第6話
ここは冒険者ギルド。
先日、大きなトラブルがあった場所に、俺は再びやって来たのだ。隣には、相手を突き刺してしまった当の本人、オレリーもいる。
「今日はギルドカードを受け取ったら、直ぐに帰るぞ」
「そうですね。トラブルは私も避けたいですし……」
と、オレリーも言う。
まあ、前回も必要なことだけを済ませたら、直ぐに帰ろうと思っていたわけだがな。
ともあれ、今日も荒くれ者のような連中が、朝っぱらから旨そうにビールを飲んでいる様子が目に入った。
そう言えば、最近は色々あって飲んでなかったな……。
一杯くらいなら良いか!
「早いところ、ギルドカードを貰ってしまおう」
俺は早く飲みたいので、急いで受付嬢のところへと向かった。
「ヴィル・ポンポンです。ギルドカードを受け取りに来ました」
俺はそう言って、≪冒険者ギルド加入手続済証≫を受付嬢に渡す。
「ああ、先日の方ですね。ギルドカードは出来ていますよ」
受付嬢はそう言って≪冒険者ギルド加入手続済証≫を受け取ると、カウンターの下からギルドカードと、小さな袋を2つ取り出したのであった。
何というか、準備が早いな。
それにしても、袋の中身が気になる。
「まずヴィル・ポンポンさんのギルドカードです。そしてこちら2つの袋は、冒険者ギルドからお二人への見舞金です」
俺は、ひとまずギルドカードと小さな袋2つを受け取った。
「見舞金ですか……」
「ええ。ギルド支部長の決定で、先日のトラブルに関して、お二人に見舞金を支払うことになりました。どうぞ、そのままお受け取り下さい」
「わかりました。頂戴いたします」
貰える物は貰っておこう。
「尚、ギルドカードを紛失された場合は、再度水晶に手をかざしていただいた上での再発行となりますので、ご了承ください」
受付嬢がそう言うと、俺は軽くお辞儀をしてから、その場を立ち去った。
向かう先は、テーブル席だ。
早くビールが飲みたくて、堪らないのである。
「そこの席にしようか」
荒くれ者のような連中が座る席とは、少し離れたところを選んだ。
「で、殿下……直ぐに帰られるのではなかったのですか? 」
と、オレリーが俺の耳元で囁いてくる。
何というか……オレリーが俺の体にすり寄ってきているみたいで、気まずい。もしも、このまま誘惑でもされたら、自我を失いそうな気がする。
「と、と、とりあえず座ろうか」
俺は裏返った声でそう言った。
「わかりました。ただ長居はオススメいたしませんよ」
「わかったよ」
そして俺たちが席に着くと、女性の給仕がやって来たので、ビールとつまみの干し肉を注文した。また、オレリーもアイスティーとクッキーを注文した。
酒場であっても、最低限は≪お茶会≫系の飲み物や食べ物もあるようだ。
因みに、冒険者ギルドの酒場は先払い制のようである。
「お待ちどうさまです。ビールとアイスティーになります」
ひとまず、飲み物が運ばれ来たので、俺とオレリーは乾杯する。
俺は、一気にビールを飲み干した。
「…………いつから、ビールなんてお飲みになったんですか……? 」
「何だ? ビールを飲むのはおかしいか」
「いえ……。ワインを少し嗜む程度だと思っていましたし、そもそもビールとはあまり縁がないと思っただけです」
なるほど。
王族や貴族は、酒と言えばワインしか飲まないのかもしれない。
確かに、ゲームでもパーティイベントが何度かあったが、そのシーンのイラストにはワインくらいしか描かれていなかった。
だが、俺はあくまでもビールが好きなのだ。
元王太子がワイン好きかどうかは知らないが、俺にとっては酒と言ったらビールなのである。
……。
グングンと快感がやってくる。
次第に高まる解放感。もはや俺は無敵だ。
「王子は間抜けで変態だ♪ 女の尻を追いかけて♪ 」
思わず、歌っていた。この歌詞は、スピンオフ版の王太子を馬鹿にするもので、ネット掲示板に書かれていたものである。ついにはメロディも追加されて、歌い手たちによる動画もあった。
気づけば、荒くれ者のような連中も笑みを浮かべながら、こちらを見ていた。オレリーも口に手を当てながら、必死に笑い堪えている。
そしてふと目をやると、つまみに注文していた干し肉も既に置かれていた。
「ふう。爽快だ! ビールもう1杯! 」
直ぐにビールはやって来て、俺はそれを飲み干す。
それから、また歌いだすのであった。
さて、オレリーには直ぐ帰るよう勧められている。だから、ここは素直に帰ることにした。だが、オレリーもビールを注文していたのだ。
彼女は顔を真っ赤にしながら、それをゆっくりと飲んでいる。
勤務中なのに大丈夫であろうか……。
もしも、後で上から叱られた時は、俺が無理やり飲ませたことにしておこう。
ところで、帰るタイミングを失ってしまったようだ。
そして、もはや周囲の者たちは観客と化としていた。もう一杯、ビールを注文しておくか。ついでに、即興で作ったテキトウな歌詞で、また歌うことにした。
「女をいじめて失脚した王子♪ 未熟な正義は借りを作る♪ もはや貴族から侮蔑の的だ♪ 浮気が全てを壊したぞ♪ 」
周囲の者たち、歓声を挙げた。
どうやら、元王太子の悪名は庶民にも広まっていたらしい。
そして、オレリーもビールを飲み干し、今度こそ帰ることにした。
冒険者の入口まで向かうと、女性の給仕が駆け寄って来る。
「お客さん! これ観客からの投げ銭だよ」
俺は、女性の給仕からお金を受け取った。
パッと見た限りでは、銅貨や銀貨が何十枚もある。仕方がないので、ズボンのポケットの中にそれら全てを入れたのであった。
「どうもありがとう。まさかカネがもらえるなんて思ってもいなかったよ」
女性の給仕にそう言い残し、俺はオレリーと共に王宮へと帰ったのである。
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