第4話


 冒険者ギルドの中は、酒場も併設されており、まだ午前だというのに荒くれっぽい男たちが酒を飲んでいる。


 変に絡まれるのは避けたいところだな。

 

 俺は、直ぐに受付窓口へと向かった。


「すみません。加入手続きを行いたいのですが? 」


 俺は受付嬢にそう訊ねる。


「加入手続きですか。ではまず、あちらに記入用紙がありますので、そちらの記入事項に記入してください」


 受付嬢が指差すほうを見ると、記入用紙らしきものが束になっているの見えた。


「わかりました」


 俺は、直ぐに記入用紙を1枚取り、必要な事項に記入をする。必要事項は、本名又はニックネーム・生年月日のみであった。


 そして、記入を終えて受付嬢に提出する。


「ニックネーム……ヴィル・ポンポンさんですね。では、今度はこちらの水晶に手をかざしてください」


 受付嬢は記入用紙を預かると、水晶を取り出してそう言った。俺は指示に従い、水晶玉に手をかざす。だが、水晶は何も反応しない。


「はい。ありがとうございました。3日ほどで、冒険者ギルドのギルドカードが発行されます。それまでは、こちらの用紙をギルドカード代わりにお使いください。またギルドカードをお受け取りになる際にも、そちらの用紙が必要になりますので紛失しないようご注意ください」


 と、受付嬢は言い、1枚の用紙を渡してきた。

 ≪冒険者ギルド加入手続済証≫というものだ。何というか……想像よりもあっさりと手続きが終わったな。


「どうも、ありがとう」


 俺はそれを受け取って、受付嬢のいるカウンターを後にする。


 冒険者ギルドの建物を出ようと、酔っている荒くれ者のような連中の横を、素通りしようと進む。


「ちょっと待ちな」


 ……。

 予想はしていた。まあ、根拠は無かったとはいえ。

 案の定、荒くれ者のような連中に絡まれてしまったのである。


「何か用か? 」


 あえて、イライラした感情を丸出しにして、俺はそう訊ねる。

 だが、相手はそれをスルーする。


「坊ちゃん、可愛い嬢ちゃんを連れているようだな? 」


 なるほど。

 目当ては、オレリーか。


 だが、彼女は俺の護衛である。

 なんというか、俺ではなく、その護衛が目を付けられるというのは、ちょっとした皮肉に感じられるな。


「目的はなんだ? 」


 あえて、そう訊ねる。


「惚けても無駄だ。あんたじゃ、この嬢ちゃんは守れないぜ? 嬢ちゃん、悪いことは言わないから俺たちのパーティーに入りな。そしたら、色々と可愛がってやるからよ」


 何というか、典型的な奴だな。


 しかし、この荒くれ者のような連中と戦って、勝てる気はしない。俺は、戦闘経験が皆無だからだ。


「可愛がってやるですって!? この近衛騎士である私を? 」


 と、オレリーが強気な口調で言った。


 先ほどまでとは、全く以て雰囲気が違う。どうやら、近衛騎士を務めるだけのことはあるのだろうな。


「そんなことは関係ねぇよ。嬢ちゃんが近衛騎士だろうがな? 」


 荒くれ者のような連中の1人がそう言うと、オレリーに掴みかかろうとした。俺は咄嗟にオレリーを庇おうとしたが、オレリーは素早く受け流し、レイピアで男の胸辺りを突き刺したのである。


「ぐふっ」


 男は胸を押さえて、座り込む。 


「まさか、本気で殺そうと? 」


 思わず、俺はそう声にする。


「咄嗟の状況で、殺すか否かなど判断できませんよ」


 と、オレリーは言う。


「……確かに、オレリーの言うとおりだな」


 それに胸を押さえて座り込んだ男も、死んだと決まったわけではないだろう。




「何の騒ぎだ? 」


 奥から、渋い声が聞こえてきた。


 振り向くと、顔以外の全身を甲冑で固めた男が立っていた。とてつもなく重そうなのにも関わらず、ズカズカと近づいて来る。


 顔から判断する限り、中年の男だろう。


「ふむ? 」


 甲冑姿の男は、俺の顔を覗き込んだ。


「ど、どうされましたか? 」


 俺は声を絞りながら、そう訊ねる。


「冒険者ギルドに、一体何を求めて来たのだ」


 男は、そう答えた。

 威圧感が半端ない。


 この男だけには、絶対に逆らってはダメだな。


 現に、荒くれ者のような連中も固まっているからだ。ここは、素直に質問に答えつつ、加入の目的も言うとしよう。


「冒険者ギルドにも加入しに来ました。冒険者ギルドに加入しないと薬師ギルドに加入できないものですから。薬師ギルドに加入したいのは、薬師試験を受けたいからです」


「なるほど、薬師試験か……。まあ薬師試験の内容までは判らないが、健闘を祈る。だが、1つ聞きたい。どうして、この男はどうして胸を押さえているのだ? 」


「私が、レイピアで突き刺しました」


 と、オレリーが答える。


 これは拙いな……。ここから、彼女が近衛騎士だと白状した場合、護衛対象である俺の正体をバレるかもしれない。


 そうなると、また国王(父)の怒りを買いかねない。


「なるほど。先に手を出したのは? 」


「当然、この男です」


 オレリーが言う。


「周りの者にも訊く。先に手を出したのは、どちらだ? 」


 甲冑姿の男が周りに訊ねると、荒くれ者たちは、胸を押さえて座り込んでいる男が手を出したのだと証言したのであった。


「よし分かった。キミたち2人は、帰ってくれて構わない」


 甲冑姿の男から許可を貰ったので、俺は逃げるようにして冒険者ギルドを後にする。


 それから直ぐに薬師ギルドへ戻り、加入手続きと薬師試験の受験手続きを済ませ、≪薬師ギルド加入手続済証≫という書類を貰った。


 もちろん、冒険者ギルドと同様に、ギルドカードとの交換に必要なものである。


 最後に甲冑姿の男のステータス確認でもしておくか。




―――――――


? 年齢43 男


職業 ギルド支部長


レベル56


HP638


攻撃力250(+50)


防御力236(+100)


魔力0(+0)




特記事項 元はガリヌンス王国の近衛騎士団長だった。


―――――――


 


 なるほど。逆らわなくて良かったな。

 


 今日は大人しく王宮へと戻ったのであった。


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