第7話
ここはガリヌンス王国の王宮。
その王宮の、国王の執務室でのことである。
「以上が本日、冒険者ギルドで起った事の顛末です」
そう述べたのは、甲冑姿で中年の男だった。
「大道芸人ヴィル・ポンポンか……。そのアホがビールを何杯も飲み干した挙句、王族に対する不敬を働いたというわけだな」
ガリヌンス王国の国王であるアンリ4世が、そう答えた。
齢は、ちょうど50になる。髪や髭に白髪が混じっているが、むしろそれが貫録ある姿に映している。
因みに、既にヴィル・ポンポンは大道芸人として早くも認知されていた。
「はい」
「それで、そのヴィル・ポンポンとやらは元王太子であったとある王族の部屋に住んでいるわけだ」
「そう言うことになりますね……」
「ここは、不問にしよう。王権に対する毒抜きも必要だしな。それに大道芸人ヴィル・ポンポンとやらの活躍も、しばらくは眺めておきたい」
つまりアンリ4世は、王権に対する毒抜きと、息子の成長を期待したのである……と、少なくとも甲冑姿の中年男には、そう見えた。
「左様でございますか……」
甲冑姿の中年男はそう答えた。
彼は彼で、ヴィル・ポンポンにもう1つ期待していることがあるのだ。
「何を期待しているのか……。もう1カ月しかないのだ。流石に今年はきついのではないか? 」
アンリ4世は、甲冑姿の中年男が薬師試験のことについて期待しているのだと察して、そう言った。
「確かに1カ月しかありません。しかし、その行動力は半端ないものです。だからこそ期待してしまうのですよ」
「そうか。もう、王太子には戻れないことは理解しているようだ。だが、あやつにしてはそれを受け入れるのが早い気もするな」
アンリ4世が見てきた元王太子像と言うのは、まさにスピンオフ作品でプレイヤーに対して演出される王太子像と重なっている。
つまり、正義感の強く頑固な性格だということだ。
「左様でございますか……」
「あやつは、何というか保守的で頑固な奴だ。だから仮にあやつが、トラブルを起こすことなく国王に即位したしても、余は不安だったのだよ。もしもこのガリヌンスが改革に迫られた場合に、適切な判断ができるかとな」
実のところ、アンリ4世はギヨームを息子としては愛しているつもりなのだが、将来の国王としては全く期待していなかったのである。
むしろ、ギヨームを廃嫡させたかったのだ。
「ところで、ふと気になったのですが、ブルゴヌ公爵家からは婚約破棄の申し入れはあったのですか? 」
甲冑姿の中年男は、あえて話を逸らせようと、そう話題を振った。
「まだだ。確かに遅い気もするな。普通なら、あの場で書面による申し入れがあってもおかしくないのにな」
あの場と言うのは、ヴィル・ポンポンことギーヨムが、王太子の地位を剥奪された時のことである。その場には、マリー嬢の父親であるブルゴヌ公爵もいたのだ。
「もしかして、ブルゴヌ公爵は婚約を破棄する気はないのでしょうかね? 」
「だとすると困るものだ。やはりこちらから、催促してみるかね。いや、むしろ今度の夕食会で様子を窺うとしようか」
国王アンリ4世は、元々ある思惑からギヨームとマリーの婚約を、白紙にさせたかったのである。そして、先日のパーティー会場での出来事は婚約を破棄するにはとても良いタイミングであった。
ただ、問題を起こしたボルボン家……即ち国王一家から、婚約破棄を申し入れれば、たちまち貴族たちからの顰蹙を買うのは間違いないからだ。
だから、アンリ4世はブルゴヌ公爵からの婚約破棄の申し入れをずっと待っていたのである。
そして、甲冑姿の中年男が帰ろうとする。
「ちょっと待て。今度来るときは、ビールを持ってくれ。久しぶりに、また飲みたくなってきたからな」
「かしこまりました。今度ここへ参るときに、様々な種類のものをお持ちします」
「おう。待っている」
今度こそ甲冑姿の中年男は、国王アンリ4世の執務室を後にした。
この執務室は、アンリ4世のみとなる。
1人になったアンリ4世は、1枚の紙を取り出し手紙を書き始めた。
その相手は、なんとユウカ・バロヌだったのである。
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