第5話


 冒険者ギルドでの一件から、3日が過ぎた。

 転生からは、7日目となる。


 その間、俺はひたすら≪薬師試験テキスト≫を読み、そして過去問を解きまくった。


「そう言えば、ギルドカードも出来たころだし、今日も王都へ行くとしようか」


 寝起きの俺は、そう呟くと直ぐに身支度を済ませて、王宮の城門まで向かった。


 本当なら、朝食の準備が整った後に執事が迎えに来るのだが、問題児の俺など、いなくても誰も気にしないだろう。


 ……とはいえ、迎えに来る執事が一応は俺を探すであろうし、その手間を省くために置手紙だけは用意した。

 単に一筆書いて、サインするだけの簡単な作業である。


「王都を散策したいので、通してくれないか? 」


 と、俺は城門を警備する中年の兵士に言う。

 

「また王都を散策されるのですか? まあ殿下にも色々あったのでしょうし、お気持ちは判りますが、護衛が1人もいない場合、我々としてはお通しできません」


「そう言われてもな……」


「では、近衛騎士を呼びに行かせますんで、殿下はここでお待ちください」


 城門を警備する中年の兵士がそう言うと、彼は若手の兵士に何やら指示をした。すると、若手の兵士は走って近衛騎士の宿舎へと向かったのであった。

 

 待つこと小一時間。オレリーがやって来たのであった。どうやら、また彼女が俺の護衛を務めるらしい。


「殿下。おはようございますお」


 と、オレリーが言う。


「お、おう。おはよう。今日もよろしく」


「こちらこそ」


 そして俺とオレリーの2人は、王宮の城門を出たのであった。

 最初の目的地である薬師ギルドまで、また2人で歩く。黙ったまま進むのは、とても気まずいので、適当に話題を振ることにした。


「最近は色々あってな。だから、オレリーの名前も忘れてしまったようだ」

 

 と、俺は言った。

 本当は転生前の元王太子の記憶がないだけだ。逆に、日本で住んでいたころの記憶ははっきりとある。


「それは……自業自得だとは思いますけど、殿下の身に起きたことを考えれば、記憶がおかしくなっても仕方ないとも思います」


「マリー嬢には、かなりひどいことをしたからな」


 実際にこの俺がやったわけではないが、スピンオフ作品で王太子は、男爵令嬢に唆されて、公の場でマリーに対して叱るということが何度もあった。その内容は、マリーの男爵令嬢に対する嫌がらせを、注意するというものであったが、その全てが男爵令嬢の嘘によるものだったのだ。


 当初は、周囲の者たちも便乗してマリー嬢のことを悪くいったものの、次第に男爵令嬢と王太子の異常さに気づき、最終的には国王の耳にも入り、4日前の出来事に至るというわけである。


 ついでに、スピンオフ作品の王太子は無能なくせして、やたらと≪正義マン≫だったのだ。まあ、オリジナルでも正義マンだったわけだが、オリジナルでは有能か無能かの描写は無かった。


「やっぱりユウカ嬢の影響が強かったのでしょうか……」


「ああ。影響を受けたのは間違いない。だが、マリー嬢にひどいことをしたのは、俺自身の問題だよ。まあ今は過去のことよりも、未来のことを考えないとな」


 とりあえず、今は薬師試験のことだけを考えれば良い。

 マリー嬢には今度会ったときに、とりあえず謝っておくとしよう。


 如何に、この元王太子が気にくわない奴でも、この元王太子が俺なのだ。

 また、俺が自由を拘束されることもなく、こうして生きている以上は誰に何を言われようと、必死に生きねばなるまい。


 そして、俺とオレリーは薬師ギルドへとやって来た。


「ヴィル・ポンポンです」


 俺は≪薬師ギルド加入手続済証明書≫を取り出しつつ、カウンター越しの受付嬢にそう言った。


「ヴィル・ポンポンさんですね……。ええっと、ギルドカードは発行されているみたいですので、少々お待ちください」


 名簿を見ながらそう言った受付嬢は、奥の部屋へと移動する。

 

「本当に薬師試験を受ける気なのですね……」


 と、俺の脇に立っていたオレリーがボソッと言った。


「当たり前だ。じゃなきゃ、薬師ギルドに加入するわけない」


 そして、奥の部屋から戻って来た受付嬢から、ギルドカードを手渡される。


「そちらが、薬師ギルドのギルドカードをになります。紛失した場合、再発行は可能です。ただ、他業種のギルドカードなど、身分証明になる物が必要になりますのでご注意ください」


「わかりました。ありがとうございました」


 薬師ギルドのギルドカードを手に入れた俺は、続いて冒険者ギルドへ向かった。



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