第26話 ゴブリン村・下
――《ミナは【ゴブリン村を討伐せよ】を引き受けた!!》
達成条件:敵対的なゴブリン村を滅ぼす 14/15
報酬:四天王になる
「ゥアアアアアアアア!!」
数秒前まで緑だった赤黒い拳が、まるで死神の鎌のような形相で命を狙ってくる。
それを壊れぬ棒切れで受け流し、そのままその腕を切り裂こうと―そこで、気付く。
全く斬れない、ということに。
まるで木の棒で鉄を切ろうとしているかの如く、浅傷をつけることすら叶わない。
「ガァアアア!!」
むしろ余計に怒らせただけのようだ。
その上再び【鑑定】しようとしたところ、
《個体名【ミナ】のスキル【鑑定】は現在使用不可能です》という声。
相手のスキルか何かの影響か?
…全く、楽に勝てる相手だと思っていたんだが。
そう考えている間も、拳は常にこちらを狙い続けている。
拳の豪雨を避けながら他のスキルも確認していくと、【傲慢】以外のスキルは全て使えない。
元々【傲慢】以外はほぼ使っていなかったとはいえ、【剣術】や【体術】なども使えなくなっているので刀を使ったり体術を使う腕は明らかに弱体化しているはず。
先ほど腕を切り落とせなかったのも、もしかするとそれが原因か?
とはいえ、相手の攻撃もかなりお粗末なものだ。
なんせ、【剣術】と【体術】が失われた今の私ですら捌けているほどなのだから。
しかしこちらからの攻撃も全く通っていない。
となると、どこか弱点でも見つけられない限りこの戦いは泥沼化しかねんな。
ひとまず、まだ腕にしか攻撃を入れていないのだし、一気に近づいて胴体にでも攻撃してみよう。
もしかしたら、胸元に力の源みたいなものがあったり…
「グルァアアアアアアア!!」
…ないようだな。もしくは、あったとしても私の技量が足りなくて届いていないか。
チッ、厄介なやつだ。どうすれば…っ!
その瞬間、目の前に迫る拳への対応が、0.1秒遅れる。
ほんの一瞬だ。
しかし、その0.1秒が戦いの場でどれほど大きな影響力を持つかは身に染みてわかっていた。
つまり、久しぶりにぶっ飛ばされた。それも、かなりの勢いで。
まだウォリアーだった頃に2階に行って蹴り飛ばされたあの時などとは比べ物にならない。
殴られた勢いをそのままに、後方にあった家の柱にぶつかり、数秒意識を失う。
ふと目が覚めると、なにやら薄暗く、身動きがとりづらいほど狭い場所に居た。
どうやら、あのまま大破した家の瓦礫の下敷きになってしまったようだ。
ひとまず近くの木を退けようと手を伸ばし、驚愕。その木が吹き飛んでいったのだ。
しかしそんな思いとは裏腹に、体は動き続ける。
どんどんと周りの木や皮をどかし、ついには瓦礫たちの中で直立することに成功。
―この状態には、身に覚えがある。
前回は全く動かなくなってしまったが、今回は違うようだ。
それに、確かに条件を満たしたと言って差し支えない状態だしな。
…【私】?いるのか?
『おや、気付いたのか?』
そりゃあ、2度目だからな。
『ん?…そうか。まぁそれはいいとして、「私」よ。これ…どうするんだ?』
さてどうしたものか…正直、歯が立たなくてほとほと困っていたところだ。
『まぁ、そうだろうが…お、「体」が向かっていくぞ?』
…そういえば、私が体を動かしていない間は【私】が動かしているわけではないのか?
だとすれば今私と話している【私】は一体何をしているんだ?
『…あー、その辺りは話していなかったか。まぁ結論から言えば、そうであるとも言えるし、そうでないともいえる。【私】…つまり【傲慢】というスキルは言わなくてもわかっているだろうが、通常のスキルよりいくらか特殊な存在でな。「スキルそのものが体を動かすことが可能」なのさ。つまりはオート機能みたいなものだ』
そこまでは予想がついている。しかし、だとすれば今私とこうして【私】が会話しているのは少し不自然というか、納得できない部分があるんだが?それにさっき、自分で操作しているのなら出てこないようなセリフが出ていたような…
『あ~…そうだな…噛み砕いて説明するからついて来いよ?先に行っておくと、「私」はこの【傲慢】というスキルをほとんど理解していない。…まぁ、当然かもしれないがな。まず大前提として、「【傲慢】は身体機能を向上させる」というのは良いよな。次に、「「私」が意識を失ったり負けたりすると体の操作の権限が【私】に移る」というのも良いな?そして最後、ここが一番難しいところなんだが、「【私】はあくまで【傲慢】を司る精霊のようなものであり、システムと私は別人物」だということなんだ。…あー、つまり、「【私】が操作することも出来るが、私ではなく【傲慢】の…システムの手に操作の権限を渡すことも出来る」ということだ。前世で言うところの「スマホゲームを自分がプレイするか他人がプレイするかオート機能にするか」みたいな感覚に近いかもな。そんで、今まではオートは発動しなかったのが、この間の一件で私たちが仲直りというか…まぁそうなったおかげで使えるようになった…って感じだ』
あー…なるほど?
つまり、本来【私】が操作することも可能なところを、システムのオート操作にぶん投げているということか。
『…長々と説明した部分を全部ぶん投げてはいるが、まぁそういうことだな』
…まぁいいか。死なないなら。
『まぁ、大丈夫じゃないか?少なくとも攻撃を避けるくらいのことはシステムでも可能だし、それに【暴走状態】のおかげでステータスも上がっている』
ふむ。じゃあ今のうちに聞きたいことをいくつか聞いても?
『システムがヤツを倒すまでなら多分可能だな』
充分だ。
まず最初に、普段【私】は何をしているんだ?
『あー、いきなり結構深い所から来たな?そうだなぁ、基本的には大体全部やってるな』
全部というと?
『全部は全部さ。【傲慢】の発動とか、「私」が暴走したときの体の操作とか、次の段階に向けての調整とか…』
次の段階というのが気にはなるが、一旦置いておいて、【私】が私の体を操作したことなんてあったか?
少なくとも、この間のあれ以降私が【私】に操作をゆだねたことは1度もないはずだが…
『…ああ「私」、もしかして2回しか暴走していないと思っているのか?』
ん?最初にも言ったがそうだろう?
『あー、道理で。2回じゃなくて3回目だぞ?』
…は?
『【傲慢】を最初に獲得したときだよ。あの時は誰がどう見ても負けていただろう?だから私が操った。どうも「私」は自分で動かしていると思っていたようだがな』
…そうだったのか。
『因みにあの時…ソウイツに襲われそうになった時に動かしていなかったのは、「私」の感情がぐちゃぐちゃだったせいで動かしづらく、その上動かした次の瞬間には体の制御を取り戻そうとして来ていたからだ』
…よくわからんが、わかった。
『まぁそれでいいさ。…ああ、システムの方もそろそろ終わりそうだな』
なっ、こんなに早く…!?
『まぁ暴走したことで普段より更にステータスが上がっている状態だからな…あと数秒で戻るはずだ』
まだ聞きたいことが…
『また今度会えた時にでも話そう』
―気が付くと目の前には、「
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