第25話 ゴブリン村・中

―《ミナは【ゴブリン村を討伐せよ】を引き受けた!!》

達成条件:敵対的なゴブリン村を滅ぼす 6/15

報酬:四天王になる


とあるゴブリン村。

その村の一番奥の最も大きな家で、今、一匹のゴブリン・キングが頭を抱えていた。


(…クソッ、一体どうなっているというのだ!?何故こんな時にいきなりスケルトンの進化個体なんぞが攻めてきた!?それも話によればナイト種だというではないか!!…まさか、あの件か!?)


このゴブリン・キングが頭を抱えている理由。それは、つい先ほど見知らぬスケルトンが村に押し入り、村のゴブリンたちを次々に殺しているという報告を受けたからである。

これでもゴブリンとしては珍しく20年間ほど生きており、処世術は身に着けていた。

しかし、スケルトン、それもナイトレベルの相手が村に来るなどという経験は初めてだった。

その上、このゴブリン・キングは極力戦闘を避け、逃げ続けてこれまで生きてきたのだ。

実際の戦闘能力では、「ナイトと戦っても一応勝てる」程度の強さしかない。

何故こんなことになっているのか、彼には思い当たる節がなかった。

あるとすれば、先日とある理由で魔王からの登城の招待に行かなかったことくらいだ。

とはいえ、それも仕方のないことだった。

というのも、その前日に森からウルフ共がやって来ており、その対応の際に足と腕を負傷し、家で療養していたのだ。

そんな状況だったから、意図していなかったとはいえ魔王からの登城の誘いを無視することになってしまった。

当然そのことについては謝罪をするつもりでいて、今日の朝には傷が治ったので、ちょうど向かおうと思っていたところだったのだ。

そんな時、突然スケルトンの進化個体が村に現れた。


(まさか魔王様がこれほどに短気だったとは…どうする、どうすれば良い!?今すぐ外に出て謝罪すれば許してくれるか!?いや、このようなものを送ってきている時点で既に魔王様は俺、ひいてはこの村を見捨てたのだろう。となれば謝罪したところで受け入れてもらえるとは到底思えない…というかそもそも、あのスケルトンに知識があるかすら危ういところだ。となれば今できる最善の手は…ヤツを倒し、その事実を隠したまま城に向かってあの件を全て謝罪すること、というところだろうか…?しかし俺にスケルトン・ナイトを殺せるのか…?いや、殺せるのかではない、やるしかないのだ…クソッ、全てはあの犬畜生共のせいだ!!)


とりあえず心の中で責任をウルフたちに被せ、彼は家の外に出た。

しかし外に出た彼の目に見えたもの、それは。




つい数分前までそこにあった家を構成していたであろう木々の柱と、魔物から取れた皮。

それらの間から流れ出ている赤いものと、その中にあるいびつな木の枝のような何か。

赤いものがかかっているそれをよく見てみれば、その木の枝は先が5本に分かれている。


―あの場所には、昔惚れたメスゴブリンが住んでいたはず。


自身の頭を振ることでそんな思考を消す。


(きっとあれは、赤い木の実とその木の枝だ)


そんな木の実も木の枝も、見たことはないが。


(そう。だから、他の場所にある、ゴブリンの手や足に見えるものや、ゴブリンに見えるものもきっと、他の魔物の皮か何かで作られた偽物だ)


スケルトン・ナイト一匹程度に、こんな惨劇が繰り広げられるわけがないのだから。


「ぃやあああああああ!!」


鋭い悲鳴。

急いで辺りを見渡すと、一匹のメスゴブリンが、家から飛び出して来るところだった。

よく見てみれば、それは昔一目ぼれしたあの娘だった。

一瞬安堵したのもつかの間、そのメスゴブリンの後ろからスケルトンが一匹、姿を現したのだ。

そのスケルトンが剣を振りかぶっているのに気づき、急いで駆け寄る。

駆け寄ってくるこちらに気づいたのであろう。

追いかけられていた娘もこちらを見つめ、一瞬、何かを言おうと口を動かす。


―しかし、遅かった。


彼女の目がこちらを捉えた次の瞬間、既にその剣は振り下ろされていた。


王の目に映るのは、倒れていく彼女の体と、徐々に光が失われていく彼女の瞳。


その光景を王が目にした瞬間、足元の地面がなくなった。

そして頭によぎるのは、彼女と話をした光景。

彼女が、こちらを振り返り、「どうしたの?」と―


ゴブリン・キングの喉は燃え、その瞳は赤く染めあがった。


―初めて好きになったメスだった。


もしかしたら、初めて子を成す相手だったのかもしれない。


―赤い花が良く似合う娘だった。


森や草原でその花を見つけるたび、彼女を想った。


―それが、今、目の前で死んでいる。


目に光がない。あの娘の笑顔はもう二度と見られないのだろう。


―何故?


―俺が城に行かなかったから?


―ウルフが襲って来たから?


―魔王が想像以上に短気だったから?




違う。


違う。


違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う

チガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ!!


あいつだ。目の前のあいつが、あの娘を殺したのだ。


―ならば、どうする?


逃げるか?ナイトだから?村を滅ぼされたから?


―いや、違う。


殺すんだ。

村なんて最悪どうでもいい。俺が死ぬのも関係ない。

ただ、初恋の相手を殺したあの魔物だけは、絶対に許せない。


―逃げ続けた一生だった。


そのせいで、彼女を助けることすらできなかった。


―だけど、その仇は今、目の前にいる。


なら、殺すしか、ない。


《条件の達成を確認しました》

《ユニークスキル【復讐之鬼】が覚醒します》

《条件の達成を確認しました。個体名【イ=デム】の特殊進化を開始します。》

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


side.ミナ


子供やメスゴブリンたちを殺すために家に入ったところ一匹のゴブリンが逃げ出してしまい、そいつを追いかけて殺した時だった。


「ゥアアアアアアアアアアアアア!!」


突然、一匹のゴブリンが叫び出した。

鑑定してみたところ、どうやらゴブリン・キングだったようだ。

自分の村を襲われて、怒ったのだろうか?

だとすれば、もっと早く出て来いよ。

そうすればさっさと終わっただろうに…まぁいい。

他のゴブリンは大体死んだし、こいつを殺せば終わりだろう。

そう考え、近づいていく。すると次の瞬間、ヤツのステータスが「ゴブリン・キング」から「彼岸鬼ひがんのおに」へと変化していたのだ。

彼岸…死んだ?…ああ、「ゴブリンが大量に死んだせいで進化した」とかか?

まぁどうせステータス的には勝っているだろう。

とはいえ、長期戦になると面倒だ。さっさと片づけるとしよう。

それに、1週間ほどLv45から上がっていないし、この機会に上がってくれると助かるんだが。

そんなことを考えつつ「彼岸鬼ひがんのおに」へと近づいていく。

すると、相手もこちらへと近づいてくる。

しかも、その鬼が歩くたびに足元に赤い彼岸花が咲いているのだ。

故人を悼んでいるとでもいうのか?意味が分からない。

…とはいえ、もしかしたらそれも攻撃なのかもしれないし、注意はしておかなければ。

彼岸花は毒を持っているというし、もしかしたら毒を操ってきたり…?

私の体に毒なんかが効くとは思えないがどうなんだろうか?


まぁいいか。取り敢えず殺そう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る