだ? 」
1人の時間を潰されて、俺は少しばかり機嫌が悪い。
「本日予定されております夕食会に、殿下も来るようにと、陛下から伝言がありました」
「えっ!? 」
なんてことだ……。
もはや、オワコンの元王太子なぞ出席しなくても良いだろうに……。
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