第10話


「では筆記試験を合格したヴィル・ポンポン君には、これから実技試験を行ってもらう。今回は解熱薬を作ってもらう。また、実技試験では持ち点式の試験となる。つまり、ミスが多ければ多いほど持ち点は下がっていく方式だ」


 なるほど。

 減点方式ね。


「最後に、薬が完成したと判断したら、終了の旨を私まで告げるように。では早速、はじめてもらおうか」


 試験官がそう言い、俺は早くも試験に取り掛かることにした。

 

 解熱薬は、ユルチャン草の葉を2葉(2枚)分と、キツチャン草の葉を1葉(1枚)分をそれぞれ粉末状にした状態で網に入れ。沸騰させたお湯で煎じれば完成だ。


 まずは、火を起こして水を沸騰させておくために、俺はガスバーナーのような道具……火炎バーナーに向かって、火炎魔法を放った。

 その名称と使い方は、つい先ほど試験官に聞いたので把握している。

 

 結果的に無駄になったわけだが、火炎魔法は今日のために練習しておいたのである。王宮の図書室には魔法に関する書物もあるので、それを参考にしたのだ。


 スピンオフ作品でも、薬師試験を受けたマリー嬢は、解熱薬を作る試験であった。そして、火起こしに手間取った彼女は、火炎魔法を使うことで乗り切ったわけだ。俺やスピンオフ作品での彼女は、元は現代日本人なのだ。


 キャンプ好きならともかく、火起こしに苦労するのは、仕方のないことだろう。


 さて、水を沸騰するまでの間に、ユルチャン草とキツチャン草を1葉(1枚)ずつ、粉末状にして用意しておくとしよう。


 色々な葉が置かれているが、その中から適切な葉と分量を揃える必要がある。

 俺は慎重に、葉の形状を確認しつつ、ユルチャン草とキツチャン草の葉を1葉(1枚)ずつ袋から取り出した。


 それから、薬研という道具でユルチャン草とキツチャン草をすり潰したのである。その頃には、お湯は沸騰していたので、鍋の中にぶち込んだのであった。

 

 沸騰したお湯は、みるみる内に変色していく。

 これで完成であろう。


「終わりました」


 俺は試験官に、そう告げた。

 すると、直ぐに試験官から合否の発表が為された。100点満点で合格とのことだ。こうして、俺は比較的楽に薬師試験に合格したのである。


 ただ、それでもこの世界に於ける薬師は、そこまでレベルの高いものではない。

 日本の医師や薬剤師と比べれば、天と地ほどの差があることは間違いないだろう。


 とはいえ、俺はあくまでも、食い扶持を稼ぐ手段として薬師試験を受けたわけだ。この世界で求められるレベルのことを、今後はこなしていけばカネは入るだろう。


「ヴィル・ポンポン君。直ぐに薬師としての登録手続きをしたいかね? 」


 試験合格が判り1人で安心していると、試験官がそう訊ねてきた。


「はい。出来れば、すぐに薬師として活動できる状態にはしておきたいです」


「では、直ぐに合格証書を作成するので待っててくれ」


 直ぐに薬師として活動できる状態にしておくということは、仕事道具もそろえる必要がある。まあ、調剤用の薬研や鍋は、薬師ギルドの周囲にある店で売られていたはずだ。後で、覗いてみよう。


 ともかく、俺は試験官を待つことにした。

 そして、10分ほど経過して試験官が戻ってきた。


「これが薬師試験の合格証書だ。これを1階の受付に提出すれば、手続きが出来る。合格おめでとう。薬師は今や数が少ない。誰もなりたがらないからな。読み書きできる者は、ほとんど官吏や騎士……或いは商人を目指す。だからキミも薬師として励んでくれ」


 なるほど。

 識字率が低い上に、官吏・騎士・商人が人気となれば、薬師になる者は少ないのだろう。


「ありがとうございました。薬師として精一杯努める所存です」


 俺はそうお礼を言い、直ぐに薬師ギルドの1階に降りた。

 そして、受付のところへ急ぐ。


「薬師の登録手続きを行いたいのですが……」


「では、薬師ギルドのギルドカードと、薬師試験の合格証書をお預かりしてもよろしいでしょうか? 」


 受付嬢にそう促され、俺は薬師ギルドのギルドカードと、試験官から手渡された合格証書をカウンターの上に置いた。


「ヴィル・ポンポンさんですね……。確認が取れましたので、直ぐに≪薬師登録手続き済証≫を作成します。尚、合格証書はこのままお預かりいたしますね」


 受付嬢はそう言うと、まずギルドカードを返し、それから1枚の用紙を取り出し、記入を始めた。

 そして、記入を終えて、俺に手渡してきた。


「3日後に薬師カードが出来ていると思いますので、受け取りの際には≪薬師登録手続き済証≫との交換になります」


 そう説明を受けた俺は、直ぐに薬師ギルドを出ようと振り向くと、そこにはオレリーが立っていた。


「無事に合格できたようですね。おめでとうございます!」


「ああ。ありがとう。これでこの国ともお別れだ」


「えっ!? 」


 不意にオレリーが寂しそうな顔をし、そう言った。

 何か拙いことでも言ったであろうか……。


「どうしたんだ? 」


「いえ……ガリヌンスを離れるのですか? 」


「まあな。各地を旅したいと思ってね」


 ただ、旅をするには食い扶持を稼ぐ手段が必要だった。

 だからこそ、薬師試験を受験したわけである。まあ、冒険者ギルドで仕事するという手もあるが、それだと戦闘にもなるだろうし、俺にこなせるかが心配なのだ。


「各地を……? 」


「ああ」


 俺がそう言うと、オレリーは何やら考え込むように俯く。

 そして……


「旅を為さるのでしたら、この私も連れていってください! 」


 と、大声で言ったのであった。


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